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幼馴染のワタシが太陽のように明るかったからってアイツは元気出るようにワタシの好きなお菓子を買っておいてくれた

作者: だぶんぐる

以前書いた『同じマンションの同級生が太陽のように明るいので今日は元気が出るようにアイツの好きなお菓子を買っておいてあげよう』 https://ncode.syosetu.com/n6985hd/

の裏面です。


一本で成立するよう書いたつもりですが、もしかしたら、分かりにくいかもしれません。読んで気になればこちらも是非。

「あはははははは!」


文字通りのクラスの中心に出来た人だかり。

その更に中心に私はいる。


大浦陽なた《おおうら ひなた》


このクラスの中心人物、になれてると思う。

自分でもびっくりするくらいの大きな声で笑っている。

黒髪ショート、シャツ腕まくりの、スカート短め。

これでもかっていうくらいのメイキング元気キャラ。

男女問わずモテモテ、多分。

男子の下ネタも対応できてるし、女子の終わらない愚痴にもエンドレスリスニング。

地元情報サイトから地元の新店情報はばっちりだし、テレビもユーチューブも見れる限り見てるし、毎日情報サイト巡りも欠かしてないのでどんな話題もなんでもござれ。

成績は悪くはない。教えることも出来る。

運動は出来ない。けど、〇ポーツ出来ない芸人で学んだ私はそれを面白に昇華して魅せる。

笑顔もカンペキ、のはず。

誰からも好感度悪くない、はず。

今日もテンションMAXフー!


「お前の能天気は留まることをしらんな」

「誰が能天気だ、このやろー!」

「いやいや、褒めてんだよ」

「あ、褒めてくれてるのかーならばよし! ってなるかあ!」


どうよ。絶妙にスベりながらも盛り上がってるでしょ。ポイントは適度なデカい声だね。うんうん。いじられ上手でしょ。


「ひなちゃん! お菓子食べよう!」

「うえええええ!? これ、あの限定のヤツじゃないのお!?」

「お前の為に、ゲットしてきたぜ、ハニー」

「ダーリン! 最高ぅううう! 愛してる~!」


女子―ずと一緒に楽しく昼食。あ、音無さんがこっち見てる。誘ってあげねばな、明るい陽なたさんだからな。


「えーと、じゃあ、今日は二九日だから、大浦」

「なーんでですかあ! 私出席番号四番!」

「まあ、細かいことは気にするな」

「ワカチコワカチコ~じゃなくて! え~と……7!」

「……残念! 不正解!」

「ぎゃああああ!」


ウケとるのう。これもワタシの戦略とも知らずに、ふぉっふぉっふぉ。

そして、今日もワタシの人気留まることを知らず。部活の友達に呼ばれるまで大盛況、完売御礼、チケット即完。


「さてと」


お、帰るのか。

教室の中から聞こえる声。

ワタシの幼馴染の声。

気を付けて帰りなよ~。陽なたさんは楽しく部活動じゃい。


そして、部活でも楽しい陽なたちゃんは絶好調。

盛り上げに盛り上げてみせましたとも。

う~ん、今日もタノシカッタネ!


……さて。

マンションに辿り着く。三階がワタシのおうちがございますが、すっとばして五階。

エレベーター降りて二つ目。ピンポンを鳴らす。

ドアが開くと、ワタシの幼馴染の一仁かずひとが立っている。

いつも通りの普通の顔。ノーメイク。当たり前か。


「おかえり。お菓子は?」

「……食べる」


おかえりって言うなおかえりって。

うんと頷いてワタシを奥に促す一仁。

ワタシは靴を脱ぎすてリビングに直行。

お気に入りのべべんぼさんのクッションに顔面イン。

あー。あー。あー。

足音が聞こえる。静かな足音だな。忍者かよ。いや、忍者だったら失格だな。聞こえておるぞくせものよ。


「……で、今日は何が疲れた?」

「……ぜんぶ」

「じゃあ、もうやめれば?」

「やめられないよ~! 別にみんな悪気がないんだし!」


その一言を切欠にワタシは今日の『傷ついた事』を垂れ流す。面白さも構成も何も考えていない垂れ流し。面白くもなんともない垂れ流し。一仁は高校生らしからぬあったかい良いお茶を飲みながらこっちを見ながら頷いてくれる。そうなると、止まらんぞ。

喋りも、お菓子も。あとコーラ頂戴。

あ、今のアタシ、メントスコーラみたいじゃね。噴き出しまくり。

そんな大暴走でも一仁は一つ一つ頷いて、時には、笑い、怒り、ノリツッコミをし、極稀に怒られ、全部に反応する。


一仁は昔からこうだった。

一仁とは小中も同じ学校だった。同じ学区だからまあそうなんだけど、家は同じマンション。階は違うけど、同じマンション。帰り道も同じだし、親同士が仲いいし、良く一緒に遊んだ。小さい頃のワタシは自分で言うのもなんだけど大人しい子だった。お父さんが仕事で家をよく空けるから、良い子でいなきゃと思っていたせいか、どこでもそんな感じだった。多分、今のクラスの音無さんくらい静かだった。だから、手のかからない目立たない子だったから、よく放置された。一仁はそんなワタシに良く声を掛けてくれた。保健委員で出しゃばって、無理やり調子悪い男子を連れて行って何故か怒られた時も、ワタシを庇ってくれたし、泣いてるワタシの手を引いて一緒に帰ってくれた。まあ、基本一緒に帰ってた。

中学の時は、思春期真っ盛りだしそんなことはなかったけど、それでもちょいちょいは一緒に帰ることもあった。卒業式の日も一緒に帰った。お母さんもついてきてたけど。そして、その日ワタシは一仁に宣言した。


「私ね、変わろうと思うの」


今までの自分を変えたくて、途中わけわかんなくなったけどとにかく変わりたいと一仁に宣言した。すると、一仁は


「がんばれよ、でも、無理はすんなよ」


なんて言うから、ワタシは


「うん」


とだけ返した。

ワタシは一仁と同じ少し遠い進学校に入学した。ワタシの成績ではギリギリだったんだけど、偉大なお母さまと一仁の指導によってなんとか入ることが出来た。

そして、春休み。ワタシは一仁に一度も会うことなく、髪をばっさり切り、ファッション雑誌やコミュニケーションの本とかを読んで読んで読みまくって、変身できた! と思う。

入学式の日、お母さんと一緒に高校へ向かう。その途中、一仁に声を掛ける。高校生第一声大事だぞ、陽なたよ。といい聞かせ、本で学んだことを頭の中で反芻させ、大きく息を吸った。


「おっはよ~!」


うん、なかなかかわいい挨拶ではないだろうか。そして、手を振る。めっちゃ恥ずかしい。小学生か。おい、母上、笑わないでよ。客観入っちゃうから。


「おお……おはよう」

「あら! ひなちゃん! どうしたの! すごいイメチェンじゃない~!」

「ふっふっふ! おばさん! 陽なたはニュー陽なたとして高校デビューいたします!」

「わーぱちぱち」


ああ、一仁のお母さんはいいなあ。ノリがいい。ウチの母上とは違う。

そして、そのまま一仁のお母さんと新生陽なたによるノリノリトークを展開する。

一仁は、うちのお母さんと話をし始めた。クールなやつめ。何か一言あっても損はないでしょうに。

そして、一仁と話していたはずのお母さんがこっちに来る。なんだろうか。


「陽なた、かずくんがね。イメチェンは凄くいいと思うけど、あんまり簡単に連絡先とか教えない方がいいぞって。俺、嫉妬しちゃうぞって」


いや、言うかーい。一仁がそんなこと言うわけないでしょ。でも……まあ、一仁先輩の、忠告ですし、折角ですし、聞いておきます。連絡先はしっかり仲良くなってから教えます。んで、ワタシが頷くと、お母さんがめっちゃニヤニヤしてくる。おい。

そして、かずくーんとまた、一仁のところに戻っていく。母上、年を考えて。

そして、ワタシの勝負の高校生活が始まった。

練りに練った大声ちょいスベリ自己紹介は結構な笑いが起きた。そして、休み時間に入ると、みんなに挨拶をしたら、その後何人かが話しかけにきてくれ、その日は用意してたトークもさく裂し好評のまま終了。帰りには結構な人数が「ひなちゃん」と呼んでくれた。中学校御時代の「大浦さん」ありがとうさようなら。

そうして始まった新生ワタシの高校生活は順調だった。

春の宿泊学習では、音無さんと上条さんの割と孤立しがちな二人とも仲良くなれたし、みんなとなかよくなれたと思う。

そして、なんと四月の途中で、ワタシのゴールデンウィークの予定は友達との約束でほぼほぼ埋まってしまったのだ。


そして、その予定は一仁にキャンセルされる。


四月の終わりごろ、ワタシは一仁と一緒に帰ってあげることにした。帰宅部で何もしてない一仁と帰るのは本当に久しぶりだった。といっても、ワタシがみんなと話している間に一仁はさっさと帰ったので、慌てて追いかけてマンションの手前くらいで追いついただけだったけど。いや、登校の時に今日部活ないんだってワタシ言ったじゃん!

まあ、覚えてないんだろうけど、仕方ないけど。人気者の陽なたさんなんですけど。

ほんと人気なんだぞ。


「ゴールデンウィーク何するの?」

「あー……ゲームとか? 母さん、仕事でいないしゆっくりやろうかと」

「おいおい、若者がそんなことではいかんよ。私と一緒にどこかに行くかね?」

「いや、お前スケジュールいっぱいだろ?」

「そーなんだよー、いやー、まいっちゃうよねー人気者は辛いよ。だからね、優しいひなちゃんはぼっち一大巨頭となってしまっ……」

「お前、休め」

「……ん?」


何て言ったか一瞬わかんなかった。休め? 何を? 誰が?

ワタシは笑えていたと思う。けれど、一仁はしっかりワタシの目を見て、笑わずに続ける。


「お前、無理してるだろ。大丈夫だ。予定キャンセルしたってお前なら嫌われないから、休め。つかれてるだろ」


もうほんとさ。毎回毎回。なんでワタシも知らないワタシの聞きたい言葉をズバッて言っちゃうかなあ。いや、ほんとね、みんなのこと嫌いじゃないんだよ。嫌いじゃないんだけど。ちょっと頑張り過ぎたんだと思う。疲れてた。ワタシは疲れていたんだ。

めちゃくちゃ泣いた。引くくらい泣いた。そしたら、一仁は何も言わずに、家に手を引いて連れて行ってくれた。手めっちゃ熱いなとか関係ないこと考えてた。

で、家に入れてくれた一仁はワタシの好きなお菓子を持ってきてくれた。なんであるのよ。新生陽なたさんはそういうババ臭いのは食べないのよ。でも、今は、違うからいいよね。

食べた。これ食べちゃったら昔に戻りそうで怖くてずっと食べてなかった。それを食べた。

コーラも一仁は持ってきた。執事になれるよ、あんた。

そっからはメントスコーラ。

別に一緒にいたくないわけじゃないとか、好きだけどずっといるのはしんどいとか、自分がなんで笑ってるんだろうって思っちゃうときがあるとか、誰々はここがいいところとか、誰々のここが好きだけどここは直した方がいいとか、とにかくクラスの全員について話したんじゃないだろうか、延々としゃべり続けた。で、その間一仁はずっと目を見てうなづいてくれてた。それ見てたらまた泣けてきた。


「ごめん……落ち着いた」

「じゃあ、休め。みんななら大丈夫だから。な?」

「……だいじょうぶかなあ?」

「……じゃあ、俺が教室にいるときに話せ。なんかあったら助け船くらいは出す。あと……しんどかったらまた話くらいは聞くから」


もーほんともー! なんだお前は本当におない年なのか?! サバ読んでないか! 泣いちゃうぞ! 泣いてるわ! ごめんね!

そうして、ワタシは流せるだけ涙を流して、家に帰った。

帰ってきたお母さんはワタシの腫れた目を見て驚いてたけど、事情を話したら超ニヤついてた。やめて。そんで、その後にかずくんの言った通りになっちゃったわね、とかいう。そういうのやめて。なんだそれは。聞いてないぞ、母よ。

そして、ウチにあるワタシの好きなお菓子、ずっと食べてなかったお菓子を全部袋に入れてしまった。もう解禁されたから食べるのにと思っていたら、かずくん家にお礼として持っていくから、食べたかったらかずくんちにいけばあ、と凄い似てないクレヨン〇んちゃんの真似で言ってきた。似てないよ、母上。っていうか、なんで一仁の家に持っていくのよ。まあ、いいけど。まあいいけど。

そして、翌日。ワタシはゴールデンウィークの予定を全部キャンセルさせてもらった。

家の用事ってことにした。みんな残念そうな顔をしてくれて申し訳なさ九割、嬉しさ一割って感じたことに更に申し訳なさを感じたけど、それでも、ワタシの心はスッキリしていた。

そして、ワタシはゴールデンウィーク期間中、毎日一仁の家に遊びに行った。


「いやー、暇で暇で仕方ないからさ! ほら、家の用事って言い訳した以上外にも出られないし? ゲーム一緒にしようよ!」


間違ってない。間違っていないはずだ。だから、これでいいはずだ。それに知ってるんだからな。ウチのお母さんに「もし、陽なたが退屈そうだったら、俺空いてるんで」って言ってくれてるの知ってるんだからな! お母さん全部そのまま伝えちゃってるからな!

あと、寿司も持ってきたから! 文句とか言うな! 言ったらなくからな!

寿司は一仁のお母さんがすごい食べてた。文句言うな、一仁。これはワタシのせいじゃない。


ゴールデンウィークの間も、色んな話を一仁に聞いてもらった。クラスの端っこから見える景色と中心から見える景色は大分違ってた。でも、思った以上に中心って大変なんだなあと思った。お前気遣い◎だからそう思えるんだよ、とか言ってくれた。へへへ。

そんなこんなで一仁からのお褒めの言葉を毎日頂いてワタシのゴールデンウィークは終わった。最終日には、お母さんも来て一緒に寿司を食べた。一仁はウチのお母さんの気遣いっぷりを褒め、一仁のお母さんは寿司職人と寿司という文化を褒めていた流石。

それ以降、ワタシは一仁の家にまた行ける時には行った。

そして、話を聞いてもらった。そして、お菓子を貰った。

一仁はエスパーなんじゃないかってくらい、ワタシが来る日を当てる。その日にちゃんとお菓子を用意してくれている。なんで分かるんだ。なんで分かるんだよう。


そして、今日もまた、ワタシは用意してくれたお菓子を食べながら話をし続けた。

一仁はずっと色んなリアクションをしながら聞いてくれた。


流石クラスの全員大好きひなちゃんだ。


こういわれた時、心臓が止まるかと思った。おい、なんで今日にかぎってそんなことゆう。

分かってるのか。知ってたのか。お母さんに聞いたのか。

いや、聞いていないはず。完全秘密裏にやってきたのだ。

でも、いいや。一仁はなんでも分かるのだ。そういう奴なのだ。

帰宅部で目立たないくせに、みんなが一仁を頼りにするのだ。クラスの隅っこで、誰かの話を目を見て聞いてしっかり返す年齢詐称男子高校生なのだ。音無さんも上条さんも多分狙ってる。ごめんね、幼馴染特権発動させてもらいます。

ワタシは意を決して、持ってきた袋を渡す。

そこには一仁の好きなお菓子、と、チケット。

クラスの全員大好きひなちゃんなんだよね。全員なんだよね。かずくんも同じクラスだよね。

今、見てよ。なんで見ないのよ。ダメ? ダメなの? ああ、ダメだ泣きそう。

でも、泣いちゃダメだ。かずくんこまるから泣いちゃだめだ。かずくんがかってきたお菓子袋を思いっきりかき混ぜる。音と勢いでごまかされて。

と、ワタシの手に何か今までと違う感触。なんだこれ。チケット?

付箋が貼ってある。おい。ズルいぞ。これは、泣いちゃうぞ。これは。

なんだよう、なんでかなあ、笑顔の素敵なひなちゃんが出来ないぞ。

もう泣くからな、思ってること全部話すからな、今までずっと言いたかったこと全部言っちゃうからな。変わろうと思った理由も全部全部言っちゃうからな。重くて逃げられなくなるぞいいんだな。


「とりあえず、今思ってることをゆっくりでいいから話してくれ」


泣きそう。


友達に、みんなの前でものすごい明るくて元気で、二人になるとすぐに泣いちゃう子がいました。

元気かなあ。

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