第30話:冤罪
「…クーガ・トライーガ、妻殺害及び、敵国への情報漏洩の容疑で逮捕する」
王国の使者から知らされた内容は受け入れがたいものだ。
クーガは理解出来ずに戸惑う。
「ど、どういうことですか?」
しかし使者は淡々と話を続ける。
「貴様は明日、貴族裁判所で裁かられる」
「あ、明日?!待ってください!」
「黙れ!さっさと連れていけ!」
騎士達はクーガの事なんてお構い無しに連行しようとする。
「待ってくれ!せめて子ども達と話をさせてくれ!」
クーガは不味いと思い、何とか行動を取る。
騎士達は無言で使者に確認を取ると…
「…どうせ最後の会話だろう許可してやろう」
使者はクーガを見下したように目で見るが、クーガの親子の別れを許可した。
「…助かる」
クーガは横柄な態度されたにも関わらず感謝の言葉を述べた。
クーガを心配して玄関まで来ていたホノカ達が駆け寄ってくる。
「「父上!」」
「ホノカ、ユーガ大丈夫だ。私は無実を照明してみせる」
「でも…」
ホノカはこの異常事態にクーガの言葉を信じられずにいた。
クーガはホノカを抱きしめ、そのまま他の誰にもに聞こえないように小声で話す。
「ホノカよく聞きなさい、ユーガとポーラを連れて3人だけで逃げなさい」
「え?」
「ユーガ」
ホノカの疑問には答えずに今度はユーガを抱きしめる。
クーガは別れが終わると立ち上がる。
「待たせたな」
使者はクーガの様子を鼻で笑い、騎士達に命令する。
「連れいけ!」
「はっ!」
クーガは厳重な枷をつけられ、騎士に連れて行かれてしまう。
ホノカとユーガはクーガの背中を不安そうな目で見つめ続ける。
◇
(ホノカ視点)
どうなってる!?
父上が母上を殺した!?馬鹿げてる!
「ユーガこっちに来い…」
「兄様!父様は大丈夫ですよね!?」
わからない…でも救ってみせる…絶対に!
「静かにしてよく聞くんだ父上から言われことをお前にも伝える。わかったか?」
「う、うん…」
「俺とお前そしてポーラでここから逃げなさい。と」
「え?どうして?なんで?!」
「わからない…今は兎も角父上の言いつけ通りに逃げるんだ!いいな?」
コクコク
ユーガは泣くのを我慢しながら何回も頷く。
「武器と最低限のものを持つんだ。もし大きい持って行きたい物が会ったら俺に伝えろ」
「うん」
「準備開始だ。いけ!」
次はポーラだ。
“感知”
1、2。いつも通りメイドが直ぐ側にいるな…
悪いが強行突破させてもらう!
空間魔法 ワープ
シュン
「?、ホ…」
「すまない」(状態異常魔法スリープ)
バタ
メイドには眠ってもらった。
説明してる時間はないし、説明をすること自体ができない…
「ポーラ起きて」
「ん〜?ふわ〜、おにしゃま!」
「やぁ、おはよう」
「おはようごじゃいましゅ。?、おしょとまだくらいよ?」
「ごめんね。おでかけしないといけないんだ」
「おでかけ!やったー!」
「しー、皆んなには秘密でおでかけするんだ」
「うん、わかった」
俺の真似しながらちっちゃい声で人差し指を口に近づけ喋って可愛いな…
二人を絶対に守らないと…
それにはまずユーガとポーラを安全な所に連れて行かなければ…
その後は父上を!
◇
ポーラはユーガを待っている間に再び眠りついてしまい、ホノカの背中で寝ている。
そしてユーガが準備を終えてホノカの部屋に入って来た。
「ごめんなさい遅くなって…」
「大丈夫だ。準備できたか?」
「はい」
「お祖父様のところに行くぞ」
お祖父様とはグレンダの父、ブリザー
ブリザー・ムーンの事である。
ムーン領はトライーガ領のほぼ反対に位置し、大きな都市を通らないといけない…それでも三人の行く宛はここにしかない。
「はい」
ホノカが最初に降り魔法でユーガを受け止める。
「走るぞ」
「はい」
二人の身体能力は高く、数歩しか地面を踏んでいないのにもう家が見えない。
ユーガは何かを思い残すように後ろを振り返ってしまう。
その気持ちを押し殺し、走り続ける。
ホノカはクーガのことのみを考えて一心不乱に走り続ける。
(森)
トライ一ガ領からおよそ5kmを過ぎた森で、遂にユーガの体力が切れてしまう。
「はぁはぁ」
「ごめんな…飛ばし過ぎた、今日はここで野営しよう」
「はぁはぁ、はい…はぁ」
ホノカは野営するために魔法で立派な一戸建ての家ができる。
(木魔法 フォレストハウス)
ユーガはその光景にただ驚く。
「すごい…」
ホノカは魔法の家の扉を開けて問題ないか見渡す。
問題がないとわかるとユーガを入るように促す。
「入って休もう」
「はい」
ユーガは中に入るとホノカは扉の前で立ち止まり振り返り、神法術を使用する。
(水神法術 ファントム・ダークミスト)
森は濃い霧に覆われて、耐性が万全なホノカには意味はないが、他の者は夜も相まってこの家を見つけることは絶対にできない。
ホノカは神法術を唱え終わると家の中へ入っていく。
「“アイテムボックス”」
ボン
ユーガとポーラが過ごしやすいようにアイテムボックスから机とベッドを取り出し適当に配置する。
ポト
アイテムボックスから物を取り出した際に釣り竿や絵本が落ちてしまったが…
ホノカにはそれを片付ける余裕が無かった。
ベッドにポーラを寝かせ、ユーガに肩を強く掴む。
「ユーガ、妹のことを頼むぞ」
「ど、どうして?!」
「しー、ポーラが起きちゃうだろ…
今から俺は父上を助けに行ってくる。お前が守ってほしいんだ…大丈夫助っ人はいる…召喚 タヌ太郎」
魔法陣からタヌ太郎を召喚し、続いて他の4体も召喚した。
「コイツらがお前とポーラを守ってくれる…だから頼んだぞ」
ホノカはユーガとポーラを従魔に任せてクーガを助けに行こうとする。
ユーガがホノカの服を掴んで止める。
「で、でも兄上!」
「すまない、急がないといけないんだ…行ってくる」
ホノカは弟を振り切り、飛び出してしまう。
◇
(ホノカ視点)
早く!早く!
もうすぐで森から出れる。
「$#‘“#%*€」
ん?なんだ野盗か?明らかにそれっぽい格好をしているな、30数人はいるけど…
悪いが今はそれどころではない!
「あっちの奴ら取り逃したらしいぞ」
「挟み撃ちにしてヤルんじゃなかったのかよ?」
「ガキの癖にどんだけ早いんだよ」
何?
つい止まってしまった…
子どもが追われているようだがすまない。
この森に入っていてくれ!そうしたら明日助けるから!
「文句言うなよ、貴族のガキとはいえガキを三匹殺すだけで一匹金貨30枚だぞ?」
「しかも前金に金貨30枚最高だぜ」
は?
貴族のガキ3人…俺たちのことか?
「黙ってろ!油断するな。下位貴族のほとんどは武闘派だ!勿論ガキもそのように育てられ、お前ら2、3人じゃ勝てねーやつだっている」
「へ、へい」
「特に今回殺るガキの親はあの「戦火」だ…」
父上の異名!間違いない!俺たちのことだ!
やはり父上の件も何かの陰謀に巻き込まれてたんだ…
しかも俺らも標的に…
「畜生…思い出したら古傷が…」
コイツらから雇い主の話を聞けるかもしれない…
◇
野盗のような集団は霧に覆われた森へコソコソと入っていく。
「シェールさんビビり過ぎじゃね?」
「バカ!シェールさんは「戦火」に負けたことがあんだよ。間違ってもこのこと本人に聞いたりすんじゃねーぞ」
「え?!まさかシェールさんの背中の傷って…」
「そうだよ…「戦火」につけられた傷だよ」
「おい!そこ」
シャールと呼ばれている男が部下達の会話を遮る。
「「ひっ…」」
「静かにしろ、目標に聞かれたらどうすんだ」
シェールに注意された男達は大声で謝罪する。
「「は、はい!すんませんした!」」
シェールは呆れてしまい注意すらしなくなった。
「ちっ…はぁ…」
シェールは索敵に集中する。
(「馬鹿共だが、索敵のいろはすらできねぇ愚図ばかり…ボスには拾ってもらった恩はあるが、こんな馬鹿共の面倒を俺がみなきゃいけないんだよ」)
シェールはおよそ15年前にクーガとグレンダが出会った大会に出場していた。
一回戦でクーガと当たり、モンスターとしか戦ったことがないシェールはクーガに負けてしまう…
ただその負け方が悪かった、クーガが武器を叩き壊すために使った剣技、その剣技を使うクーガの気迫に気圧されてしまい、逃げだそうとしてしまった。
そんな彼は肩から背中にかけて大きな傷をつけてしまった。
彼はそこから転落人生が始まり…
今迄では野盗へと崩れてしまっていた。
(「何の因果か…「戦火」のガキ始末か…俺も落ちに落ちちまったな…」)
「おい!お前どうしたんだよ!」
(「ちっ、叫ぶなっつてんだろ」)
「静かにしろ。何があった?」
「そ、それがコイツが急に倒れて…」
「何?酒の飲み過ぎか?」
「で、でもコイツ…」
(「ん?何がおかしい…待てよ…何でこんなに少ないんだ?11人は消えてるぞ」)
「敵襲だ!!お前ら!5人で一塊になれ!」
シェールの掛け声で野盗達はすぐに陣形を組み出す。
「「「おう!」」」
「なっ!」
しかし、それは悪手となった。複数の魔法陣が出現すると水の鎖が出現し、野盗を一網打尽に捕まえる。
「ウォーターチェーンか?!」
更に彼らの目の前に雷の玉が出現する。
「っち」(「“身体強化・強”!!」)
シェールは水の鎖を引きちぎり、一人だけ脱出する。
彼以外の野盗は感電により気絶してしまう。
「一体どうなってんだ?」
バシャ
「誰だ!」
水を弾く音を聞いたシェールは瞬時に音の方向と反対に距離をとる。
シェールの目の前にはホノカがいた。
(「ガキか…こんなところにいるってことは…」)
「おいガキ、お前の親父はクーガ・トライーガか?」
「だったら?」
(「当たりだな」)
「悪いが死んでもらう。」
「雇い主は?」
(「ふん。護衛がいるようだな、さっきの魔法の規模からしても使える魔法はたかが知れている…このガキをおびき寄せ人質にして終わりだな」)
「お前の親父とは一回戦ったことがあるんだよ」
「…」
「それにしてもお前…親父に似てねーなぁ、お前のかーちゃんは他の男と…」
ずちゃ
シェールが喋り終わる前に彼の左耳は斬り落とせれる。
「いでぇぇぇーーー!!!!!」
「お前…俺の母上を侮辱したな…」
ホノカはゆっくりとシェールに近づく。
シェールはホノカの声に身体をビクつかせ、ホノカの顔を見る。
(「このガキの剣圧で?!いやありえねぇ!!」)
「お前には誰の依頼か聞きたかったけど、お前はボスじゃないんだもんな…」
ホノカは最初、情報を収集するつもりだった…だがホノカは怒りでそれを止めて、自身の怒りをぶつけることにした。
シェールはそれに気づき、ホノカに知っている限りの情報を話そうとするが…
「ま、待て!」
「だからお前にはもう要はない」
ホノカは聞き入れるつもりはない。
「ひっ…」
(「闇神法術 パニックナイトメア」)
この神法術は状態異常『睡眠』とステータスへのデバフを引き起こすものだ。
更にこの世界では更に悪夢を見せる。
しかし耐性の無い彼が1週間の悪夢を見続ける事はホノカは知らない…
何よりその悪夢がシェールにとって、最悪のクーガとの戦いであることも…
(「此処は…まさか…トライーガ!な、何で?!」)
シェールの光景は若い頃に闘った闘技場と剣士が映る。
『はじめ!』
試合の開始の合図が聞こえる。
シェールはこの後直ぐに背を斬られ負ける。
(「止めろ!止めてくれ!こ、コイツとは!た、戦いたくない!嫌だ!嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」)