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盗賊王リックの手記

作者: 木こる

数万年前に栄華を極めたとされる幻の超古代文明都市フィガデア。

識者の間では『そんな都市は存在しない』という派閥もあったそうだが、

これまた超難易度の迷宮を突破した先にそれらしき遺跡が発見され、

頭の固い連中もその存在を認めざるを得なかった。

そこには数万年もの間に独自の進化を遂げた魔物共が蔓延りやがって、

とても学者たちが安心して調査を行えるような環境じゃなかったね。


そこで俺たち冒険者の出番ってわけだ。

冒険者とは読んで字の如く、危険を冒して日々の糧を得る者たちだ。

主に魔物をぶっ殺して報酬を稼ぐのが俺たちの仕事。単純だろ?

そんな単純な奴らが一攫千金のチャンスを求めて世界中から押し寄せ、

このフィガデアの地で冒険活動を始めたんだ。




俺はリック。

周りの奴らと同じく金目当てで訪れた冒険者の1人だ。

職業は盗賊で、戦闘より探索で役に立つタイプだと思ってくれ。

ただし俺は他の盗賊とは違う。

普通、盗賊ってのは短剣や弓の扱いに長けてたりするんだけど、

俺はその辺、てんでからっきしなんだわ。

素早い連続攻撃とか華麗な回避術とか、そんなもんに期待されても困る。


俺の唯一のアドバンテージは“罠解除率99%”だ。

同業者がせいぜい95%止まりなことを考えると大きな強みなんだが、

数字が読めない層にはこの素晴らしさがどうしても理解できないらしい。


残りの1%は新米の頃にやらかしちまった失敗をカウントしてるせいだ。

それを除けば成功率100%ということになるが、それはフェアじゃない。

むしろその時の失敗が罠解除を極めようと思うきっかけになったわけだし、

片目を失ったおかげで眼帯がトレードマークになり、味方が覚えやすい。

痛い思いはしたけど、いい経験になったと今では感謝してる。




んで、10年間いろんな冒険者パーティーに参加させてもらったんだが、

もう何度追い出されたんだか数える気にもならんね。


『お前も前に出て戦え』とか言われても、

戦闘面がクソザコだって情報は加入前にちゃんと伝えたよな?

手先の器用さだけが取り柄だし、商売道具の手を大事にしたいから

武器を持たなくてもいいって前提で了承してただろ?

魔法使いにハンマー装備させてる時点でだいぶ怪しかったが、

やっぱり脳筋な連中とは反りが合わなかった。


『宝箱を開ける以外では役立たず』とか言われても。

うん、だからそうなんだって。

戦う力は無いけど、誰よりも安全に宝箱を開けられるのが強みなの。

あと古代人が遺跡内部に仕掛けた石化トラップの解除とかね。

俺を追放したパーティーが数日後に石像と化してたのを見かけた時は、

なんともやるせない気分になっちまったよ。


パーティーの財布が消えた時、『盗賊のお前が怪しい』って、酷いだろ。

おとなしくボディーチェックを受けてカバンの中身も見せたのに、

『どこに隠したんだ』って完全に犯人扱いされて不愉快極まりなかった。

そりゃ俺は聖人君子じゃないけど、仲間を裏切ったことは一度も無い。

結局犯人はギャンブル狂いの僧侶だと判明したけど、

あいつらから謝罪の言葉はただの一言も無かった。

『疑われる方が悪い』だの『もう終わったことだから』だの、

どうしてああも頑なに自らの非を認めようとしないのかね。




とまあ、他にも嫌な思い出ならいくらでもあるが、

俺は最後に良い思い出を胸に冒険者稼業を引退させてもらう。


10年にも及ぶ戦いの末、遺跡に巣食う魔物が完全に排除されたんだ。

これで学者たちが安心して現地調査に専念できるようになって、

フィガデアの地における冒険者の出番はこれにて終了というわけだ。


ほとんどの冒険者は大した収入を得られなかったみたいだけど、

一刻も早く遺跡調査をしたい学者たちが助成金を出していたのもあり、

とりあえず10年間は最低限の衣食住を確保できただけマシだったろう。


冒険者たちが去ってゆく。

知っている顔が随分と減ってしまい、一抹の寂しさを覚える。

彼らはまた別の地で一攫千金を目指し、戦いの日々を送るのだろう。


だが俺は違う。


俺はこの10年で誰よりも賢く立ち回り、巨額の富を得ることができた。

それはもう、一生遊んでも使いきれないほどの大金……一攫千金を。




どうやったかって?

単純だよ。俺はお宝を売ったんだ。


宝箱を開けたら中身がほとんど風化してたもんだから、

他の冒険者たちはすんごくガッカリしてたっけ。

だけど、なんで気づかない?


その箱は数万年もの間、そのままの形で残されてたんだぜ?


当時の保存技術が低かったせいで中身は駄目になってたけど、

外側は無事だったし、しっかりと罠も作動するようになっていた。

どいつもこいつも中身の無い宝箱には興味が無かったから、

片っ端から俺が回収して、それを欲しがってる奴らに売ったんだ。


そんな空箱を誰が欲しがる……って、そりゃ学者だよ。

あいつら、遺跡内部の安全が確保されるまでは

冒険者が持ち帰った物しか調査できなかったからな。

金を払ってでも調べたいって考えの連中なんだし、

俺はそのお望みを叶えてあげてやったまでだ。

よくわからんが、あの箱には学術的な価値があるんだろう。


まあこっちも慈善事業じゃないから多少は吹っかけたりしたけど、

相手もその値段で納得して買い取ったんだから正常な取引のはずだ。

買いたい奴が2人いたら、高く買ってくれる方に売るのは当然だよな?




そんなこんなでチンケな盗賊だった俺は、空っぽの宝箱を売りまくって

気がついたら小国を買い取れるくらいの大金を手にしてたってわけよ。

とにかく、これでもう不安定な生き方をしなくて済む。

荒々しい連中の機嫌を損ねないように顔色を窺う必要も無くなった。


さ〜て、この金で何をしよう?

どこか平和な国にある農地でも買って、

家畜の世話をしながらのんびり暮らすのもいいな。

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