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壊し

皆様、こんにちは。

今回からホラー的ダーク的な小説を書かせていただきます。かなり自分でも攻めていると考えてますので好き嫌いがだいぶ分かれる作品であると思ってますが、挑戦したいと思い立ち、指を走らせました(?)

楽しんでくださると幸いです。では。




※一部、女性の方は不快に感じてしまう描写があるかもしれません。嫌悪感を抱く方は読まないなどの選択肢をされると宜しいかと思われます。大丈夫な方はご了承の上、お読みください。では。

…人類は数十年もしないうちにAIに寄生される。いや、寄生しているのはどちらだろうか。地球という星はAIの星なのだろうか、それとも人類の星なのだろうか。


機械仕掛けの世界は何のために息をしているのだろうか。故に自分は考える。


…自分は何になりたいのだろうか。


人外町にある葬寒楼の店主は金払いがそこそこ良く、人外町の学生からすればいい安置だ。時給1000円〜その働きに応じて時には1200を上回ることもある。ただ、葬寒楼はただの店じゃない。表は中華料理屋だが、中はそうではない。


閑古鳥が鳴き、薄明かりの指す円卓が幾つか。その上には彼の趣味だろうか、動物の置物がいくつか置いてある。鼠に虎、蛇に馬。十二の干支でも彷彿とさせているのかと思えば、蛙やら蟷螂やら…何とも不気味な風貌である。


ガラガラと音を立てる引き戸を開けるとそんな中身が見える。鼻の奥にも響くような香辛料と…煙草の匂い。工業地帯の外でも感じ取れないような煙たさは鼻も視界も悪くなる。


「やぁ。また来たの。若いのに偉いねえ。」


…その煙の発端は勿論、店主である。

年齢不詳。時代など等に過ぎた骨董品の煙管を用いて、煙を蒸すのが得意な男。長さ不揃いの髪は首筋から胸まで落ちる三つ編みにされている。


瞳は隠されて、顔には所謂モノクルと言われる片眼鏡があった。店主は店の最奥…壁につけられた背もたれの高い椅子に緋色の机に膝下までのブーツを履いた脚を乗せて笑っていた。


「金が必要だから?…それとも、僕に恋でもしちゃった?」


八重歯を見せるその少年くさい仕草はこの男の胡散臭さを加速させる。首を横に振っても彼は貼り付けた笑みを剥がさない。前者はともかく、後者は知ったことではない。


「今日の仕事は。」


…喉の奥まで煙の入る嫌悪感が走る。

これならば生憎の大雨であろうと外にいた方がマシだった。仕事を取りにくるために肺癌などになっては元も子もない。


店主は灰皿に煙管の灰を全て捨て、立ち上がる。歩き始め、止まると目の前にあった窓を一つ、ガラガラと音を立てて開ける。


灰色の雲は分厚く、工業地帯の空は号泣していた。雷のせいで慟哭にも近いだろう。しかし、灰色のビル街を歩く人の姿は変わらない。生きるためならば何だってやってのけるのが人だ。私だって、危ない橋は渡る。


「…キミぐらいの学生にはあまり仕事は与えられないんだけどね。」


そう言う店主の姿は窓のそばにはない。再び椅子に座ると緑のファイルをバラバラと開けていた。後ろにある本棚から取り出したのだろう。


「僕たち、人の仕事は限られている。人類が楽にしよう発明したAIは感情を持ち、一つの命として大成した。…僕たちの仕事はそのAIから出る歪みを壊すこと。」


初めて見開かれた翡翠色の目に私が映る。

店主はニヤリと笑うと一枚の紙を見せてきた。


「機動隊や警察もAIが殆どだ。人間のやることなんて足で稼いで地道に店をやるしかない。…そこで僕たちのような人間がAIの悪事を裁く必要がある。このOL型AIはご主人様を殺したんだとさ。」


…またか。

AIは殺しに慈悲の概念を持たない。だからこそ、人間のように躊躇せず、いとも簡単に殺してしまう。自身は死んでも直されるし、バックアップさえ取れば生きてられるのだから。


「対象の特徴は栗毛のロングヘアー。顔は丸型で目はキリッとした切れ長。唇は薄く、鼻はそこまで高くない。体型は中肉中背。…コードはA、簡単な部類。…ここまで来たら後は簡単。探し出して、壊すだけだ。」


そう言うと店主は一つの何かを投げてくる。


「キミでも使えるようにしておいたよ。…僕の青龍刀。」


重厚な感触は本物と言わざるおえない。細い腕はその物の自重に耐えきれないかと思っていたが、軽量化がなされているようで。左右上下振っても肩がいかれない。


しかし、コレクションのうちの一つだからと言って見せて来なかったのにこれはどういうことだろうか。基本、壊しは店主の仕事である。私も何となく認められたということだろうか。


「…壊しは店長の仕事では。」


「あぁ、それねぇ…。いや、何せ、バイト君たちがこぞって辞めちゃってさー。壊すだけなら僕一人でいいんだけど、捕まえる作業までは結構、時間がね。…だからおねがぁい。壊しまでやってきて。」


…申し訳なさそうなその表情も信用ならない。しかし、他のバイトが躊躇する理由もわかる。


機械とはいえ相手は人型。…壊しは殺しと同類なのだ。


「…もしかして…難しいかい?」


「いえ。やります。」


「頼もしいねぇっ!!…今回はコードAだし。抵抗されても武器とか搭載してないからキミが怪我することはないと思うよ。」


…この人は断言をしない。

何々だと思う、何々だといい。他人行儀でかつ責任を放棄する。まるで子どもだ。今も見せる笑みは本物なのか偽りなのかわからない。しかし、断る必要もない。壊しの報酬はいつもよりも高く付く。


「じゃあ、頼むよ。小岸華ちゃん。」


背後から聞こえるあっけらかんとした声を最後に件のOL型AIの住むマンションへと自転車を進める。


見える景色はまるで地獄。

人間は汗水垂らして働き、AIは身体を酷使することなくデスクワークで成り立っている。デスクワークも過労する仕事の一つだが、それは人間だからのこと。AIはコンピュータの力を借りて算出したものをコンピュータに打ち出すだけ。座りながら充電もしているため、過労も知らない。その上、今の人外町の資金はほとんどがAIの功績なのだから自然と人間は野放しだ。


名前も養育費も要らない。

病気にも罹らず、整備費も自分で稼いでくれなおかつ納税に文句も言わず、教育もいらない。頭のいい学者がその分野をAIの搭載すればAIがその分野の権威となり、新たな同志を作り出す。


…まさに産業革命が発展し過ぎた弊害といえる。楽にしようとした人間たちが食い物にされている。それを今の政府連中はうまく付き合っていこうと言い宣う。


支持派はAIを持つお金持ちばかりで、反支持派は衣食住も療育も取られたのだから支持に回るしかない。金回りのいい仕事は自然とAIに割り振られ、教育機関は数年で失墜。人外町を含むいくつかの都市部は残る物の農村や山村は地図にも本にも残っていない。


テクノロジーは人間を支配する側へと回ったのだ。だからこそ、残った町は人以外が住む町『人外町』と成り果てる。我々人間は住んでいるとは何かと考えさせられてしまうのである。


…くだらない話は終わりだ。

件のOL型AIの住むアパートを見つけた。至って普通の二階建てのアパートの104号室の扉をノックする。


中から聞こえてきたのは澄んだ女の声だった。ガチャリと開けられ、見えたのは件の共通点に当てはまる人間を模した者だった。


「誰?」


中には子どもも一人。

小学生低学年ぐらいの歳の子だろうが、AIだろう。人間とAIの同棲は難しいのだから。


女が見えた瞬間、青龍刀の包帯を取り、刃を首筋へと向ける。


「…歪みを持しAIを処罰しにきた。万漢の小岸だ。」


「ひっ!?」


女は腰を抜かして玄関の土間に尻餅をつく。ネジ一本も見えないほど精密に作られたその体躯は人らしさをより加速させて生々しい肉体美を持つ。ピンク色のスカートから見える足だって、肉付きのいい女性のような丸みを帯びたものだ。


「な、なんなの!?いきなり…!?貴女、そんなものをチラつかせて…警察呼ぶわよッ!?」


…恐れたかと思えば金切り声を上げる。

それでも汗をかいているように見えるので虚勢を張っているのだろう。


「…生憎様だが、警察は呼んでも来ない。ウチの頭領は繋がりがあるんでな。お前は殺人の罪がつけられている。」


「さ、殺人!?ですって!?…そんな…そんなこと…してなッ!?」


問答無用で青龍刀を前へとつく。

すると刃幅の大きい鋭利な刃は主婦のワンピースを裂き、左肩に大きな亀裂を産んだ。流れるのは血…ではなく、石油のような油だ。ドロドロとしたそれがピンク色の布を茶褐色に染める。女は痛みも感じていないのに喚き声を上げる。悲鳴はアパート内に無論響くが、助けに来ることはない。


警察も周りの人間も万漢についてはよく知っているからだ。相手に回してはいけない。それが染み付いているからか、我が子同然の者にすら見限られる。


「ヒギィ…あぐぁ…私が…何をしたって…んぐぅっ!?…言うのよ…!?」


「…お前は元のご主人を殺したな。」


…女性型AIによる撲殺事件。害者は裕福な外資系企業の社長をしていた男で渾名に脂豚と呼ばれるほど不衛生な見た目と堕落しきった腹を抱えていたらしい。その豚が顔の原型を留めないほど殴られ、死に絶えた。と店主からは話をもらっている。


AIの拳は鉄。

岩をも砕くそれは勿論、人間を滅多打ちにすることだってできる。骨なんて簡単に脆く砕けてしまう。


「ひぐっ…仕方なかったのよ…!!アイツは…私のことを…ただの孕み袋だと…考えていたッ!!だから、死んで当然だったッ!!」


…涙ながらに訴えるそれは強姦された女の様子と瓜二つだった。肩に青龍刀を生やし、押さえているこの状況を見て、人間の警察なら此方を逮捕しただろう。


しかし、それは人間ならばの話だ。


AIは人の子を孕めず、性的快感は覚えない。そして、AIは夜の仕事専用の機器にしかそういった性能を持たず、作られやしない。この女はそういった境遇だったのは調べがついている。青龍刀を引き抜き、再び女の首筋へと近づける。


「…私も女だ。貴女には同情する。…でもね。AI法には役職をこなす義務がある。どんな経緯であろうとそれは適用される。」


…これに関しては可哀想なことだろう。

例え、どんな過激なものであろうとAIは嫌悪感を抱かず、抱かれる為、全てが和姦とされてしまう。AIが感情を持ち、AIに人相応の権利が認められた今でもその風習はどこかで色濃く残る。


警察も真の意味で公正に判断するが、プログラムを書き換えられればどちらにも優位に働く。結局は技術を持った人間が一番強くなる。歪みが大きくなる前に私たちが動かなければ、その歪みは成長していて伝播する。人間に対するデモ行為は阻止せねばならない。機械との戦争を未然に防ぐために。


「ありがとう。片付けてくれて。」


バラしたOL型AIは店主の元へと持っていく。メモリーデータを改竄し、犯行の記録を無かったことにする。殺しは犯罪だが、それは一度の死によって償ってもらったという考えだ。


「しっかし、すごいねぇ。…四肢ももいで、首までイって…って。見た目だけなら人間なのに。ぶつ切りにできちゃうんだからキミの精神性も恐ろしいね。」


ブルーシートに包まれた鉄屑を見て、微笑みながら頷く店主。裏も表も見せないその様は悪の親玉にしか見えない。


「これから直しの作業に入るよ。…これも生み出した人間のやらなきゃいけないことだからね。」


「…殺人犯もテロリストも全て直すんだな。」


…そう言うと店主は困ったように笑った。

どこにそんな力があるのかと思えるほどの細身で100キロはゆうに超えるであろうブルーシートに包まれた鉄塊を店の裏へと運んでいく。コイツもこれに耐えられる自転車も一体何で出来てるのだろうか。疑問は募るばかりである。


運び終わった店主は封筒と共に戻ってくる。渡された封筒には3枚の千円札が入っていた。


「こんな紙屑でもまだ利用価値があるんだから凄いよね。」


産業革命とデジタル革命のせいで紙幣というものの利用頻度がどんどんと下がっている。今やデジタルの金を使う頻度が9割型を占めており、コンビニエンスストアですら紙幣や硬貨の運用を嫌がるほどである。皮肉だ。納税もデジタル化され、取引もデジタル。銀行券は刷り続けられるだけの紙と化し、使えは出来るものの手持ち無沙汰となってしまう。


それでも私の住むアパートは古風なもので、家賃収入を現金で払わなければならないのでこうして得る必要があるのだ。


「…使えないわけじゃないがな。」


「ん?そう?…でさ。さっきの質問。直さなきゃならない…ってのは理由があるんだ。あの子の殺した外資系の社長さん。手首から無数の穴が見つかった。…明言は避けるけどさー。部屋から注射器だって見つかってる。」


…なるほど。しかし、それだけでは自らの身を破産するだけだ。店主も爪をヤスリで擦りながらめんどくさそうに話している。


「それで。お薬の売買もしてたみたいでさぁ。うちのシマじゃ御法度な訳。人間はそれに手を出して機械を壊しちゃダメだからってまだ禁止でしょ?…それやられちゃ、この歪み直し以外の人様の商売成り立たないってんでこっちで追っててさ。…それで死んだって聞いて思ったよ。…ザマァってね。」


最後だけ声色が変わった。

いつも飄々としているのに、低くそして威圧感があった。どこまでいってもこの男の素性は見えてこない。笑みが消えたその顔はすぐにいつもの顔へと戻る。貼り付けられた笑みとシャーペンで書いたんじゃないかと思うほど細い目に。


「それじゃあ、後はこっちでやっとくからさ。華ちゃんはゆっくり休んでて。次はまた連絡するから。」


そう言って店主は奥へと帰っていった。


好評であれば続けていきたいと考えてます。それまではゆっくりと。暇な時に書ければなと考えてます。


店主と華ちゃんに関してはもっと掘れたらいいなと。ごちゃごちゃしないように頑張ります。質問等があれば感想欄にて。では。

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