第5話:各国の決断
(メルトピア王国)
メルトピアの国王は部下から報告を受けていた。
「ディスハートのX級冒険者が敗北しただと!?」
国王は部下の報告に机から身を乗り出しそうになっていた。
「はい!例のX級候補と衝突したようで」
「例の!?ディスハートに入国してしまったか…衝突した理由は…まさかいつものアレか?」
「はい…」
部下の返事に国王は頭を抱える。
「またディスハートの悪癖が出たか…
彼の王には何度も忠告したのに…全く…」
国王はゆっくりと椅子に座る。
国王の代わりに宰相が部下に話を続けさせる。
「ディスハート自体はどうなったんだ?」
「それが…X級候補はそのまま王宮に直談判をしに行き…そこでも悪癖が出たようで…」
今度は宰相が頭を抱え始める。
「はぁ…」
部下はその様子を見て、口をまごまごとしながら続きを話始める。
「…その結果、X級候補に多額の慰謝料と…さ、更にX級候補はディスハートの抱える借金の即時返還を求め、ディスハートはそれを呑んだようです…」
「何!?」
国王は再び立ち上がった。
「ディスハートのやったことは許されることではない。しかし暴力で問題を解決することは行けないことだ…
暴力は悲しみしか生まない…」
国王の様子を見た宰相はある事を口にする。
「やはり例の件は…」
国王はそれに頷く。
「メルトピアは…」
(ルナティア王国)
ルナティアは会議をしていた。
「ディスハートが陥落した?」
大臣達はディスハートの陥落には驚いた様子はない。
報告している文官にも動揺の様子はなく、淡々と報告をする。
「はい、件のX級候補とディスハートのX級冒険者フウールが激突、その結果はフウールの大敗。
更にX級候補の仲間がディスハートの戦車部隊を壊滅。
甚大な被害を出したのこと」
宰相がその報告ですぐに予想をする。
「X級冒険者が負傷、資金が無くなったところを敵対国に攻められたと?」
「はい、その様です」
報告が終わると大臣達はつまらなそうに言葉を並べ始める。
「身から出た錆だな」
「どう意見だ。X級を盾に諸外国からの借金を踏み倒していたツケだ」
「獣人やハーフエルフ、ドワーフの国とも関係が最悪だった。何故天使様達はあんな国々を放っているのだ」
「これ、エッチング侯。言葉が過ぎるぞ」
「確かに…すまない老公」
「例のX級候補の話をしませんか?」
「そうだな」
「候補殿が仲間思いではあるが…この様子だとかなり気性が荒い様だ」
「いくら侮辱されたといえど感化しかねる。もっとやりようがあった筈だ」
この言葉をミンクの獣人の大臣が否定する。
「いやあそこの愚行は目に余った。
今回の事がなくてもこれ以上に酷い事になっていたかもしれん」
「だがアレを任せれるかは話が別だ」
「兎角…我々には選択肢が少ない」
議題が白熱にする中一人が場を変える。
「王よ…もう決めてらっしゃるのでしょう?」
一人の家臣が話に一切参加していなかった王へ声をかけた。
「…あぁ…」
力のない肯定をした王の言葉を大臣達は待った。
「「「…」」」
「…ルナティアは」
(ナーニャ王国)
ナーニャ王国もX級候補…ホノカの一件を聞いていた。
国王はソーファに横になり、ミルクティーを飲んでいた。
「ディスハートから援軍要請?」
今回は人族の宰相が国王に報告していた。
「はい」
「それまたどしたの?」
「それが件のX級候補と揉めたようで」
「あー、また馬鹿やったんだディスハート国民。
X級候補者にすらやっちゃうんだー。あのお家芸」
「今回はその同行者だったようですが」
「同じだよ。仲間を傷つけられて黙っている冒険者はそういないからね」
「今回件どうなさいますか?」
「無視するよ」
「かしこまりした」
(カスダーケ王国)
カスダーケも議会をやっていた。
情…薄いドレスを着た女性と一緒に…
「ディスハートの借金が返ってきた?」
「えぇ、満額」
「珍しい事もあるんだな。明日は槍が降るんじゃないか?」
国王の冗談に部下はクスクスと笑う。
「それで急にどうしたんだ?
等々他国にでも攻めこまれたか?」
「いや例の者にやられたようで」
国王は宰相が言っている人物がわからずに首を傾げる。
「例の?」
「X級候補の…」
国王は何故か話の途中で手で払うように話を止めさせる。
「あー、あの話のか」
宰相は嫌がっている理由を知っているのか楽しそうに話を続ける。
「ふ、それで例の者とX級冒険者フウールが戦闘になり、フウールが敗北。
その後ディスハートの軍とも戦闘になふり、軍は壊滅。
ディスハートは賠償金と借金の返済を強制されたようです」
「ディスハートは気の毒だな」
「お助けになりますか?」
宰相の質問に国王は鼻で笑って答える。
「まさか」
「ですよね」
「当たり前だ。私の可愛いプリンちゃんを貶したのを金で許してやろうとしたのに、無視ときた。
X級がいたから手を出せなかったが、X級も軍も敗れた…
あんな国亡ぶも同然だ」
パキ
国王は目の前にあった胡桃を取り握り潰した。
家臣達はそれを楽しそうに見つめる。
宰相だけは少し呆れて、国王にあの質問をする。
「確かにそうですが…
それでどうするんです?例の件」
「ん?勿論、俺は…」
(冒険者ギルド、マクアンス王国支部)
冒険者ギルドは全体が騒がしくなっていた。
勿論冒険者ギルドの幹部達も会議とは言い難いくらいに大騒ぎをしていた。
「ディスハートのX級がやられた!?」
「馬鹿な!!」
「どうするんだ!?このままでは冒険者ギルド本部に目をつけられるぞ!!!」
「ディスハートから多額の請求が来ているぞ!?」
「無視すればいいだろ!」
「馬鹿言うな!!!ディスハートとは条約を締結している!無視すれば条約違反となり我々の地位が危うくなる!」
「あの案を出した貴様の責任だぞ!」
「ディスハートから入るとは思わないだろ!」
「何を言う!氷の大陸からの直線距離で最も近いのはディスハートだろう!」
「ならばどうすればよかったのだ?!
非人道的な国は避けるように来いと言えばよかったのか!?」
「責任転嫁をしてる場合ではない!我々全員で対処しなければならない!」
「我が国に来てある程度持て成すつもりだったが、
うちには奴隷制度がある。獣人族は勿論、人族もだ。獣人で国家転覆…人族なら…」
「いやこうなっては、あの話は無しだ!」
「そうだ!こんな事する奴に勇者の指導者は任せられないだろう!」
彼らは勇者の育成者としてホノカを充てがうつもりだった。
しかし彼らはホノカ基、冒険者の気性の荒さを考慮していなかった。
もし他のX級冒険者がディスハートに来ていたら、ホノカ程ではないが大揉めになり、街が半壊していただろう。
X級じゃなくてもS級にすら、フウールが負けて「S級に負けたX級」と言われることになっただろう…
「だがどうする?今からX級は無しだなんて伝えたらどうなる?」
「くっ…」「うう…」
偽りとはいえX級を倒した存在にそんな事自分達で伝えるなんてことをしたくない幹部は俯き唸ることしかできなかった。
何かを閃いたのか一人が顔を上げる。
「待て…そもそも勇者と国王達が何と言うか、まだわからない」
これに幹部達は少し明るい顔になる。
「そうだ。各国が反対するかもしれない」
「あぁ…あと各国に任せよう…」
幹部達は頷き、考える事を放棄した。
(メルトピア、ナーニャ、カスダーケの国王)
「「「X級候補を勇者の師にはしない」」」
(ルナティア国王)
「彼に勇者の師を任せる」
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