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異世界再生神話〜神は万能ではない〜  作者: 犬星梟太
第一章 転生奮闘編
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第18話:認知される英雄

(ネンコ村)


 赤ん坊を背負った女性が息子の部屋の前に立っていた。


ガンガン


「クーダー!」


 部屋の中にいる少年クーダは布団の中に隠れる。


「五月蝿いな…」


 母親はそんなことを許さない。


ガンガン、バコ


 母親は息子の部屋の閂を壊して入る。


「あんた!いつまでそうやってんの!?」


「んー…」


「ちゃんと剣の練習ないと!

大きくお父さんみたいな立派な兵士になれないよ!」


 少年は包まった布団に隙間をつくり話し出す。


「いいよ…どうせなれないから…」


 母親はクーダの言葉に一瞬顔を歪ませる。


「クーダ…あんた…

お父さんと一緒の職業になれなかったからっていつまで不貞腐れてんの。

「アサシン見習い」も立派な職業なんだから、頑張らないと!」


 「アサシン見習い」は「暗殺者」の初期職だ。

 クーダ自身がこの「暗殺者」に偏見を持ってしまっていた。

 彼の家族にもこの村にも、同じ偏見を持っている者はいなかった。

 しかしクーダは持ってしまった。


 母親はそんな偏見を払拭するようにしたり、クーダ自身を褒めたり色々努力していた。

 

「あんたはやればできるんだから、お父さんみたいな槍術師なれるように頑張ってたし、領主様みたいな剣士にもなれように頑張ってたじゃない」


 この槍術師の父親とはドノンの事だ。

 つまりクーダはドノンの息子だ。


 クーダは父親であるドノンとクーガに憧れて、幼い頃から槍と剣の練習をしていた…

 しかしそれも「就の儀」までだった…


 憧れた人物達とかけ離れてしまったと思い込み、それからはずっと鬱ぎ込んでしまい槍も剣も練習を止めてしまった。


「別にホノカ様みたいになれ、なんて言わないから…」


ダン


 クーダは飛び上がり走り出してしまった。


 それに驚いた母親はすぐに自身が言った事が口に出してはいけない事だと、言った後に気づく。


「やっちまった…」


 クーダはホノカにコンプレックスを抱いていた。

 理由は二つ、一つはクーダにとってホノカは失恋相手だということ。

 もう一つは自分とは違い、父親と同じ系統の職に恵まれ、大人達、父から認められるホノカが羨ましく、妬ましかったからだ。

 ホノカと話した事は無いが父親同士が仲が良いため、ホノカを近しい人物だと感じていたのも原因だった。


「はぁ…」


 クーダは村はずれまで走って来ていた。


 クーダは近くにあった石を蹴りながら愚痴が始める。


「ホノカ様みたいになれるわけないじゃん…」


ケン


「強いのにかわ…かっこいいなんて…神様は不公平だよ…」


ケン


「職業だってさ「アサシン見習い」か「薬士見習い」なら「アサシン見習い」しかないだろ…」


 クーダは父親やクーガに強い憧れから、戦闘職を選んでいた。

 

(「そもそも、父さんも領主様の名前から取らなくもいいのに…名前負けもいいとこだよ」)


ケン


(「というか平民なのに貴族様と仲が良い父さんが特別なんだ…」)


「クーダー」


 石を蹴っていたクーダの耳に母親の呼び声が聴こえる。


(「げっ…母さん…森に逃げよ」)


 クーダは母親のお小言から逃げるために軽い気持ちでトゥースの森に入って行ってしまう。


(トゥースの森)


 太めの枝を持って、草や木を叩きながら歩いていた。


 これはドノンが教えた事だ。

 近くの森に狩りをしたときに、動物を避けのために教えられていた。

 しかしそれはトゥースの森ではない。

 トゥースの森には音が鳴れば襲いにくる闘争本能の塊のようなモンスターやその音が無害かどうか調べる知能が高いモンスターもいる。

 この森ではやってはいけない事だ。


「トゥースの森に入るなって父さん行っていたけど静かで良いとこじゃん」


 森が静かなのがどれだけ異常な事がクーダは知らなかった。


 でもクーダもあることに気づく。


スン、スン


 「何か臭いな…」


 クーダは森に漂う異臭に気づき、その臭いの元を探してしまう。


スンスン


「あ」


 クーダは木に隠れていた匂いの元であるオークを見つけてしまう。


 クーダは急いで自分の口と鼻を塞ぐ。

 そのままクーダはオークに気づかれないように後退りする。


ビシ


 クーダは気づかずに自分が落とした枝を踏んでしまう…


「ピギー!」


 オークは音に驚いて叫ぶ声を上げ、辺りを見渡す。


 そしてオークとクーダの目が合う…


「ブヒーーーーー!」


 オークは叫び声を上げて、クーダに襲いかかる。


バキバキ、バキン


 オークは周りの木々を荒らしながらクーダを追う。


 暫くは逃げる事が出来たクーダの体力は切れる寸前だ。


「はぁ、はぁ、あ」


 クーダは石を踏んで滑られてしまい、そのまま転んでしまう。


 クーダは逃げようと一生懸命立ち上がろうするがオークはそんなクーダに斧を振りかざす。


「ブヒーーー」


スパン


「間に合った」


 クーダのピンチを救ったのはホノカだった。


 ホノカはクーダに近づく、そしてクーガは命を救われた喜びより、半泣きで転けているのが恥ずかしくて、無理に立ち上がる。


「大丈夫?」


「あ、え…」


「あれ?ドノンの息子のクーダだよね?俺と同い年の」


 ホノカは赤ん坊の記憶とドノンの話で目の前の人物が誰だかすぐにわかった。

 クーダは話をしたことがないホノカに自分の認知されていたことに驚く。


「え…あの…はい」


「オークとは森で出会ったの?」


「はい…」


「そっか」

「村に出たんじゃないのかよかった…」ボソ


 クーダはこの状況に冷静なホノカをまじまじと見て、ある疑問が湧く。


「あの…ホノカ様は何で此処に?」


「あぁ、あの山でレベル上げ…あ…」


「!?」


 ホノカは口を滑らせ、クーダはその内容に驚愕する。


 ホノカは急いでクーダに口止めを頼む。


「えっと…この事はドノンとか大人達に内緒にしといて」


 クーダはホノカの凄さの中に案外普通なところが垣間見えて恐怖と緊張が和らぐ。


「はい、自分の此処に来ちゃいけなかったんで…」


 ホノカは口止めが成功して喜ぶ。


「ありがとう、ごめんだけど一人で帰れる?やらなきゃいけない事があるんだ」


 クーダは頭を下げてお礼をする。


「はい、大丈夫です」


 こうしてホノカは大牙山へと向かい、クーダは一人と一匹?でネンコ村に帰っていく。


(ネンコ村)


 ドノンが怒りの形相でクーダを探し回っていた。村に帰ってきたクーダを見つけて音を立てながら迫り寄る。


「クーダ!お前森に行っていたのか!?」


 クーダは謝罪をしたいが、先程の恐怖とドノンへの畏怖が入り混じって、声を出せずにいた。


「怪我してるじゃないか!?」


 ドノンはいち早くクーガが怪我していることに気づいた。

 クーダの手ひらは派手に擦りむいたような大きめの擦り傷があった。しかも服も所々ほつれている。


 ドノンは息子が心配で更に声を荒げる。


「森で何かあったのか?!」


 クーダはドノンの質問に答えようとすると、ホノカとの約束を思い出す。


『内緒にしといて』


「…森で転んだ」


「なっ…嘘を…」


 ドノンは真実を問い詰めようとするが、息子の覚悟をした顔を見て、言い淀む。


「もういい!俺が良いって言うまで部屋にいろ!」


「はい」


 クーダはドノンにしっかりと頭を下げて、自分の家へと帰っていく。


「はぁ…」


「おやっさん大丈夫ですか?」


「あぁ、それより森に何かあったのかもしれない。

空いてる奴らを呼んで、異常がないか見に行くぞ」


「わかりました」


 こうして集められた非番の兵士4人と狩人3人が森へと探索を始める。


 そして異常をすぐに見つける。


「これはオーク…」


 ホノカが処理をやり忘れたオークの残骸を見つける。


 兵士の一人が転がっているオークの頭を持ち上げる。


「頭が飛んでる…しかも綺麗な真っ二つに…」


「一体誰がこれを?」


「でもモンスターの内臓はそのままだぞ」


 ドノンがあることに気づく。


「おい、ホノカ様は何処だ?」


「え、まさか」


「恐らくホノカ様がやったんだろう…」


 狩人は信じきれない顔をするが、兵士達はもう納得していた。


「うちのガキはホノカ様に助けられて、黙っているように言われたんだろう…」


 ドノンは二人に起こった事をドンピシャに当てて、ため息を吐く。


「ホノカ様には困ったもんだ…

ここまで強いのも考えものだな…」


 オークの素材は価値が高いので大人達は持って帰ることにした。


「俺が領主様に報告してくる。

オークを頼む」


「「「わかりました」」」「うっす」「はい」


 こうして事を隠そうとしたが、結局ホノカの功績は大人に知れ渡ってしまった。

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