表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/19

最終話


 その後、ベルガード公爵家とファーレンハイト侯爵家は全面抗争となり、あっと言う間にこの国から「ベルガード公爵家」はなくなりました。


 ベルガード公爵家は、世間に公表できない罪を犯していると王太子殿下はおっしゃいました。それを表に出さずにベルガード公爵家を取り潰すため、ファーレンハイト侯爵家との貴族同士の抗争を表の理由にしたのでしょう。

 私に分かるのはそれだけです。

 世の中、知らなくて良いことは、最後まで知らなくて良いのです。


 国民には、ベルガード本家一族は幽閉、分家筋は派閥を解体することで決着したと伝えられています。……本当のところは分かりませんが。


 この国に公爵家は三つ。その一つが取り潰しになったことで、ファーレンハイト家が公爵へと陞爵されるものと国中が思っていましたが、ファーレンハイト家は侯爵のまま、公爵は空位となりました。


 それは、ファーレンハイト家も騒動の一端を担ってしまったことに対する戒めだろうと言われています。


 この抗争を抑えられなかった国王陛下は責任を取る形で退位され、シュトラール王太子殿下が即位されました。

 同時にイザベル・ファーレンハイト侯爵令嬢と婚姻され、イザベル様は王妃となられました。

 騒動の後始末があるため、式典などは無期延期され、静かな式を挙げられただけで婚姻されました。


 その後、彼の兄、イーノ様とカトリン様も婚姻され、侯爵を継がれています。


 彼は、カヤ様を探すために国を飛び出そうとして、誰も止められずにいましたが、私が言ったのです。


 今追いかけても、カヤ様は逃げるだけ。今度こそ永遠に失いますよ、と。


 私の天恵を知る彼は、血を吐くように唸り、国を出て探すのを諦めました。

 私はただの事実を言ったまでです。追いかけられていることが分かったら、カヤ様はきっと、どこまでも逃げるでしょう。


 代わりに国王陛下がお触れを出しました。

 この度の騒動で、ジーク・ファーレンハイトの婚約者、落ち人カヤが行方知れずとなっている。見つけ次第手厚い保護を望む、と。


 まるで宝探しみたいにカヤ様探しをする風潮になりましたが、一向にカヤ様は見つかりません。

 時折、偽者が出て来ては、騎士団に完膚無きまでに叩き潰されています。魅了の魔術や幻覚の魔術で、偽者を本物と思い込ませようとしたらしいのですが、まあ、命知らずだこと。


 そういう私はというと、無事に王宮侍女を辞し、たんまりと退職金もいただきました。更には、間諜扱いされた上に派閥争いに巻き込まれて死にかけた慰謝料も国王陛下から内密にたんまりいただき、シェレファ領に帰ってきました。


 大人になった妹に驚き、老いた叔父にしんみりし、安定の腹黒さの義弟に何故か安心しました。(変わらないものもある)


 イルクナー伯爵とエルゼにも再会しました。

 十年以上会っていなかったことが嘘のように感じる程、エルゼはエルゼでした。

 エルゼの子どもたちもとても可愛らしく、私の無表情にビビりながらも気になるのか付いて回ってきます。

 エルゼの旦那様は自分の出自が皆に迷惑をかけたと嘆き、謝罪して回っているそうです。

 もちろん私にも丁寧な謝罪をいただき、かえって恐縮です。この方の責ではないのですから。

 家族と領民を大切にする、とても良い伴侶だとエルゼが惚気(のろけ)ていました。

 イルクナー領は安泰です。


 私はこの地(シェレファ)でカヤ様を待ちます。

 いつか、落ち着いたら、カヤ様から連絡があるはずです。

 そう、約束しましたので。


 カヤ様はとても聡い。

 彼らに「バレて」いなかった大事なものを守るため、見つかるようなことはしないでしょう。

 誤解があったことを知らず、彼と別れ、けじめをつけて行かれたカヤ様はきっと振り返りません。

 どこで誰に何を言われても、大事なものを守るために、きっと信じないでしょう。自分で見聞きするか、信じる人から聞くかしなければ。


 商隊が魔物に襲われても生き延びたということは、きっと一人ではないはず。

 願わくば、どうかカヤ様を守ってください。


 目を閉じれば。


 彼の名を再び愛おしそうに呼ぶカヤ様の姿が私の脳裏に浮かびます。

 それは少し大人の姿で、「今」ではありません。


 カヤ様、いつか、必ず、またあなたと会う。その時は笑顔で。

 これは天恵ではありません。

 カヤ様との大事な約束だから、です。


 私がカヤ様からの連絡が来ることに確信を持っていることは、彼にも国にも教えません。


 だって私は未だに怒っているのです。


 どんな事情があっても、カヤ様よりも家や国を優先した結果、カヤ様は傷付きこの地を離れることになったのですから。


 他でもない、私自身が、カヤ様の幸せを遮ってしまったのかとも悩みました。

 あの時、白い手紙をバルトロメウスに報告していたら何かが変わっていただろうか。

 あの時、無理にでもついて行ったら……。


 カヤ様の望むように。


 カヤ様が私にまた会うことを望んでくださっている。そのことが私の悩みを吹き飛ばしてくれます。


 無事ならばそろそろ生まれるはずです。

 婚姻の誓約から、何かを感じ取るでしょう彼が、私を問い詰めにシェレファに来ることでしょう。


 知ったことではありません。


 私は自分の身体が今は一番ですので。

 カヤ様のお子様と同じ歳になる腹の子を撫でます。


 え、父親?

 勝手にシェレファ領について来た「ビルケェエ」ですが、何か?





 羊の毛刈りの季節です。

 羊は良い。

 何年たっても、この思いは変わりません。


 棒きれを持って羊たちを追いつめる長男が、牧羊犬(ジョン)に追いかけられて泣きながら走っています。遊ばれてますわね。我が家の犬はとても賢いので、子守までこなしてくれます。

 歩き出して目が離せなくなった次男は、私の腕の中でぐっすりです。すでに牧羊犬(ジョン)に散々遊ばれ……遊んでもらった後ですから。

 お腹のこの子はさて男の子か女の子か……どちらにせよまた賑やかになりますわね。


 カヤ様、シェレファは今日も穏やかです。

 あなたは健やかに過ごしていますか?

 もうそろそろ、何か便りがあっても宜しいのではないでしょうかね。

 まあ、便りがないのが元気な証拠ともいいますけれども。


「ビルケェエ!」


 バルトロメウスが珍しく走ってきます。もういい歳なんですから自重しないと。

 手には何かの箱を持っています。


 ビルケェへ


 そう始まる幸せの手紙が箱に入っているのを私が知るのは、バルトロメウスの勢いに驚いて泣き出した次男をあやしたもう少し後の話。



たくさんある作品の中から、この作品を読んでくださり、ありがとうございました!


ビルケさんのお話はこれで完結となります。


今後も別のお話にちょいちょい出てくる予定ですが、基本的にはビルケさんはシェレファの地で穏やかに暮らします。

六男一女に恵まれ(ビルケさんとバルト君頑張った)、孫は三十人…。

終生、バルト君と共に歩みます。


実は王太子殿下の近衛騎士だったバルト君。もっと枯れてる感を出したかったのですが、それはまた別のお話で……。



とても励みになりますので、良かったらお星様をポチっとお願いします!

最後に、誤字報告くださった皆様、ありがとうございました。(何ヵ所もすみません…)



それではまた、私のお話が皆様の目に止まることを願って。



【追記】


ジャンル別、日間二位!!

ヽ(゜д゜ヽ)(ノ゜д゜)ノ!!

本当に嬉しい!

ありがとうございます!!


番外編を一話追加しました!

良かったらお読みください。



誤字報告の中に、言い回し(てにをは等)を直していただくことがありましたが、分かりづらくても、これが私の精一杯の表現ですので、そのままとさせていただきます。

読んでくださって、報告していただいたことは、とてもありがたく受け取っております。ありがとうございました!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ