第17話: ムーン家
今日から2週間ほど休載します。
(ホノカ視点)
「ポーラを頼む」
「かしこまりました」
「じゃあ行ってくる…」
「いってらっしゃいませ」
俺はヴァレットとリントに見送られ、光の大陸に転移する。
ポーラとは顔を完全に合わせることが出来ていない…
一緒の空間にすらいない…
こんなの…まるで母上を亡くしたばかりの父上みたいだな…
いや。
母上はどうしようもなかった…
父上はポーラを見ることで母上との思い出を思い出すのが怖かっただけだ…
でも俺は違う…
俺は…自分の不甲斐さを、自分の愚かさを、自分の無知を、憤りを感情に任せ、赤の他人にぶつけた…
兄である筈の俺が、人の汚い部分を此処ぞとばかり見せてしまった…
嫌われて当然だ…
ここで何かわかればいいけど…
母上の生家、ムーン邸…
まずは衛兵に…
「!?」
?、俺と目が合った衛兵が慌てて屋敷に入っていった。
バン
すぐに先程の衛兵と若く明るめの茶髪の人が出てきた。
「ホノカ」
彼は俺の名前を呼ぶ。
「はい…えっと…」
この人は何ていうんだ?
「すまない…私はボレアス・ムーン…
君の母グレンダ・トライーガの弟だ。」
「どうもはじめまして」
「あ、あぁ」
?、はじめてだよな…?なんでそんな悲しそうな顔をするんだ?
「すまない、中へ入ってくれ」
母の生家ムーン家に初めて入る。
外もそうだが邸というより要塞みたいだな…
邸自体はホワイトハウスっぽい。上に巡回してる兵士がいるし。
「珍しい作りだろ?」
「そうですね…」
「これはご先祖がどんな劣勢でも最後まで戦い抜きたいという思いを、初代国王の提案で建築されたらしいんだ」
初代国王ってことは転生者か…やっぱホワイトハウスじゃん。
転生者の凝った家造りを見ながら、俺は邸の中へ入り、客室らしき部屋案内された。
「すまない…少しの間ここで待っていてくれ」
「わかりました」
叔父さんはそのまま出っていてしまった。
先程から叔父さんの悲しそうな顔は変わらないのだが嬉しさが垣間見れる。
待っていると外が騒がしい…
何かあったのか?
バン
「ホノカ」
知らないおじさんが中へ入り、俺に抱きつく。
俺は何故かそれを拒まなかった。
おじさんは泣いていた。
暫く不思議な時間が流れる。
すると叔父さんが入ってきた。
「父さん!」
父さんってことはこの人は俺の祖父か…
叔父さんが来ると祖父は渋々という感じで俺から離れる。
「すまない…」
祖父は深呼吸をし、心を落ち着かせ涙を止める。
「久しぶりだ」
へ?
「抱いたのは赤子の頃以来か…会ったのはお前がご馳走を届けてくれたこともあったが…」
そういえば前に晩餐のとき分身に料理運ばせたことあったな。
「すまない…感極まってしまった」
少しの間祖父は俺の顔をまじまじとみて、落ち着いてから椅子に座る。
「ポーラはどうしたんだ?」
祖父は寂しそうに聞いてきた。
ユーガのことを聞かないってことは祖父は俺たちの事情を知ってくれているようだ。
「実はそのポーラと…母上のことで聞いておきたことが…」
俺はユーガと母上の身体のことを、それを知った経緯、ポーラにしてしまったことを話した。
「そうか…ユーガも…」
祖父や叔父さんは先程まで悲しそうな顔から悲痛の表情に変わった。
「やはり母上の身体をご存じだったですか?」
祖父はまるで項垂れるように頷く。
「勿論だ…」
「父上も?」
「…あぁ、彼から婚約の申し出をされらときに私から話した」
「そうだったんですね…」
「義兄さんを責めないであげてほしい…、姉さんが亡くなってそれはどう話していいかわからなかったんだ」
叔父は俺の様子を心配したのか父上を庇ってくれた。
「はい。わかってます…
父上はちゃんと話そうしてくれていました…でもアイツらに連れていかれそれは叶わなかった…だから、わかっています」
「「…」」
二人は俺の様子に拳を強く握りしめた。
そろそろ本題に入らないとな…
「すみません…お聞きしたいことがあります」
「そうだったね、何を聞きたいんだい?」
「イグラシアにいた邪神教団の奴は言っていました。この症状のものは14くらいには死んでしまうって…でも母上はその倍の年まで生きていました…それを知れればポーラのことも解決できるんじゃないと思って…」
俺が話すと祖父は目を背け、叔父は気まずそうにする。
「それを話す前に何故我々がこうなったか…聞いてくれるかい?」
「勿論です」
これに関しているなら歴史でもどんな小さい情報でも知っておきたい。
「話は建国当時まで遡る…
ペンドラゴン建国時二つの家を興すのに揉めた。
一つはオニギリ家。オニギリ家の初代当主のガイード様はオーガだからだ。知性があり英雄でもあるのにモンスターというだけ当時はすごい揉めたんだ。
初代国王は友を侮辱されたことに大変お怒りになり半ば強引に有力者達に認めさせた。
そしてもう一つはムーン家だ。
当時のペンドラゴンの土台になった地域はシャンバラと長い間戦をし、獣人に忌避間があったんだ。しかし、これに関してはそこまで反対されなかったんだ。
ムーン家にはシャンバラとの戦だけでなく国交を望まれ、反対派の殆どが大人しかった。」
これ、ゲームのときにもクエストで似た歴史を聞いたことがある…
「しかしムーン家は獣人から裏切り者と言われ、我々と関わるとシャンバラから反感を買うのではと恐れられそのためシャンバラだけでなく王国の獣人から長い間避けられてきたんだ。」
そう、クエスト名は「シャンバラとの蟠りを解決せよ」だった…
「初代のホワイト様はそのことを覚悟をしていたし、仲間と築き上げた王国を守る事に誇りそんなこと気にも止めてなかったらしい。
ホワイト様は無事人族の愛する妻を迎え、ムーン家は順風満帆に暮らした」
叔父は一時的に部屋の外に出て、執事達に何か指示を出した。
他の人間にはあまり聞かせたくない話だったのか?
「しかしの幸せは突然終わりを迎えた…6代目当主の3人の子供のうち生き残ったのは14歳の娘ただ1人…
6代目は必死にその原因を調べたそうだ、たがその理由を知ることはなかった、知ったのは7代目となった生き残った娘だった。
7代目はペンドラゴンの長年の願いだった、シャンバラとの国交を結ぶことに成功させたんだ。
シャンバラの者と関わっていくうちにある噂を耳にしたんだ…」
「噂?」
祖父は俺の言葉を首を縦にふり肯定する。
「その噂とはシャンバラの辺境の村で若い人族が急死する…しかもその全員が並外れた力を持つ逸材ばかり…
シャンバラは流行り病だと考え、発生源を探していたらしい…
7代目は兄弟のことで病気の詳しくなっていた7代目は相談され、協力するために独自に調べていたんだ…
調べていくうちに7代目はシャンバラで死んだ者達と自分の兄弟たちの死に方に似ている点に気づいき、死んだ者達の簡単な個人情報から食生、自生する動植物を調べ尽くした…
すぐにある類似点は見つかった…
それは人族でありながら絶大な身体能力を有していることに…
ある者は素手で巨岩を砕き、
またある者は目を隠された状態で矢を魔法を避け、
死んだ若者皆が天性の能力を持っていたことを知った。
しかも自分と彼らの祖先が獣人であることも…」
そんな昔からわかっていたのにやっぱりあんな残酷な方法しか助かる道がないのか?
「7代目は推測した人族であるにも関わらず獣人の力を持って生まれた者はその力に耐えることができないのではないかと…
7代目はその推測…憶測を公表することが出来なかった…
これは差別に繋がると、何よりこれは政治的に自身の弱点になると考えたからだ。まぁ…今では獣人の多い国では常識のようだ」
7代目の気持ちは俺にも少しはわかる…
これを公表したら善人だけでなく悪人が善人の倍の数現れる…
「7代目も獣人の力を?」
「いや7代目は違ったようだ」
子供全員に遺伝するわけではないんだな…
そういえば…祖父は何故そこまで詳しいんだ?
「不思議そうだね?無理もない、何故私がここまで事細かく知っているかというと…少し待ってくれ用意させる」
?
祖父は外にで待機していた執事に指示する。
暫く待つと祖父と同年くらいの執事と数人の騎士が入ってきた。執事はお盆を持ちその上にボロボロの手帳が乗っていた。
「それは7代目の日記だ。手に取って見てみるといい」
「拝見します」
日記には丁寧にも詩織が付箋のように挟まってあり、最初の詩織の前後を読むと最初は日記として使っていたが、兄弟が死んで若いうちから病気のことを調べ、この元日記帳にメモしていたようだ。
「本来この症状を区別する術はないらしいが、我が一族にはこの症状を持っている者にはある特徴がある。それは髪色が銀白であるということだ」
「!」
「今迄グレンダを含め11人全員が銀白の毛色をしていた。
他の種族にもよく使う言葉だが、獣人、その血を引く我々はこの症状のことを「先祖還り」と呼んでいる…
我々は疑心暗鬼になりいつしかそれを恐れ近接戦闘職ではなく、遠距離戦闘職、特に魔導師を選ぶようになっていた。
しかし銀白の毛色を持って産まれ子は全員戦闘職の才能に恵まれてきた…
グレンダも勿論そうだった…」
祖父は俯き泣きながら話始めた。
「私はグレンダに生きていて欲しかった…だから私はグレンダを運動させないように邸に閉じ込めてしまった…それが…それがよくなかった…」
祖父は倒れ込む様に片肘をつき、片手で頭を抱える。
「グレンダは外に憧れるようになっていた…グレンダは学園の在学中冒険者になり、そのまま家出を出てしまった…
そうして暫くして冒険者として活躍するようになっていた…
私たちはそれを喜ぶことができなかった
帰って来る様に使者を送ったり自分で向かえにいったこともあった…しかしグレンダは各地を逃げるように回った…
そんなある日突然帰ってきたんだ…」
祖父はやっと顔を上げるが、その顔は相変わらず、いや先程より暗い。
「しかし私達家族にも悲劇が待っていた。
我が妻はグレンダのことで悩み身体を壊してしまっていた…グレンダが戻ってきても体調は戻らず、何とかその命を繋ぎ止めていたが、ホノカを見てすぐに息をひきとった…」
そうだったのか…しかも何て似ているんだ…
「グレンダは妻が体調を崩して酷く後悔していた。そして自身の冒険者時代の話を身勝手で恥ずべきことだと考え隠すようになった…」
母上がよく隠していたのはこんな理由がったなんて…
「ホノカすまない…グレンダが長くまで生き残ってきたのは特別な方法じゃないんだ…人の自由を奪い、人に悲しみしか与えることができない冷酷な方法なんだ…」
祖父は泣きながら孫である俺に頭を下げて謝ってきた。
叔父も居た堪れないのか一緒に頭を下げている。
ごく
「頭を…上げてください…」
俺は祖父達に近づき祖父達の頭を上げさせる。
「貴方が…どう思おとも…貴方が作ってくれた時間のおかげ…俺たちは生まれることができました…
貴方のつくった時間のおかげで母上は父上に会うことができました…
母上は…最後まで…幸せでした…」
「ありがとう…ありがとう…」
暫くこの時間が流れる…
「もう一つ聞いておきたいことがあります。ポーラの髪色は茶と黒でした…ポーラは大丈夫なんでしょうか…?」
「わからない…ユーガは我々の血が濃かったようだが…
ホノカとポーラは難しいからね、トライーガ家には魔族の血が流れている」
「え?」
「聞いていかい?君の父方の祖母は人魔族の有名な魔導師だからね」
「そうなんですか?」
「あぁ、彼女は王国の歴史に名を刻むほど実力者だよ。
王国歴史5本指に入る魔導師だよ」
「そうだったんですね…」
「彼女は余生を後進育成をし、王国の魔法の水準を高くした偉人だよ」
?、え?人魔、後進育成?…
「…祖母の名前は何て言うんですか?」
「名はデルディナ・トライーガだよ」
な!?デルディナ!?
ペンドラゴンの魔法スキル訓練所にいるあの鬼教官!?
青い奇抜なファッションに魔法の連撃が
確か…
口癖は平和ボケすんじゃね!カスども!
「口癖は平和ボケすんじぇね!カスども!といつも訓練生を泣かせていたよ」
やっぱり!確定だ…
祖父は思い出して楽しそうに話しているが俺達はいい思い出がない!
魔法スキルのレベルを上げるために魔法の打ちぱなしをしていると急に先程の口癖を吐き、俺らプレイヤーの邪魔をする害悪NPCだった…
後で知ったけどデルディナとの戦闘事は魔法スキル経験値が1.5倍を貰えていたらしい…
でもな推奨レベル3,000の大陸で10,000レベルのキャラクーとまともな戦闘出来るわけないだろ!
そんな恐れた怪物がまさか…俺の祖母とは…
「そんな顔をしないであげてくれ、王国も王国の魔導師も彼女には感謝しているんだ」
「そ、そうなんですね…」
俺たちは少しの間こんな談笑を続けた。
俺は帰ることにした。
帰る時は年老いた執事やメイド、騎士が俺を泣きそうな表情に見てくる。
俺に母上の面影を重ねているんだろう…
「ホノカ…」
祖父に呼び止められる。
「ポーラには話してあげなさい」
「でも…」
「ホノカの気持ちはわかる…痛いほど…」
「…」
「私は娘の命を思い、自由を奪った…
娘の思いを考えずに抑え込んだ…
抑えこんだ思いはより思いを募らせただけだった…
どんな気持ちもいつしか膨れ上がり、破裂する…
人の感情は操作できない…
ポーラと話し合い決めていくしかない…
私達は最後までそうすることが出来なかった…」
俺は口で返事出来ずに首を縦に振った。
「幸いお前たちは一緒に旅をしている
ポーラに寄り添ってあげなさい。今まで以上に…」
俺は頷き、漸く話すことができた。
「今日は色々とありがとうございます」
「感謝したいのは私の方だ…
以前お前が来たときの無表情を見て私は心配になった…」
その俺は分身です…
「でも今日お前の色んな顔を見れてよかった…
それに手紙でしか知らなかったお前達の話を聞けて本当によかった…
一つお願いがある。今度はユーガとポーラを連れてきてくれ」
俺を信じてくれているんだな…
「はい…では…」
俺は祖父達が手を振るのを見る。
先程教えてもらった叔父さんの子供が奥さんに抱えられ指をしゃぶりながら俺に手を振ってくれている。
俺は転移しポーラ達のいる氷の大陸へと戻っていく。
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