番外編 ~ 僕のお父さん ~
番外編です。
ビルケさん家の楽しい雰囲気が伝わればいいなあ。
僕はテオ。
六人兄弟の末っ子、だったんだけど、もうすぐ僕もお兄ちゃんになるんだ。
いつもの冬支度に合わせて、赤ちゃんを迎える準備があるから、皆大忙し。
おばさんのところも赤ちゃんが生まれるんだって。
おばさんはお母さんの妹で、子どもの頃に身体が弱かったんだって。今は僕より早く羊を追いかけてるのにね。
お母さんと同じ位に婚姻していて、お母さんは六人産んでるけど、おばさんには赤ちゃんが中々来てくれなくて、僕がおばさん家の子になる予定だったんだ。
赤ちゃんがきてくれて話は無くなったんだけど。
ちょっとホッとしてる。
僕がお父さんとお母さんの子どもなのは変わらないって皆言うけど、おじさんとおばさんを「父様」「母様」って呼ぶんでしょ?
おじさんたちのことは嫌いじゃないし、なんならお父さんより気が合うけど、それとこれとは話が別というか。
正直、兄さんたちだっているのに、何で僕? って感じ。
まあ、皆、領主館で一緒に住んでるから、あまり変わらないってのは分かるんだけどさ。
皆って? 子爵様のおーおじさんとおーおばさん、おじさんとおばさん、お父さんとお母さん、兄さん五人と僕とジョン!
シェレファは北国だから、雪がすごーく降るんだ。道もなくなる村もあるから、自分たちだけで冬支度ができない小さな村は、皆で領主館に来て冬の間過ごすんだ。
だから、領主館は広くていっぱい部屋があって、土地も広いから別棟もいっぱいあるんだ。
色々ボロボロで立派ではないけど、必要だから広くて、領主館がひとつの村みたくなってるんだって、一番上の兄さんが言ってた。
僕たち家族は本館の西棟に部屋があって、おーおじさんたちもそれぞれ北棟と東棟に部屋があるんだ。ご飯は皆食堂で食べてる。
喧嘩することも多いけど、うるさいくらいにぎやかなこの家が好き。
でも、お父さんは、ちょっとどうかと思う。
なんか、しまらないというか、情けないというか。
お父さんはこの家で唯一シェレファ生まれじゃないんだ。
お母さんを追いかけて王都から来たんだって。
どんだけお母さんのこと好きなの。
そういうところはジョウネツ的なのに、普段はいまいちヘタレ。オスの羊ってコウハイはジョウネツ的だけど、群れのリーダーになることはあまりないんだって。そんなところがお父さんは似てるって、二番目の兄さんが言ってた。
確かにお父さんは羊みたいなのかもしれない。夜、お父さんたちの部屋でメスに乗るオスの羊みたいな格好してたって、三番目の兄さんが言ってた。(その後慌てたお父さんがどこかに連れていっちゃった)
あれ? お母さんは羊たちが大好きだから、お父さんのことも大好きってこと?
えー? 羊の毛刈り、スッゴい下手なのに?
お父さんは昔お城で働いていたときにお母さんと出会って、一目で惚れちゃったんだって。
お母さんが成人したばかりの頃、お父さんは三十歳くらい。ろりこん野郎だって、四番目の兄さんが言ってた。
お母さんは、お城で十年以上も働いていたんだ。シェレファに帰る前の最後の仕事でお父さんと一緒になって、それがはじめましてだと思っていたんだって。
お城で働き出した頃にお父さんと会ったことは全然覚えていないって。
全然眼中になかったんだろって、すぐ上の兄さんが言ってた。
町の人たちはお母さんのこと「無表情」だっていうけど、お母さんにだって心はある。見てればちゃんと分かるんだ。
喜んでるとき、悲しいとき、……怒るとき。お母さんはあんまり怒らないけど、怒るときは、雷が落ちるから、お母さんを怒らせちゃいけない。
本当に落ちるんだよ……雷が。遠くの山にだけど。
そっか、お母さんが怒るときって、僕たちが危ないことをしたときと、お父さんがバカにされたときだ。
お父さんはもう歳なんだ。なんたって、おーおじさんと同じ歳なんだって。それって、おじいちゃんくらいってことでしょう?
雪かきをすれば腰を痛めるし、髪の毛はいつもピヨンってしてるし、歯磨きするとき、うぇってするし、最近は目が悪くなってきたって、字を書くときはメガネをしてるし。
昔はえらい騎士様だったって、本当かなぁ。
「あらあら、お父さんは本当に騎士様ですよ。疑ってはかわいそう」
そう言ってお母さんがクスクス笑うんだ。横でお父さんが「そんなあ」って顔してる。
「今も騎士だよ……」
え!? 今もなの?
治癒術が使える何でも屋さんじゃないの?
王都からお母さんを追いかけるとき、無職じゃお金に困るから、騎士としてシェレファにいるんだって。
え!? 王様から言われて? 王様に会ったことあるの?
お父さんすごーい!
すごいって? ってお父さんに笑いかけるお母さんは、すごくいい顔してた。
お父さんは「ビルケェエ」って情けない顔してたけど。
お母さんのこの笑顔!
今年の夏祭りのとき、あ、夏祭りはシェレファでも一番大きなお祭りなんだけど、お母さんの友達が来たんだ。ビビおばさんっていうんだ。
お母さんはビビおばさんとお祭りを回ったんだけど、お母さんはずっとこの笑顔で、町の人がおかしくなっちゃったんだ!
お父さんが先に死んだら、次は自分を選んでくれって! 何人も!
お父さんは歳だけどまだ死なないよ! また赤ちゃん生まれるから頑張って生きてもらわないと!
ビビおばさんは「ほら、笑うといっぱい男が寄ってくるでしょ!」って、ケタケタ笑っているし、お母さんもずっと笑顔で、町のおじさんたちがお母さんたちを囲っちゃったんだ。
お母さんによってきた人たちをお父さんとジョンが「けちらした」んだけど、最後にお父さんがジョンにけちらされてた。
何でかジョンの独り勝ち。
お母さんは本当に幸せそうにジョンと笑ってたよ。
犬に負けちゃったね、って言ったら、お父さんは「ジョンは犬じゃないよ……知らないって怖い」って。
ジョンはジョンだよ? 変なお父さん。
後でお母さんがお父さんには内緒ねって僕に教えてくれたんだ。
お父さんはね、昔、お母さんの命を助けてくれた、お母さんだけの騎士なんだって。情けなくても歳でもいいのって。むしろ「今」好みなのって、どういうことなんだろ?
僕はちゃんと知ってる。
お母さんは本当に、家族が大事なんだって。……お父さんも入れてね。
って、兄さんたちに言ったら、皆「知ってるよ!」だってさ。
皆素直じゃないよね。兄さんたちだってお父さんのこと、ちゃんと大事なのにね。
「「「「「お前もな!」」」」」だって!
……しらないよ! ふんだ!
読んでくださって、ありがとうございました!
バルト君の枯れ……を出したかったのに、ただのヘタレで終わりました……。
まあ幸せそうだからいっか。(´∀`)
笑顔で会う約束も果たされます。
カヤがビビと名乗っているのは、また別のお話で書いていけたらと思います。