第22話: 改まる覚悟
ホノカは一心不乱に剣を振っていた。
しかしその顔はどこか柔らかく、ホノカらしくはない。
『ホノカ』
ホノカは呼び止められ剣を置く。
『どうしました?父上』
『最近学園はどうだ?』
ホノカは何かを思い出しのか、一瞬固まる。
『…上々です』
『それはそうだろう』
クーガは半笑いで答える。
ビク
ホノカはその半笑いに身体がビクつく。
理由は…
『聞いているぞ?学園での騒動を…
ヴィナタ君やオニギリ家のご子息、更にはオーレン殿下に無理難題な特訓を強いていると…』
クーガの笑みは徐々に消えていった。
『違うんです…アレはオーレンが、いや殿下が鍛えて欲しいって…』
クーガはホノカの言葉を遮る。
『この馬鹿者が!!!
学園から無断で連れ出し、
ダンジョンに連れ込むわ!
ワイバーンをソロで討伐させるわ!
更に殿下達を魔法で襲う…これがお前にとっての鍛えるか?!!!』
『…す、すみません…』
『陛下が強くなった殿下に満足したからいいものを…普通ならば処刑されても文句言えないぞ!!!!!』
『貴方落ち着いて』
グレンダが興奮したクーガを落ち着かせる。
そんなグレンダの腕には5歳のポーラがいる。
そんなポーラは『おにいさま、すごい』と楽しそうに笑っている。
『はぁ…』
ため息をついたクーガは何となくではあるが髪が薄い気がする。
『楽しそうじゃない!』
クーガは自身の妻の言葉に顔をヒクつかせる。
『楽、楽し…はぁ…ホノカが学園に入学してからずっとこんな話ばかりで私は死んでしまいそうだ…』
『もう…大袈裟ねぇ…毎回感謝状が来ているんだからいいじゃない!
貴方もホノカのおかげで今じゃ伯爵様じゃない!』
『息子の手柄で無理矢理だがな…
ホノカが受け取った報酬金の管理、
ホノカが開拓した領地の管理、
ホノカのダンジャン管理、
私の能力をもう既に超え過ぎているよ』
『剣ばかりの貴方が貴族らしくなったじゃない!ホノカに感謝した方がいいじゃんじゃない?ね、ホノカ?』
グレンダは逃げようとしていたホノカを問いかけで呼び止める。
『え、あの…』
ホノカは顔をひきつかせるだけでまともに話せない。
ここで助け舟(?)が来る。
『兄上!また功績を上げたのですか!?』
勉強中のはずのユーガが満面の笑みでやってきた。
『ユーガ、兄の罪を功績と言うな…』
クーガはやれやれと首を横に振る。
『でも皆兄上の偉業を讃えてますよ!!
貴族の子達も村の子達もみんな兄上のお嫁さんになりたいって言ってますよ!』
『それも問題の種だな…』
『もう、貴方ったら良いことまで悪く考えすぎよ』
『でも王族や公爵家から婚姻なんてどう対応したらいいのか…』
『男爵で辺境伯の娘を嫁迎えた人が何言ってるんですか』
グレンダはクーガの大笑いする。
『私達の時みたいに…とはいかないでしょうかが…ホノカが選んだ子なら私はどんな子だっていいわ』
『…私も勿論そのつもりだよ…』
クーガはグレンダの言葉に納得しつつも少し諦めたように頷く。
『ふふ』
グレンダはそんなクーガの全てを察して、楽しそうに笑う。
『ホノカ…私達は貴方の事を信じていますからね、たとえ貴方が失敗したとしても私達の味方よ』
『はい…』
『じゃあお昼にしましょ!』
皆は邸へと戻っていく。
ユーガはグレンダ疲れていると思い自分からポーラを肩車して、笑いながら走っていく。
ポーラも楽しそうにしている。
クーガは最初より柔らかな顔でホノカを見つめる。
『ホノカ』
ホノカはクーガに声をかけられ、またお小言を言われると思い不安そうな顔でクーガを見る。
『…?』
そんなホノカを見て、クーガはクスッと笑う。
『もう怒ってないよ、ただな…お前はなんでも出来てしまう…
でもいつか出来ない事にぶつかると思う…
そんなときは友や同僚、上司や部下に信じられる仲間に助けてもらっていいんだ…』
『はい』
ホノカは父であるクーガの話を真剣な眼差しを向け聞いていた。
その瞳に満足したのかクーガは表情が一層柔らかくなった。
『ユーガとポーラと仲良くするんだぞ?』
ホノカは急に話を変えられ一瞬戸惑うが、和かに返す。
『はい!』
しかしクーガの顔は今度は少し悲しそうになり…
『あの子達を頼んだぞ…』
『は
…
い…』
ホノカは夢から覚めた。
ホノカの目には涙が流れていた。
ホノカは涙でボヤけた視界を拭う。
外は丁度日の出でまだ暗い。
「おはようございます…」
挨拶をしたのはヴァレットだった。
しかも平伏した状態で。
ホノカは起き上がると近くにはポーラと従魔が寝ていた。
「ヴァレット…すまなかった…
だからそんなことしなくていい…」
「いいえ…私は主の眷属でありながら、主を傷つけてしまった…それはこんな事では許されるものではありません」
この言葉を聞いてホノカは一緒にいてくれて従魔を丁重に退かしながらベッドから降りる。
ホノカは両膝をつき、ヴァレットに語りかける。
「俺は怒りに呑み込まれた…そんな俺を見捨てずに救ってくれてありがとう…」
「勿体なきお言葉…」
ヴァレットは堪えているが、閉じた瞳から涙が溢れ落ちる。
「ダメダメな俺から頼みがあるんだ」
ここで初めてヴァレットは顔を上げる。
「何なりと…我が最高の主よ」
「俺は弟を絶対に救う…」
「はい」
「もう関係ない人を巻き込もうとはしない…
あのときの俺はユーガのためじゃなく、俺の怒りをぶつけるためにやっていた気がする…
もしあのままヨトゥンに乗り込んでいたら、最悪弟を人質にとられ、殺されていたからしれない…」
ホノカはヴァレットに言い訳をするように説明した。
「だからユーガを助けるためにどうか俺に力を貸してくれ」
ホノカは眷属であるヴァレットに頭を下げ、頼みこんだ。
「勿論でございます…」
「すまないが、もう一ついいか?」
「何なりと」
「俺がまた暴走したときは絶対に止めてくれ」
「…かしこまりました…」
ヴァレットは次は止められ可能性を考えてしまい、少し歯切れの悪い返事をそた。
ホノカはそれに気づかない、別のことが気になっていたからだ。
ホノカは辺りを見渡し、他の者達がいないことが気になっていた。
「そういえば他の奴らは?」
「実は…」
ホノカはヴァレットから自身が寝ている間に起こったことを報告した。
自身の暴れたことが原因で、ヨトゥンがタイタンに宣戦布告したこと、
カイジンとセルムにはそれの知らせと招集がきたこと、
コソコソしていたリントが従魔に捕らえられていること、
それが自身が寝ていた二日間で起きたこと、
しかも戦争が今日明日にも開戦すること…
「そんな…」
「カイジンは『お前たちの所為じゃない、ただ早まっちまっただけさ』と言っていました。」
ヴァレットは落ちこむホノカを見て、急いでカイジンの言伝を言ったが…
「それを俺の所為だって言うんだよ…」
ホノカには逆効果だった。
「ユーガを助ける前にアイツらを助けに行く」
「かしこまりました」
「もしかしたらユーガもヨトゥンの戦力として出ているからもしれないし…」
ホノカは今度自身に言い訳をした。
ホノカはヴァレットに指示を出そうとする。
「じゃあ…」
「ポーラもいく…」
いつから起きていたのか、ポーラがベットから起き上がっていた。
「ポーラ…」
ホノカはポーラ止めようとするが…
「ポーラも小さいお兄ちゃん助けに行きたい」
ポーラは初めて兄の言葉を遮って意見を言った。
(「母上…」)
そのポーラの姿はグレンダそのものだった。
ホノカはポーラの強い眼差しにグレンダを重ねてポーラを止めれなかった。
「わかった…」
「でもヴァレットとタヌ太郎と一緒に行動するんだぞ?」
「うん」
こうしてホノカ達は戦場に向かう。
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