第10話:剛力と怪力
「この僕が…この僕が…この僕が…」
パーダは先程の戦いで精神が崩壊して独り言を呟き続けていた。
「お前、気持ち、悪い、どっか、行け」
「プライドだけ高くて技術や経験がないからそうなんだよ。クソガキ」
二人はもう何も聞こえてはいないパーダを更に追い詰める。
「次はあんただね。頑張りな!」
「…ありがと」
カサンドラはベロニカを応援する。
ベロニカはS級の応援を無視するわけにもいかず渋々返事をする。
ベロニカは大斧と大盾を持ち上げ入場する。
「無愛想な奴だな…」
カサンドラはベロニカの態度は気に食わなかったが集中していたと察して少しだけ愚痴を溢す。
「ギードラ、アイツと今回の相手どっちが勝つと思う?」
「10、0」
「そうか」
ギードラとカサンドラはパーティでは無いが仲が良い。
(闘技場)
スカーレットとベロニカは既に礼を済ませて互いに黙って向き合っていた。
「…」
(「3代目『斧姫』か…先代の事は少しだけ知っているが、こういう見せ物の様な戦いは好きでは無かったと思ったが…師弟で考えは変わるんだな」)
我流で鍛えてきたスカーレットにとっては流派が武術は宗教みたいに考えが一緒なのかという偏見があった。
「それでは…はじめ!!!!」
「我が力よ、
水の力を武器に纏わせよ。
付与魔法エンチェント・水!
エンチャント・風」
スカーレットは更に距離をとり、付与魔法と魔付の指輪の魔法で槍に水と風を付与する。
ベロニカは唯それを見ているだけで動かない。
(「ナメてんか?!」)
スカーレットはその態度が憤慨した。
(「俺の攻撃は効かないってか!?
なら…その自慢の防御をぶち抜いてやる!!」)
「“溜め突き”」
スカーレットは槍を溜めの構えに入った。
最大に溜めた突きでベロニカを攻撃する。
「喰らえ!」
「“獣化”」ボソ
象に変身したベロニカは盾でスカーレットの一撃を完璧に防ぐ。
「馬鹿な…」
自身の最大威力を受け止められたスカーレットは唖然としてしまう…
「終わり…」ボソ
ベロニカは斧で頭を叩く、スカーレットを一撃で気絶させる。
「ヒュー、アイツ象の獣人だったんだね…」
カサンドラはベロニカが獣人族だという事に気づいていなかった。
「俺、知ってた」
ギードラは気づいていて自慢げな顔をしている。
二人は一瞬で終わったがベロニカの戦いを楽しんでいた。
「そこまで!!勝者ベロニカ!!!」
「次、俺、出番」
「頑張ってきなよ」
「カサンドラ、ありがとう、好き」
二人が楽しそうな会話している最中、カフィはずっと目を閉じて佇んでいた。
(王都チーム)
「え!?」
気絶したスカーレットは飛び跳ねるように起き上がる。
「お疲れさん」「乙っす」
ハーグとウォードがスカーレットの体調を確認していた。
「俺…負けたんだな…」
「あぁ…」
ハーグが残念そうに応え、スカーレットの状況の確認を手伝う。
「すまねぇ…」
スカーレットは土下座しようとする。
「止めろ。」
ハーグがそれを止める。
「負けることは誰にだってあるんだ…それは団体戦でも変わらない。だから気にすんな!
何より次は俺か『投槍』が勝てばいいだろ?」
ハーグは明るくスカーレットを励ます。
「でも次の相手って…」
「おいおい、A級だからってS級に勝てない理由にはならないだろ?」
「で、でも」
スカーレットは自分達二人が勝てば大将戦にまで何とかいける考えだった。
「大丈夫…俺たちに任せろ!」
「ありがと…」
「じゃあ行って来る!」
ハーグは闘技場へと向かう。
「勝手に私の名前を出さないで貰いたいですね…」
ハーグが行ったタイミングでボンレが悪態をつく。
「自分で解決できないからって…ねぇ、『黒刀』殿?」
ボンレはホノカに同意を求める。
「俺達は今回だけとはいえ、チームだ。チームメイトを励まさない俺達よりハーグの方が理に適ってると思うが?」
「そ、そうですね…」
前回の事で何も学んでいないボンレは気不味そうに返事をする。
(闘技場)
「互いに礼!」
「俺、『黒刀』、戦い、」
「悪いな、俺で我慢してくれ」
ギードラの失礼な言葉にもハーグは気さくに返す。
「…意外、怒る、思った」
「ハッハッハ、こんな事で怒んないわ!」
ニコ
ギードラはハーグの態度を気に入って笑みを溢す。
「まぁ、前は俺もあんたと同じで『黒刀』と戦いたかったからな」
ギードラは彼の諦めたような口調に疑問を持つが直ぐに理解した「『黒刀』は戦う事を諦めるくらい強い」と。
「お前、面白い、賢い…でも、潰す」
「あぁ、本気で頼む!」
「それでは、はじめ!!!」
「“身体強化・強”」
ギードラは強化スキルを使用して距離を詰める。
「“硬化・不落”!」
ハーグは大剣を構え防御系スキルを使用して迎え討つ。
「“パンチ”」
ギードラは強化スキルを使ったまま、体術スキルを使う。
彼女の強化スキルは首の獣の頭蓋骨ネックレスによるものだ。
「ちっ、そっちか…」
ハーグも予想はしていたが、悪い方に当たってしまって愚痴を溢す。
「硬化解除、“破剣”」
ハーグは硬化スキルでは不利だと考え、剣術スキルにシフトチェンジする。
ギードラの拳とハーグの大剣が打つかる。
二人は鬩ぎ合うが、ギードラのパワーが勝った。剣ごとハーグが吹っ飛ぶ。
「ぐっ」
ハーグは何とか耐える。
「“空拳”」
ギードラの中距離攻撃がハーグに追い討ちをかける。
ハーグは対応しきれずそれを大剣で受け止めることしか出来ない。
「“空拳”」
ギードラは体術で打ちながら一歩前、ハーグに近づいていく。
「“空拳”」
また一歩。
「“空拳”」
また一歩。
「“空拳”」
そして最後の一歩、到頭ハーグの目の前にたどり着く。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
ハーグは攻撃を受け止めるのに体力を消耗してしまっていた。
「残念、終わり、“奥…」
「“剣打”」
スパン。
「悪りぃな、騙しちまって」
ハーグは疲弊した振りをしていた。
そして、更にその手にはギードラに骨ネックレスがあった。
ぽい。
ハーグはそれを闘技場の外に投げ捨てる。
「これでフェアな戦いが出来るな。」
「それ、まだ、わからない
“身体強化・極”」
ギードラはアイテム以上の強化スキルを使用できた。
「あれ、手加減、使う」
ギードラにとってあのネックレスは手加減の為に使用するものだった。
「まじかよ…なら、“身体強化・超”」
ハーグはギードラより1段階低い強化スキルを使用する。
「殴り合おうぜ!!」
「わかった!!!」
二人は強化スキルを使用した状態で殴り合う。
剣と拳が、剣が肩に、拳が腹に打つかり続ける。
「いっけぇ!!!」「ハーグ負けないで!!」「ギードラ勝てぇ!!!」
二人の応戦に会場の観客達も熱狂していた。
「楽しいぃ!!!」
「あぁ、俺も楽しいぞ!」
二人の感情は観客達以上に興奮していた。
「身体強化解除」
しかしギードラは身体強化解除し、ハーグの攻撃を肩で受け止めて、剣を腕で抑える。
「身体強化解除」
危険を察知し、次の一手の為に急いでハーグも身体強化を解除する。
「これ、終わり!!!“奥義・真空激烈”ぅ!!!!!」
剣を抑えたまま、体術の奥義を打ち放つ。
「“大ジャンプ”!!!」
ハーグは剣を抑えたギードラごと、空中にジャンプする。
「終いだ!“砲剣”!!」
ハーグは剣を抑えたギードラゼロ距離で剣術を浴びせる。
ドッカーン。
ギードラは落ちてしまった。闘技場の外へ。
「そこまで!勝者ハーグ!!!」
「すげぇ!!!」「A級がS級に勝ったぞ!!!」「ギードラもよくやったぞ!!」
人それぞれ感じたことは違った。「番狂わせだ」と「英雄譚だ」と「惚れた」と
様々だった。
兎に角、会場はこの結果に大興奮。
「…」
ギードラは負けたことや色んな事で少し惚けていた。
「立てるか?」
ハーグも肋骨にヒビが入っていたり負傷し剣を杖がわりにているのに、敵のギードラに敬意を示して手を貸そうとする。
「大丈夫、立てる」
ギードラが一人で立ち上がる。
「そうかすげぇな…」
ハーグはケロッと立ち上がり目立った外傷がないギードラに関心していた。
ギードラは首を横に振る。
「お前、すごい、俺、負けた」
「良い勝負だった…ありがとう」
ハーグは握手を求めて手を前に突き出す。
コクン。
ギードラは頷き握手する。
「お前、強い…」
「ありがとう…そちらこそ…」
ハーグは褒められ過ぎて、少し照れてしまう。
「だから、お前、俺、結婚する」
「強い、へ?」
「「「「「へ?」」」」」
ハーグ、両チーム、審判、全観客がギードラの発言に驚く。
何を隠そう、ギードラは歴とした女性である。ゴツい顔と口調、ムキムキの手足と腹筋がある為分かりにくいし、大きい胸も男性用胸当てで更にわからないが、彼女は女性である。
これに気づいていた、知っていたのは“鑑定”したホノカと親友であるカサンドラの二人しかいない。
しかしその二人でもこの事態は予想外で驚いていた。
「俺、お前、愛する、結婚…し、したい」
ギードラは少し恥ずかしくなり、顔赤らめる。
「お、お付き合いからで…」
ハーグは勢いに押されて、結婚ではなく恋人関係を提案する。
「わかった」
ギードラはそれを了承する。
「「「うぉおおおおお!!」」」
「冒険者強者カップルの誕生だ!!!」
「おめでとう!!!」
観客達は二人の新たなる結果に歓喜する。
「よかったね、ギードラぁ〜ーー」
カサンドラは友の色恋話を泣きながら喜ぶ。
(「父上と母上もこんな感じだったのかな…」)
ホノカは二人の出会いを観てクーガとグレンダの事を思い出す。
「おめでと」ボソ
ホノカは密かに二人に祝いの言葉を捧げた。
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