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後悔と懺悔

作者: 凡庸な理系

こんにちは。

今回はいつもと違い幸せな物語にチャレンジしました。

『美香、こっちにおいで…。』

おばあちゃんの、優しくって、それでもって心が落ち着く。そんな声に呼ばれて、私は今日もおばあちゃんの元へ駆け寄っていく。

おばあちゃんの膝、ここがいつもの私の定位置。

ここに座って、おばあちゃんのおっきくて力強い手で撫でてもらうと、心がスッーと落ち着いてきて、色んなことがどうでも良くなる。

『んふふっ…!おばあちゃんの手だいすきっ!』

『あら、そうかい?そう言って貰えるとおばあちゃん凄く嬉しいわ。』

『私、ずっーとおばあちゃんと一緒に暮らしたいな!』

『…ありがとうね。』

おばあちゃんの優しい目を見つめて私はこう言う。




『おばあちゃん大好き!!』


『私も、美香のことだーいすきよ』







ふとこんなことを思い出す。

いつ頃からだろうか、私がおばあちゃんの目を見て話さなくなったのは。

私の両親は私が小さい頃に交通事故で亡くなった。高齢者の逆走に巻き込まれたらしいが、私はあんまりその事を覚えてない。小さかったのもあるが、きっと思い出したくなかったんだろう。後々聞いたけど、車の中で私は、事故で下半身が無くなりながらも私を守るために、亡くなったあとも私を抱き続けたお母さんに包まれて、泣き叫んでいたらしいからだ。そんな記憶、奥の奥の更に奥に閉まっておいて、二度と出てこないようにするのは当たり前だ。

そんなこんなで色んなことがあり、私はおばあちゃんに引き取られて、祖母の家で二人暮しをしている。


別におばあちゃんにこれといった不満は無い、いっつも私のために暖かいご飯を作ってくれて、お風呂も沸かしてくれて、必要な文房具なども全部買ってくれる。だけど……いちいち学校のことを聞いてきたり、友人関係を尋ねてきたり…その一つ一つの馴れ馴れしさが私は本っ当に嫌い。

今日も遊びに行く前、おばあちゃんは私に封筒を渡してきてこう言ってきた。

『美香、今日も友達と遊んでくるのかい?ほれ、お駄賃をあげるよ』

正直いって中に入ってる額は毎回500円程度。そんなはした金なんて、貰う方が恥ずかしい……。

『いらないよ、そんなお金。あ、あと、今日も晩御飯要らないから』

『そうかい?だけど、今日は美香の好きなカレーだよ?お肉もいっぱい入って……』

『だからぁ!!要らないってそういうの!余計なお世話なの!』

『……そうかい、ごめんなさいね。』

『まぁいいや、行ってくるね。』

『…………はい、行ってらっしゃい』




こんな会話を毎回交わすのも正直疲れるし、本っ当にほっといて欲しい、そんなことを思いながら、ついつい友達に愚痴ってしまう。

『マジでうちのばあちゃんお節介でさぁ?お駄賃あげるとかいう癖に500円ぐらいしかくれないんだよね』

『えぇ?そんなしかくれないの?お昼ご飯も食べれないじゃんww』

『ホントだよ、まじでキモイからやめて欲しい……。』

『だから今すぐ上京したいんだよね』

『あぁーそれいっつも言ってるよね』

『マジで夢だからね。そのためにお金も貯めなきゃだけど、学校もあるしあんまバイトできないんだよなぁ…』

『仕方ないよねぇうちらJKの宿命よ』

『はぁ……早く上京したいなぁ…』
















『ただいま』

『あら帰ってきたの?おかえり』

『うん……お風呂わいてる?』

『連絡よこさなかったから沸いてないけど、あれだったら今から沸かしてあげるよ?』

『えぇ、今すぐ入りたいんだけど…まぁいいや湧いたら教えてね、部屋にいるから』

『はいよ…。』

少し悲しげな背中でお風呂場まで向かう祖母を一瞥したあと、階段を上がって2階に向かう。

少しモヤモヤする気持ちもあるけど、普段からあんなにお節介なことしてこなきゃ、私だってあんな態度とらないのに……。

とりあえずその日は風呂にも入らず寝てしまった。







次の日、学校である1枚のプリントを渡された。

『授業参観のお知らせ』

…最悪だ、あのお節介なおばあちゃんの事だ。授業参観のことを知ったら絶対に学校に来るに決まってる。

『絶対にこのプリントは渡さないでおこう』

そういう風に誓って、実際私は一切授業参観のことを話さなかったが、、、、、、、、、


当日

『嘘でしょ………?』

そこに居たのは、朝見た時とは全く違う。化粧をして正装の服を着たおばあちゃんだった。

『え、なんでいるの?私なんにも言ってないよね?』

焦る口調で問いただす私におばあちゃんは笑って答える。

『昨日お買い物をしてたらね?偶然田中さんのお母さんに会ったのよ。そこで教えてもらったの』

嬉しそうに語るおばあちゃん。何がそんなに楽しいのだろう、孫の私がこんなに迷惑してるのに……

『とにかく、なんにもしないでよ…。』

『分かってるわよ、大丈夫。』

そして始まった授業。

今回はグループワークの授業だったため、いつものイツメングループで机を囲う。

『え、というかさ、マジで授業参観緊張しね?』

『分かるー、うちとか両親ともに親バカすぎて、どっちも来ちゃってるもん』

『うわきちぃー!!それで言ったらね?うちも母親が来てるんだけど、マジで化粧濃すぎて笑い止まらんw』

『え、本当だw濃すぎでしょアレはさすがにw』

『ねぇーw。そういや、美香の親御さんは?来てる?』

グループのみんなは全員高校からの友達だ。仲良くなって日も浅いため私の両親のことを知ってる人はここには誰もいない。

『ん?私は………誰も来てないよ』

咄嗟に嘘をついてしまった。本当はおばあちゃんが来てはいるが、あんなおばあちゃんがいるって知られるのは、恥ずかしかった。

『へぇーいいなぁ……でもさ、あそこにいるおばさんめっちゃ美香の方見てない?』

おばあちゃんは私の方を見つめて、優しく微笑みかけている。やめてくれ…本当にこっちを見るな!なんであいつはあんなに私を困らせるんだ……!

『さ、さぁ?わかんないけどね』

『え?でも手振ってるし……わかった、あれ美香のおばあちゃんでしょ!』

『え、あの500円しかくれない人?あんな見た目なんだねw?』

もう限界だ、あんなにお節介なことはするなって言ったのに、睨みを聞かせて相手を見るが、気づいていないのか、悪意のない笑顔で微笑みながら手を振り続けている。頼むから、本当にやめてくれ!やめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれ!!!!


我慢ができなくなった私は、勢いよく席を立つと、真っ直ぐおばあちゃんの元へ歩いていって こう言った。


『もう帰ってよ!!!迷惑なんだよ!!!』











訪れる静寂。

自分が何をしたのかを一気に冷静になって気づいた私は、恐る恐る震える目で長い間見ていなかったおばあちゃんの顔を見つめた。


おばあちゃんは目に少し涙を浮かべながらも、あの優しい微笑みを崩さず、私の目を見てこういった。


『ごめんなさいね……良くないおばあちゃんで、ごめんね』


そう言っておばあちゃんは教室を出ていった。あんなに大きかった背中も、すっかり丸くなって、いつもよりも小さく見えた。

クラス中からの刺すような目線を受けながら自分の席に戻っていく。

友人はかける言葉が見当たらなかったのか、何も言わず、ただ何かを言いたげな目で私を見つめていた。

激しすぎる動悸を抑えながら、私は何一つ言葉も発せず、机にうずくまる。様々な後悔の念が頭をめぐっていった。なんであんなことをしたんだろう、クラスのみんなは私の事どう思ってるんだろ、おばあちゃんに酷いことをしてしまった…。自分にどんな言い訳をしても、正統化することの出来ない行動を自分が取ってしまった恐怖に震えながら、私は何も出来ず、ただずっとうずくまっていた。



そうだ、ちゃんと謝ろう。家に帰ったら、これまでの酷い行動も、今日のことも、全部謝って、そして、、、また一緒に楽しく話そう。


そう心に誓ったその瞬間、教室のドアが思い切り開けられ、副担の先生が駆け込んできた。みなが一斉にそちらを向く。だが、そんなことを一切気に止める様子もなく、早歩きで私の前に歩いてくると、小さく、でもはっきりと聞こえる声でこう言った。


『おばあちゃんが倒れた。今から病院に向かうから支度して。』












先生の車に揺られながら、いろいろな嫌な考えが頭を巡る。このまま死んじゃったらどうしよう、あんな酷いことを言ったまま終わっちゃったらどうしよう、仲直りもできずに終わったらどうしよう、あんな言葉が最後の言葉になったらどうしよう、どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう………………。

まだ病院に着いてもないのに、涙が止まらない、止めたくても、止める方法が分からない。私はぐちゃぐちゃになった感情を必死になって洗い流そうとするかのように止まらない涙を流し続けた。



『着いたぞ、容体は今は落ち着いているらしいから、安心しろ』

さっきまで泣いていたことに気づいていたのだろう、普段の先生からは絶対に聞かない優しい声でそう言われた。

『先生は病室まで入れないから待合室で待ってるよ』

そう言って先生は私の前から消え、私は1人病室の前に取り残された。

この中におばあちゃんがいる…さっきまであんなに会いたかったのに、いざ会えるとなると、あと1歩がいつまでも踏み出せない。

いや、私は変わるんだ。あんなことを言ってしまったことをおばあちゃんに謝って………

そうと決まると、すぐ行動に移ることができた。


ガラガラという音を立ててドアを開け、おばあちゃんが眠っている部屋のカーテンを開ける。

そこにはいつも通り、優しくてどこか愛らしいおばあちゃんの姿があった。

気づくと私はおばあちゃんに勢いよく抱きついていた。あんなに泣いたはずなのに、涙がまた止まらない。

『ごめんなさい……!ごめんなさい…!おばあちゃん……。本当にごめんなさい……!』

必死で泣きながら謝る私の頭を、おばあちゃんは黙って撫でてくれる。おばあちゃんの手に撫でられた私は、不思議と気持ちが落ち着いていく。

『いいのよ、全然気にしてない』

『でも……私みんなの前であんな酷いこと言っちゃって…』

『それを反省できただけで、美香は偉いのよ』

『でもこれまでも、酷い態度で接して、酷い言葉も、たくさん言って……』

謝る度に己の愚かさと、おばあちゃんの寛大さに泣きそうになり、声がどんどん震えていく。

『本当に……ごめんなさい……』

『いいのよ、全然大丈夫よ…。』

そう言って抱きしめてくれるおばあちゃんの肩の中で、私は泣いた。周りも気にせず、大声で泣き続けた。そんな私の背中を、おばあちゃんはずっとさすって慰めてくれていた。あのおっきくて、力強い手で、私をずっと撫でてくれていた。






結局、おばあちゃんが倒れた原因はただの疲労らしく、次の日には退院して家に戻ってきていた。



















ある日の朝


『今日は友達と遊んでくるね』

『はいよ、ほれお駄賃』

『いつもありがとうねおばあちゃん。』

『今日はご飯食べてくるのかい?』

『うぅん、おばあちゃんと一緒に食べるよ』

『そうかい?それじゃ美香の大好きなカレー作って待ってるよ。』

『うん!おばあちゃん行ってきます!』

『はい、行ってらっしゃい。楽しんできてね!』

封筒に入った500円を財布にしっかりと入れ、靴を履いて外に出る。そうだ、今日はケーキでも買ってきてあげようかな?そんなことを考えながら、私はまた今日も新しい1歩を踏み出した。




どうでしたか?

少しでも皆さんの気持ちが温かくなっていると嬉しいです。

是非とも評価と感想をよろしくお願いします。

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