表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

怪談

花が咲く理由

「夏のホラー2024」のテーマ「うわさ」に参加中の作品です。

 小学四年の頃、作った怪談話を友達同士で話すことが流行っていました。

 当時、怪談ブームでテレビでも怖い番組をやっていたり、本もいっぱいありました。

 なので、似たような話を作っては、私も友達に話していたのです。




「校舎裏にある花壇の端っこ、あこそだけ、花がいっぱい咲くじゃん。あれ、なんでか知ってる?」


 私はその日も、友達B、C、Dに、作った怪談話をしていました。


「え……?」


 私と同じで怖い話好きのCの表情が、固まりました。


「なになに?」

「なんで?」


 みんなの反応が嬉しくて、私は続きを話します。


「あそこには、死体が埋まってるんだって」

「えぇ?」

「えっ? なんで花がいっぱい咲くの?」

「埋められた人が見付けてほしくて、花をいっぱい咲かすらしいよ」

「こわぁ」


 前日に、テレビの怖い番組で見たものを、自分なりにアレンジしたつもりでした。


「……それ、昨日テレビでやってたのを見たよ」


 Cが言いました。


「なんだぁ、Cちゃん見てたの?」

「うん。昨日やってたの話したら、すぐに分かっちゃうって」


 Cは、強がっているようでしたが、声が上擦っていました。


「それに、よくある話だよね」

「でもさ、確かに校舎裏の花壇の端っこって、花が良く育つよね?」


 Bが言いました。


「よく日が当たるからじゃない?」


 Cがすかさず答えます。


「そうだっけ? 結構暗い感じだと思うけど……」


 今度はDが言いました。

 Cは、二人がまさか私の作った怪談話を後押しするとは思っていなかったのでしょう。どこか焦っているような雰囲気でした。


「どうかしたの? 体調悪い?」

「いや、そんなことないけど……」


 いつもだったら、テレビで見た怖い話でも、ワクワクしながら聞いてくれるCの様子が、私は気になっていました。

 でも、BとDは普段通り。


「ねぇ、放課後に見に行ってみない?」

「うん、そうしよ!」

「えっ?」


 Cの顔が、明らかにギョッとしていました。


「でっ、でも、A(私)の作り話だし……」


 Cがそう言うのと同時に、チャイムが鳴りました。



 放課後になり、私達は校舎裏へと向かいました。

 Cも渋々といった様子でついてきました。仲間外れにされるのが嫌だったのでしょう。

 季節はもう秋だというのに、校庭側と違い、校舎裏は梅雨時期のようにじめじめしていて、暗かったことを憶えています。

 でも、私が作った怪談話の通り、花壇の隅っこの花の苗だけ、蕾をいっぱいつけていたのです。

 私達は、なぜか近寄らず、いや近寄れずにいました。


「ほら、やっぱり暗いし、ここだけいっぱい蕾がある」


 Bが指差して、私達に言いました。


「今は夕方だから……」


 Cは、どうにかして否定したいような感じでした。


「じゃあ、朝も来てみる?」


 Dが言います。


「そしたら、ここに陽が当たるか分かるじゃん」


 私はCの様子がやはり気になっていました。

 彼女は、少し震えていたのです。


「Cちゃん、嫌なら……」

「い、いいよ。確認してみようよ」


 強がりなのは、分かっていました。

 それに、これはただの作り話。

 そのことを一番分かっているのは私でしたが、花壇の一部だけ花がいっぱい咲くことを知らなかったのです。

 何か触れてはいけないことだったのでは……私は、この時思っていました。



 翌日、いつもより早くに登校した私が校門前に着くと、BとDの姿がありました。


「あれ? Cちゃんは?」

「まだ来てない」

「先に行ってよ?」


 Cが来るのを待たず、私達は校舎裏に向かいました。

 朝の爽やかな風が、校舎裏の花壇に近付くにつれ、じっとりとしてきているような感覚がありました。

 これは思い込みだ、と私は自分に言い聞かせていました。

 そして、校舎裏の花壇の前に立った時。


「花が……咲いてる……」


 私は呟きました。

 花壇は、やはり校舎の影に覆われていました。

 でも、咲いていたのです。昨日は蕾だったのに、そこだけいっぱい花が……


「他の花は咲いてないのに、なんで?」


 Bの声が震えていました。

 私達は怖くなってしまい、急いで教室に行きました。

 Cは、その日高熱が出たといって、学校を休みました。

 そのことがまた私達の恐怖に拍車をかけてしまったのです。

 その日の内に、私達は他の友達に校舎裏の花壇のことを話しました。Cの熱もそのせいではないか、と。

 気付けば学校中に広まり、校舎裏の花壇の花を見ると呪われるという噂になったのです。



 翌日、Cは普通に学校に来ました。

 ただの風邪だったと、Cは私達に言いました。

 しかし、校舎裏の花壇を担当していた低学年の子達が噂を怖がってしまい、しばらくは先生達が交代で花の手入れをしていました。

 先生の中でも特に、低学年を担当していたY先生が、熱心に花壇の手入れをしていたようです。授業も分かり易く、とても優しいと人気の先生でした。

 Y先生は、最後まで花壇を残そうとしていたようですが、児童数が減って、先生達の人数も少なくなり、校舎裏の花壇は私達が卒業前に花をすべて抜くことになりました。

 花壇の花をすべて抜く日。

 休み時間に、珍しくCが顔を青くして、私達に言いました。


「あそこには……本当に死体が埋まってるの」

「え?」


 どういうことかと尋ねる私達に、Cは小声で話し始めました。


「私、見ちゃったんだ……Y先生が、あそこに猫の死体を埋めてたの……」


 私達は、Cの話にただただ驚いていました。


「か、飼っていた猫ちゃんが死んじゃって、埋めたの、かな?」


 Bがやっと声を絞りだせば、Cが大きく首を横に振ります。


「殺したんだよ……!」


 突然のCの大声に、周りのクラスメイトも目を丸くして、こちらを見ました。

 でも、Cはもう気にしていないようでした。


「Y先生、校舎裏にいた猫を殺してたの……! それを、あの花壇に埋めて、隠してるのを、見ちゃったのよ!」


 それから、教室内が大騒ぎになってしまい、その日の午前で児童全員が帰宅することになりました。

 驚いたことに、花壇から動物の骨が本当に出てきたのです。

 それも、大量に。


 なんの動物の骨なのか……なぜそこに埋められていたのか……


 先生達からは何も説明はありませんでした。


 その日を境に、Y先生が学校に来なくなった理由も――



 その後、花壇はなくなり、供養のために小さな石碑が立ちました。

 小学を卒業した今では、Cとはそこまで話すことはなくなりましたが、BとDからはその石碑の前には、今でも雑草がよく花を咲かせているという噂を聞きました。

 暗くじめじめしているあそこに花が咲く理由は、埋められた猫や犬の呪いなのでしょうか。


 まさか、自分が作った怪談話が怖い噂となり、本当のことになってしまうとは……


 そして、今。

 気付けば、家の庭の端っこに、よく蕾をつける花があります。

 母には、絶対に掘り返さないで、と伝えています。


 噂話は、そのままにしておきたいので――





 ~了~

お読みいただき、ありがとうございます!

よかったらブックマークや評価、いいねをしていただけると励みになります(*^-^*)

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 学校の怪談(リアル版)って感じがして面白かったです! トイレの花子さんなどよりも実際にありそうな感じがするのがリアルだと感じました。 [一言] 確かに下に栄養があればもの凄く育ちそう……。…
2024/08/15 12:39 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ