ビンゴ
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「……で、で、で、で、ででででででででで」
良子ちゃんの頭の中では、ディープキスしているシーンが浮かんでいるのだろう。壊れたラジカセのように連呼する良子ちゃんの顔は赤くなり、頭からは煙が上がっている。
「……できないなら」そう私が言おうとした時だった。
「したいです」
良子ちゃんは小さな声でいった。
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「リョーコ。ドア開けて~」
医務室のドアの向こうからジュンさんの声が聞こえた。よく通る、聞き心地の良い声だ。
恐らくジュンさんの両手は食べ物で塞がっている。良子ちゃんもそのことを感じ取ったのか、チャンスとばかりにドアの方へと駆けていった。
良子ちゃんはドアを勢いよく開け、ジュンさんに抱き着く――――。ジュンさんは銀のトレーをひょいと上げ、抱き着いてコアラの子供みたいになった良子ちゃんをそのまま連れて、私の座るテーブルまで歩いてきた。
何という体幹の強さ――――。
良子ちゃんの考えた『押し倒してディープキス作戦』は見事に失敗した……。
◆◆◇
「ねえ、ジュン! チューしよ、チュー」
「はいはい。大人になったらね」
作戦に失敗した良子ちゃんは、実力行使に出ていた。だが、そんな良子ちゃんをジュンさんは見事にいなしている。
「お二人は仲良しなんですね……」
苦笑いしながらそう言う私にジュンさんがすかさず答える。
「すみません。他の人がいる所ではこんなんじゃないんですけど……」
なるほど……。良子ちゃんはジュンさんと二人っきりの時はこんな感じなわけね。私は理解した。
「少しぐらいしてあげたら~。良子ちゃんだってもう大人だよ~」
私がそう言うと、ジュンさんは唇に少し力を入れた。顔が少し赤い。すると――
「リョーコは渡しませんからね!」
そう言って、ジュンさんは良子ちゃんを自分の腕の中に隠した。
ビンゴである。ジュンさんは良子ちゃんに気がある、私の直感は間違えない。
まあ、というより。隠し通路から出てきて、抱きつかれている時のジュンさんが私へ向ける視線は純粋な殺意があった。あんな目を出来る人になら殺されてもいい……そう思ったぐらいだ。
一旦、それは置いといて……
「でも、二人はまだチューもしたことないんでしょ? そしたら、良子ちゃんの初めては私が貰っちゃおうかしら」
煽るぐらいならこのくらいでいいだろう。…………いや、充分過ぎたか。
ジュンさんは小さく「リョーコは私のものだからね」と良子ちゃんの目を見ていうと……キスをした。
なんて綺麗なキスなんだろう…………。
ジュンさんは時折、目を開け私を見る。その瞳には「あなたには渡さない」そう言われている気がした。