危険思想統制法
『皆さん!この国を犯罪のない、素晴らしい国にしましょう!危険な思想を持っている奴は、どんどん罰していきましょう!』
高崎氏の見るテレビの向こう側、国会で政治家が薄っぺらいご高説を垂れていた。拍手が起きる。なんでも新しい法律が可決されたらしい。その名も危険思想統制法。
これまでは憲法によって思想の自由が認められており、行動に移さなければ問題はなかった。しかしこの度保守的だった政府が政権交代によって変わり、ヘンテコなやつが総理大臣になってしまった。改憲によって憲法に思想の自由の記載がなくなり、更に追い打ちをかけるように新たな法案を通した。
危険思想統制法——要は危険な思想を持った時点でしょっぴかれるようになったということだ。これにより、政府は犯罪がなくなると本気で思っている。
「ま、思想なんて持ってるかどうか第三者からは分からないしいいや」
高崎はたかを括っていた。こんなヘンテコな政府はあっという間に交代するだろうと見当をつけたからだ。
『私どもはこの法案を機能させるために、科学研究所やIT企業と連携し、思想検査機なるものを製作いたしました。それがこちらです!これにより、人々の中で危険な思想を持っている者だけを浮き彫りにすることができます!』
画面の向こうでは、総理の真横に二メートルほどある機械が不気味に鎮座していた。高崎は耳を疑った。嘘だ、それが罷り通るなら、これからこの国はとんでもない事になってしまう。高崎は大いに焦り、テレビに釘付けになった。
『この機械は半径100メートル圏内にいる人間の中で危険思想を持っている人間を感知して、近い者から電流を流して失神させます。さあ!早速起動させてみましょう!この中に、危険思想を持っている奴はいるか〜?』
会場に緊張感が走り、一気にざわめいた。総理大臣は何かに取り憑かれたかのように、不気味な笑みを浮かべて機械のボタンを押した。危険な思想を持った人間を罰したいという思想が、彼を駆り立てたのだろう。
故に、その機械が『人を罰したい』という危険な思想を持った総理に近づき、失神させたのは言うまでもない。