陸族館
浜辺でひっくり返っていた亀を助けたおれは、そのお礼に竜宮城に招待され、存分なもてなしを受けた。しかし、何日も同じ場所にいると、さすがに飽きてきた。海の中はどこを見ても同じような景色ばかりなのだ。
「なあ、乙姫さん。どこか面白い場所はないかい?」と、飽きもせずクラゲと戯れている乙姫に訊ねた。
「あら、でしたらいいところがありますよ。海の住人に大人気の場所です」
「ほう、それは面白そうだ。ぜひ、案内してくれ」
おれは乙姫に手を引かれて、海の中を泳いだ。竜宮城に来る際に亀がくれた海藻を食べたおかげで、海の中でも呼吸ができるのである。さあ、何を見せてくれるのだろう? タイやヒラメの踊りも悪くはないが、もっと海ならではの不思議なものが見たい。
「どうぞ、こちらです」
「ほーう……」
乙姫に案内された建物の中には、四角い透明な石がいくつも並んでいた。その中には何やら生き物がいるようだった。
「どうです? とっても珍しいんですよ」
「あー……」
「あら、不満そうなお顔ですね。ふふふっ」
「いや、タヌキに熊、猪と、この石の中にいるのは地上の生き物ばかりじゃないか」
おれがそう言うと、乙姫はクスクスと笑った。
「ええ、ここは陸族館ですから」
「陸族館? それは……つまりなんだ? 陸の生き物を閉じ込めているということか?」
「ええ、大事に、大事にお世話をしているんですよ」
「だから、それのどこが……ああ、海の中の連中からしたら珍しいのかもしれないな」
「ええ、そうなんです。特に人気なのがこちらです」
「えっ、これは……」
おれは驚いた。乙姫が指差した石の中に、なんと老人がいたのだ。そして、そばの看板にはこう書かれていた。
「浦島……太郎……?」
「ええ、でも今日からそこにはあなたの名前が書かれるんですよ。彼は最近元気がないので、地上に戻してあげることになったんです」