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早朝。エースはありふれた鉄の剣を振っていた。剣の形をした型に質の悪い鉄を流し込んだだけの剣。バランスも滅茶苦茶で、作りも粗雑。まともな剣と打ち合って、ポッキリと折れてしまってもさほど不思議じゃない。
それもそのはず。これはエースがなけなしの金で用意した触媒もどき。剣形の触媒を作ろうとして、失敗したものだった。
成功するはずもない。魔法についてエースは素人。剣の作りに関しても詳しく無い。何にも詳しく無い者が作った品が、それっぽい何かになるのは自明の理だ。エースにしたってそれぐらい考えれば分かる事だったろうに、剣を扱う他の魔法使いに憧れのようなものがあったのかもしれなかった。
初めは鍛錬として始めたものだったが、今ではなんとなく習慣のようなものだっった。無論、ゴミを有効活用しなければならないという使命感がなければ行なっていなかったであろう。
少し前、入学試験とやらが行なわれた。
多くの魔法使いの卵が、このカイドウ魔法学校に集まり、半数程のみが残り、寮で暮らしている。エース以外の全てが、この学校に通うことが確定した生徒達だ。
この魔法使いの卵達は凄い。選りすぐりの魔法使いの卵だから当たり前とも言えよう。
特に、このカイドウ魔法学校は、学長の方針もあり戦いに長けた生徒を集めている。
これから始まる入学式で行なわれる模擬戦、エースが戦うのは更に上澄みの数名。試験で上位を獲得した3名と、エースを加えた4名で行なわれる。始まってみるまで誰がエースの対戦相手になるかは分からない。
分からないが、相手が剣を使う魔法使いであったなら、少しは役に立つこともあるかもしれなかった。
エースは背後に人の気配を感じて素振りをやめる。
「君、毎朝その剣を振っているよね」
エースに声をかけたのは1人の少女。彼女もここに居るからにはこの学校の生徒。魔法使いの1人だ。
「そう言う君はいつも走っているね。好きなの走るの」
彼女は毎朝走りこみ。そして すぐにバテて寝っ転がる。そのまま寝てしまうこともしばしば。一体どんな情念が彼女を毎朝走られているのかエースは興味があった。
「お父さんがいつも言っているんだ。戦場では走れなくなったヤツから死んでいく。魔法使いもその限りではないって」
「へえ、道理だね。動けない人なんてただの的だ。小鬼もそういう人から襲っていく」
かつてエースが暮らして居た炭鉱も、時々モンスターが現れる。出口もない地の底で、一体どこからやって来たのか分からないが、大事なのは人を襲うという一点だ。
幸いツルハシを頭に当てればそれで簡単に沈黙する容易な敵だ。子供のエースも生き残れるぐらいだ。
それでも犠牲が出ることもある。死ぬのは必ず落石で足を痛めたり、病で動けなくなった人だった。
「ともかくその剣、やめた方が良いよ。あまり安物では練習しても意味が無いもの木の棒を振っているのと変わらないわ」
「ああ。良いんだ。これは戒めだからね。その内、鍛冶工房で剣を買うよ。お金が手に入ればだけど」
「戒めって。変な人」
「変な人か。俺もそう思うけど。所で君の名前は」
「ウェンキ。水の魔法使いだよ」
「俺はエース。一応、け。土の魔法使いだよ。今日は模擬戦に出ることになっているんだ。応援してくれると嬉しいな」
誰にも知られないでいるよりも、1人ぐらい応援してくれる人が居る方がやる気が出る。未だに乗り気になれないエースにとってはなおさら。そんな安易な理由から出た言葉だった。
「見かけによらず、あなた強いんだ。けど、それは無理かな」
「どうして」
「だって私も選ばれているから。成績優秀生に」
「それは驚いた。それじゃあお手柔らかに頼むよ」
誰が見ても、彼女のことはお淑やかな少女だと答えるだろう。戦士のようには見えず、小柄なエースと比べてもとても小さい。小動物のような可愛らしさがある。けれど彼女は魔法使い。その実力は魔法の強さに直結する。
「私のことを知らないの。まあ、良い勝負にしましょう、エース」
彼女は。このカイドウを治める大領主の娘、ウェンキ・カイドウ。この学校の創設者の血を受け継ぐ、大魔法使いの末裔である。