第3章 あの子に
死んでしまったユキちゃんの顔を、私はおそるおそる覗きこみました。
もともと色白だった肌が、青白く変色しています。内側から青い光が放たれているような、まだらな色合いが顔全体を覆っていました。
ユキちゃんの形の良いくちびるが紙で出来ているのではと、私は手の指先でそっと触れてみました。指の腹を、プニョッとしたくちびるの弾力が押し返してきて、全身の毛が逆立ちました。まだ微かに残っている温かさが、かえって失われたばかりの「死」を強調しているようでした。
それは間違いなく、本物の人間のくちびるでした。
ユキちゃんの死体を目の前にして、私はうろたえました。この場面を誰かが見れば、私が彼女を殺したと思われても仕方がありません。救急隊員がここに到着したときに、福笑いの紙が貼りついて窒息死したことを私が説明しても、きっと信じてもらえないに決まっています。
ーー貧乏で不細工な少女が、お金持ちで美人の友達を妬んで殺したーーそう世間から思われることは、当時まだ十二歳だった私でも容易に想像がつきました。殺人罪の刑罰が重くて恐ろしいものだということも。
こうなったら、ユキちゃんの死体を隠してしまおう。恐怖心をこらえて、私は彼女のワンピースのすそを持って引っ張りました。
「え? 紙……?」
私がユキちゃんの死体を少し動かした拍子に、彼女の顔から紙がパラリと落ちました。よく見るとそれは、さっきまで二人で遊んでいた福笑いの紙でした。ただし、その顔は最初の「おかめ」のようなふっくらとしたものではなく、ユキちゃんの細面で顎の尖った輪郭を描いていました。その紙に貼りついていた目鼻や口の部位の紙が、ペラペラととれて床に散らばったので見ると、そのパーツの一つ一つが彼女の顔立ちとまったく同じ形状で描かれていました。
訳が分からなくなった私は、こうなって初めて、「福笑い」セットの裏に書かれていた説明書きに目を通しました。「遊ぶ上での注意」の欄には、こんな文言がありました。
・この福笑いでは、決してズルをしてはいけません。目隠しをとったり、こっそり見ながら顔のパーツを置いたりしたら、顔の紙から二度と剥がれません。
・ズルをしたあとの福笑いを顔につけると、死ぬまで取れません。死んだら、つけた人の顔を複製して、新しい福笑いの「顔」が作られます。
これを読んでようやく私は、ユキちゃんの身に起こった出来事を理解することができました。すべては彼女が、私より上に立ちたいという傲慢さゆえにズルをしたことで招いた悲劇だったのだと。そして、私をからかおうとしてとった彼女の行動が、皮肉にも「新しい福笑い」を生み出すことにつながったのだと。
ここで私の頭に、一つの考えが閃きました。
ーーユキちゃん、あなたの顔をちょうだい。
私はユキちゃんの遺した「新しい福笑い」を使って、彼女と入れ替わることにしたのです。
(第4章へ)
第3章までお読みくださり、誠にありがとうございます。続きは明日更新の予定です。




