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 倉庫に積み上げられた。石の山。これはただの石だが、やがて立派な港を作り出すだろう。これを人の手で運んできたのなら、一体どれだけの時間とひとでが必要だったっただろうか。これはたった1人の魔法使いが、たった数日で用意したのだった。


「まさか本当に、宝石1つでこれほどの魔法を扱えるとは」


「その方法は教えられませんし。他の魔法使いでは、もっと宝石が必要だったでしょうね」


「分かっているよエース殿。魔法使いは秘め事があるものだからな。誰も気にしないとも」


 このようなことは他の魔法使いには出来ない。そこに嘘はない。ただ宝石1つでというのは間違いだ。

 ギルド長から宝石を受け取ったエースは、その足で1人近くの川へと向かっていた。

 エースの魔法属性は土。砂利のように、石や土塊を作る事が出来る。熟練の魔法使いならば地を割り、山を動かす事もできると言うが、エースの魔法は特に石を生み出すことに特化していた。

 魔法は親から子に継承されるかのように、似た性質の魔法が発現する。後天的に扱える魔法の範囲を広げることは出来るが、それにしたって他の魔法使いの教えがあってこそ。

 ならば親が魔法使いじゃないエースの魔法は正に異端だった。

 ギルドで手に入れた緑の宝石。エースの手に平の上で音を立てて燃え上がり、手の平を握りしめるとその隙間から光をとなり漏れ出す。触媒と共に光は消滅し、魔法となって形をなす。

 名前はまだ無い。あまりに未熟な彼の魔法は、あまりに規模が小さく。効率も最悪だった。しかし、史上最も美しい魔法は今、確かに発現する。

 エースの周囲の河原の石が、色を失い透き通る。

 この世界には魔法使いを魔法使いたらしめる、力が存在する。その魔力とも言うべき力は、人以外に宿ることがある。人に害なす存在となればモンスターと呼ばれる。ミスリルのような金属は魔法金属と。場所に宿れば聖域や魔境と呼ばれる。そして魔力が石に宿ったとも、魔力が結晶化したともされる石を、魔法結晶と呼ぶ。

 結晶魔法。

 魔法結晶を生み出すエースの魔法(オリジナル)

 魔力の塊以上の最高素材。剣に埋め込めば聖剣に。結界に使えば何よりも強固な守りを。

 そして最高クラスの触媒でもある。

 世界で唯一、触媒を生み出すことの出来る魔法使い。それがエースのアイデンティティーであり、親も何もないエースに唯一与えられた奇跡だった。


「いやはや、良い取引でしたエース殿」


「沢山貰いましたからこちらも満足ですよ」


 初めに貰った宝石で、多くの触媒を確保できただけじゃなく。大量のモルタルの報酬として、貰った金貨に保存食と、長旅で失った装備は今や充実している。金貨のいくらかを宝石で受け取った事もあり、かさばらないし触媒にも使える。旅で手に入れた思い出と、装備は旅立つ前よりも今や立派だった。

 残り少ない道行きではあるが。これであれば、学校にたどり着いた後も早々、困る事はないだろう。

 エースの魔法はあまりに未熟だ。モルタルを生み出すような簡単な魔法には触媒として足りるが、触媒そのものを生み出す結晶魔法には耐えきれない。魔法結晶としてはあまりに不完全。魔法結晶だったからこそ、エースの魔法でも触媒として使えると言うべきか。


「宝石がベストなんだけど、旅の途中ではなかなか手に入らない。思ったよりも金を食う」


 何のコネもなく、宝石の取引をしてくれる人は稀だ、子供というだけで侮り、相場以上の金を取られる。

 

「今度、ノースポートに来るときは俺を頼ってくださいエース殿。俺はここの領主にも顔が利きますので。商いと船の話なら、是非とも漁師ギルドまで。もし故郷が恋しくなったのなら、そのときは船を貸しましょう」


「ええ、次も良い取引が出来るといいと思っていますよ。特に宝石を譲ってくれる相手は貴重なんです。次に会うときは俺ももう少し立派な魔法使いになっている事でしょう」


「良い旅を」


 旅には出会いと別れが付きものだ。悪い出会いの方が多いけれど、偶には良い出会いもある。そんな時は、決して逃さぬように。さりとて固執しすぎぬように。人の出会いは一期一会、けれど縁があればまた混じり合うこともあるだろうから。

 

「だからいらない縁は絶ち切っておくべきだと俺は思うんだよね」


 エースが旅立った数日後。ノースポートで小悪党として知られている3人組の死体が見つかった。体中の皮膚がひび割れ。全身から血をまき散らしていたという。運ぼうとすると、ボロボロと崩れ、尋常ならざる死に様だった。直ちにモンスターの侵入を疑ったノースポート領主および、漁業組合長は、厳戒態勢を発令。漁へ出ていた男連中を呼び戻し、その間は新港の建設が進められたという。

 親族が死体を取り除き、血だまりを洗い流した後には、骨かと見間違うような、白い小石のような者が幾つも残っていたという。

 

「それでは行こうか、カイドウ魔法学校へ」


 魔法使いが作った船が、凍る海を崩して進む。ガリガリと音を立て、モンスターすらも引き裂いて。魔法の風を吐き出して、鋼の船は進んでく。ゆくは最北。永久凍土。あの女が学長をやっている学校へ。

 識別番号A1126(エース)。元鉱山奴隷。カイドウ魔法学校、第43期特別招待生。魔法特性結晶。

 

 

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