第23話:おめでたと不安
あれから半年後。
狩猟が行われていた。
狩猟のメンツはトライーガ家、リューズ家、リバーシュ家とデルーノー家で行うようになった。
ホノカ、ヴィナタ、シューナ、ニルビの四人は1m強はあるヴェロキラプトルのようなモンスター、ソリッドリザードと対峙していた。
「ニルビ君!前を!」
「わかった“挑発”」
「シャァァァッァァァ」
ソリッドリザードはニルビへ突進していく。
ドン、ズズズズズズ
ニルビは力負け押されていく。
「くっ」
「“剣牙”」
ズドン
ホノカの突きでソリッドリザードを吹っ飛ばす。
「無理するな!マウントを取られた死ぬぞ!」
ホノカは無理をしたニルビを叱咤する。
「ごめん」
「行くぞ!3人でトドメを刺すぞ!」
「わかった」「わかったわ!」
「「「“剣爪”」」」
シューナは風を纏わせて、3人の斬撃がソリッドリザードを切り裂く。
狩ろが終わるとボロボロのヴィナタがやってくる。
「お疲れ、皆んな」
「ヴィナタ君も誘き寄せるのお疲れ様、プッ」
シューナはヴィナタが労うが、ヴィナタの髪の毛に枝などが刺さっていて、つい笑ってしまう。
ヴィナタは恥じらいながら、枝を払い髪を直す。
「あ、あんまり笑わないで、だから嫌だったんだ」
「そう言うなよ。狩人っていう近接、遠距離の両方戦えるんだから、ある程度そういうのも経験しないと。
何よりお前のおかげで近接で戦う俺らが体力満タンで挑めたんだからさ」
ヴィナタにモンスターを誘い出す様に作戦を出した本人のホノカがヴィナタの機嫌をとる。
「そこまで言われると、まるで僕が駄々捏ねてるみたいじゃないか」
「だってそうだろ?」
「またホノカはそうやって」
「「「プッ」」」
ホノカとシューナとヴィナタは顔合わせて笑い出す。
「「「ハハハハハ」」」
「は、はぁ〜ー…」
ホノカは一人だけ話に参加しないニルビの方を見る。
(「無理矢理、距離を詰めるより待った方がいいよな…
でも文通はいいよな」)
◇
(ホノカ視点)
これでこの四人でやる狩りは3回目なった。
シューナ嬢は俺らと狩りで和かに楽しそうにやっている。
ヴィナタも皆んなに慣れて普通に話すようになってきた。
ニルビ君は相変わらず、あまり話さない。
もしかしたら元から寡黙なのかもしれない。
あの後俺は父上に大目玉をくらった。
貴族に対しての言葉が成っていなかったからだ。
でも父上は叱った後、「お前は正しい事をした」言ってくれたけど…
お叱りだけでは勿論済まなかった…ヨハンの貴族マナーレッスンの授業付きだ。
「ホノカ様、集中なさってください」
「ご、ごめん、ヨハン」
はぁ、頭に血が上りすぎて、結構罵倒したんだよな…
貴族は本音を隠し、遠回しに侮辱するイカックス家みたいな奴らが沢山いる。
だから心を抑えてつつ、「貴方失礼ですよ?」とやんわり言わないければならない。
マジで大変だ…
でもアイツらにもしっかりとお咎めがあった様だ。
オーアロー家とイカックス家はそれぞれ子供を廃嫡、リューズ家に金貨30枚づつの謝罪金を送ったみたいだ。
謝罪金としては少ないが非公式かつ子供のやった事なのでっていう事らしい。
正直俺も大変だが、アイツらも大変みたいだな…
でも嫌なことばっかではない。
なんと母上がおめでただ!
因みに「鑑定」したら女の子だった。
初めての妹だ。
しかもトライーガ家に今迄に女児が産まれたことがないらしい。
父上達はまだ知らないけど喜ぶに違いない。
特に母上は喜ぶだろう、よく女の子もの(ダサい)服を見ていたから女の子も欲しいに決まってる。
でも心配なのとができた…
母上が体調を崩している。
弟のユーガを妊娠したときは俺を抱いたまま、忘れ物をした父上の馬車を追いかけたらり、野犬に襲われていた村の子供を助けたり、病気になった牛を抱えて獣医のところに領内の村と村を渡ったりしていた。
あのときの父上の顔は凄かったな…心配し過ぎて絶望したような顔してたな…
そんな母上が体調を崩してとても大人しい。
メイドが必ずついて看病してる状態だ。
痩せてきて、目に隈もできてる。
弟も心配して母上にべったりになってる。
勿論俺も心配して「鑑定」をしたんだが、状態異常にはなっていなかった。
この力に気づいてから、「鑑定」スキルはよく使っていた。
病気のときも状態異常に含まれ、病名が詳しく書かれている。
だから母上は病気ではないようだ。
父上は以外と冷静で、稽古や仕事をいつも通りこなしたあと母上に付き添っている。
だから俺も母上にいつもどおり接している。つもりだ…
ここは今迄迷惑をかけたお詫びに新しい神法術を創り出して母上を元気にしてみせる!
◇
決意をしたホノカより数時間前。
(グレンダの病室)
グレンダは寝ているユーガの頭を撫でていた。
コンコン
「私だ、入ってもいいかい?」
クーガが2時間振りにグレンダを見舞いにきた。
「どうぞ…」
「ユーガは寝たかい?、私がベッドに運ぼう」
クーガはさっき一緒に来て置いてきたユーガを迎えにきた。
ユーガは母の身を心配して、授業を抜け出してよくクーガの後をくっついてきていた。
そして、今回クーガに戻されそうになり泣き出してしまい、グレンダが泣き止ませていた。
そしてそのまま疲れて寝てしまっていた。
グレンダがユーガの髪を撫でて直し続ける。
「いいの。今はこうしていたいの…」
「…あぁ、わかった」
クーガは俯き悲しそうな顔でグレンダの隣に座った。
「貴方…子供の前でそんな悲しい顔しない…」
「すまない…すまない私のせいで…」
クーガは別の事を謝り始める。
「結婚するときに約束したじゃない。私は望んでこうなった…私ね、今も昔も…すっごい幸せ…」
グレンダはクーガを安心させるために笑顔をみせる。
そのグレンダの顔は憔悴して、頬がこけていた。しかし彼女は昔と変わらない笑顔をクーガに見せる。
「ありがとう…ありがとう」
クーガはその顔を見て、自身の無力を実感して、そっとグレンダの手を握り感謝の言葉を暫く呟き続けた。