無量大数
「……くちゅん」
未曾有のスギ花粉により、この時――。亀井あさりは鼻腔に残っていたスギ花粉によって、一万回目のくしゃみをした。
異世界人の召喚が行われた城の中庭で、堪えくしゃみをした私に……同じく転移してきた学生さんたちの視線が一瞬集まる。
だが、私と同じように召喚された人間たちは誰一人として気づいていない……。
『私……亀井あさりがこの世界で、暗殺者として生きていた前世を思い出したことを』
私の能力は他人の《汚血レベル》が見えること。《汚血レベル》とは、一種のDNAのようなもので先祖代々受け継がれ、私は前世で暗殺者として《汚血レベル》を受け継ぎし者たちを闇へ葬ってきた。
つまり……《汚血レベル》を有する者は、生き残った末裔ということだ。
「召喚されたお前たちにはこれから魔王討伐に尽力してもらう。一切の異議は受け付けない」
神官の中の一人がそう言ったときだった――――。
「いやあああああああ」
女の子の悲鳴が聞こえた。同じ制服を着た女の子たちが、崩れ落ちた女子学生に駆け寄っている。
「……そうよ。……だめよ」
私もその場に立っていることが出来ず、崩れ落ちてしまった。そうなのだ……召喚された学生含め――神官たちの中に《汚血レベル》を有する者がこんなに大勢いては……。
興奮して立っていられない――――。ガクブルする体を必死にこらえる。
はあ……はあ……はあ……。息が荒い。
そんな私に一人の学生が駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか? 安心してください。さっき自分のステータスを確認したんですけど、僕『勇者』みたいなんです。僕がみんなの代わりに魔王を倒します!」
「……ダメよ。そんなの……」
だって……あなたの《汚血レベル》は10の68乗……つまり、無量大数はあるもの――――。
突然の《汚血レベル》無量大数に興奮した私は、頭に血がのぼり……気を失ってしまった。