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ラップで包むときの要領

◆◇


「「せーの」」


 私と良子ちゃんは医務室に一人でお見舞いに来た『勇者:カイト』を、地下室へと続く螺旋階段の上から落とした。


 十秒ほどして鈍い音が聞こえた。


「あさりさん……今ので死んだんじゃないですか?」


「『勇者』はそんな簡単には死なないわ。まあ、当たり所によっては手足が明後日の方を向いてるかもしれないけれど」


 


 勇者の子はクラスメイトの良子ちゃんではなく、私のお見舞いに来たのだ。まあ、お見舞いというのは建前で、この年代の男児ならごく当たり前な年上女性に対する生理的欲求に従ったものだ。


 実際に良子ちゃんだって、胸とお尻が他のクラスメイトより小さいものの。充分と言えるほど顔は可愛い。


 勇者の子はベッドに誘うと、なんの疑いもなくやってきた。私は目を潤ませ、勇者の子の胸元に抱きつく。すると、初めに聞いた――言葉の一部だけが取り除かれた内容を繰り返した。


「安心してください。僕がみんなの代わりに魔王を倒します!」


 興覚(きょうざ)めである。《汚血レベル》無量大数の名折れもいいところだ。


 私は背中に腕を回し、前世の自分から頂戴した(かんざし)型の麻酔針りを彼の首元に刺した。




「じゃあ、良子ちゃん。下に降りてさっさと片付けましょうか」

「はいっ! 了解です」


 下に着くと、勇者の子の手足は明後日どころか一昨日の方を向いていた。地面に着いた衝撃で起きたのか、痛みで起きたのかはわからないが「なんで……なんで」と繰り返している。


 『勇者』といえど万能ではない。回復役のヒーラーさんがいなければ、一昨日の方を向いた手足を元の位置に戻すことはできない。


「まずはシーツを広げてから、巻きましょうか」

「了解ですっ! ……巻く?」


 良子ちゃんはテキパキとシートを広げ、しわを伸ばした。そして、二人で足を引っ張って移動させる。


「あさりさん……なんでこんな角に置くんですか?」


「ああ。野菜とかをね、ラップで包むときの要領と一緒でね。まずは四角形の角から中心に向かって真ん中ぐらいまで巻いて、三角形の両端を中央に向けて織り込むの。そしてまた巻くと…………あら不思議! 長期保存に最適なラッピングの出来上がり――――」


「おおー! さすが、専業主婦!」


 勇者の子は包まれもなお、何かを叫んでいる。さすが、勇者の子。生命力がすごい。


 揚げる前の春巻きみたいになった勇者を棺桶に入れ、医務室から持って来た消毒液を良子ちゃんに渡す。


「良子ちゃん、顔の方にはかけないでね。窒息死しちゃうから――――」


「あっ……もうかけてます」


 ドボドボとシーツの上から消毒液をかけられ、勇者が息苦しそうにしている――――。


 急いで、勇者を棺桶から取り出し。巻いたシーツをほどいた。危ない、危ない、危うく簡単に死んでしまう所だった。


 これは事前にちゃんと教えてなかった私の不始末だ。


「良子ちゃんごめんねー。私、足の方からかけてって言ってなかったね」

「私こそ、ごめんなさい。消毒液かける前にあさりさんに聞けばよかったのに」


 勇者は咳き込んだ後、慰め合う私たちふたりを見ていった。


「……狂ってる。……あんたら、ふたりとも狂ってる」


 


「「でも……あなたほど、汚れてないわ」」


 私と良子ちゃんは『せーの』の合図もなしに……そう言い返した。

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