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#09 「オフの日」

 午後10時。私のねぐらにて。

 私とトレモロさんは休息を取ろうと、トカゲ悪魔の丸焼き片手に座っていた。


「やー、疲れたな。ギルドへの報告は明日でいいか」

「そうですね。ちょっともう今日は動けませんね……」

 

 そういってトレモロさんは寝転がった。

「すまねえ。今日はここで寝させてもらう」

「私も寝ます」


 そうして今夜を終えた。




 朝。

 幸い、私のねぐらは盗人のポイントになってなかったようで、持ち物すべて揃っていた。以前、買いだめしたご飯を盗まれたことがあって以来、私は宵越しのご飯は買わなくなった。いや、もしかしたらトレモロさんのいたおかげかもしれない。


 トレモロさんを起こそうとして、昨日あれだけ戦ったからと思って起こすのをやめる。すると、


「おはよう起きたか」


 すでに起きていたみたい。


「早朝盗人が現われてな。そいつのせいで目覚めが悪いんだ」


 やっぱりいたんだ、盗人。


「ソイツなら、そこの河川にぶら下げてる」


 その言葉に、私は恐る恐る見てみる。すると、壁に服の一部を死霊の鎌で貫かれて動けなくなった少年の姿があった。


「邪魔なこいつらから売りさばいていくか」


 そういうと、盗人のところへトレモロさん自ら出向く。


「懲りたか少年」

「もうやらねえって!」

「あんまり大人をなめんなよ」


そう言って、死霊の鎌を抜く。すると少年は川の中へ落ちていった。


「さ、売りに行くぞ!」


 さわやかな朝が始まった。


 まず死霊の鎌と死神の鎌の売却。店主は渋い顔をしながらも、きちんと買い取ってくれた、12000ゼニー。


「どういう内訳だ」

「死霊の鎌12本で9600ゼニー、死神の鎌で2400ゼニーとなっております」

「へっ、いい売り上げだ。どうも」


 いきなりそんな大金を稼いでしまった。


「これでまた……」

「ホテルでも行けるな」


 続いてギルドに入る。このトレモロさんが来てからというものの、ギルドに入るときすごく緊張するようになってしまった。


「邪魔するぜ」


 すると、やっぱり、ギルドの中が静かになる。


「来たかトレモロ」


 オーナーさんが待ちわびてたかのようにいう。オーナーの目の前の椅子にトレモロさんは座る。私も隣の席に座る。


「ああ。ばっちし死霊は狩ってきたぜ。あと」

「その話は聞いている。『死神』だろう」

「よく知ってんな」


 嘲るようにトレモロさんは笑う。


「こう見えてギルドのネットワークは広くてな。お前さんたちがどこでどう狩っているのかは監視していると言ってもいい」

「それは……怖いねぇ」

「……狩ってきた、って割には戦利品が見当たらないが」

「さっき売っちまった。武具屋にな」

「なるほどな。んじゃあ、報酬と行くか」

「おう」


 そうしておかれたお金。奇遇なことにこれも12000ゼニーだ。


「それにしてもお前さん、そのシャツの傷、一発やられかけただろう」


 腹から胸の一筋の傷。身体は治っても、服はそうもいかなかった。


「そうだな。ファティマがいなかったんじゃ、ちょっと無理があったな」


 そう聞いて、オーナーさんは驚いた。


「あの子は役に立ってるか?」

「ああ。抜群の相棒としてな」

「それはいいが……危険には晒してないよな?」

「ギクッ」


 トレモロさんの顔がだんだん、青ざめていく。


「まだまだ一人前と言いにくいな、その感じじゃ。腕がいいのは確かだが」

「そうかい」


 半ば投げやりに、トレモロさんは答えた。


「だが―――。あの子を信頼して置けるのも、お前のところでもある」

「買いかぶりすぎだ」

「あの子のことを、面倒見てもらえんか?」


 オーナーさんが小声でささやく。


「まあ、世話にはなってるし……そうだな、少しくらいは」

「少しじゃ駄目だ」

 

 ドン、とオーナーさんはいかつく構える。


「わかったわかった……それに、もうあの子とは誓った。命を守るって」

「なんだ……思ってたより紳士じゃねえか」

「まあこんな長い付き合いになるとは思わなんだが」


 そうして、オーナーとトレモロさんとの世間話は続く。


「12000ゼニーですって。なんに使う、ファティマちゃん」


 ギルドのお姉さんが聞いてきた。


「まずお風呂に入って、服を洗って……さっぱりしたいです」

「お姉さんね、ファティマちゃんがきちんとした生活を送れるようになりつつあって、とてもうれしいの」

「嬉しい、ですか?」

「ええ。あの人に感謝ね」


 そうトレモロさんを指す。


「でも……危なっかしいですよ、意外と」

「そうなんだ。でも狩りは危険が付きものよ。今後とも仲良くしてたほうが、お互いの為になるんじゃないかしら」


 お互い……。

 そう言われて、彼を見る。うーん……。そうなのかなぁ。


「ん? どうしたファティマ」


 顔を見ていたら彼に気づかれた。


「これからのトレモロさんとの付き合いについてお姉さんと色々話してたところです」

「おいおい、これからってのにもう決裂か?」

「いえ……今後ともよろしくお願いします」

「お、おう……改めて言われると恥ずかしいが……」

 

 そういって、彼は目を背けた。



 その日はギルドの仕事はお休みにした。

 トレモロさんは衣料屋さんにいこうと言い出した。どうも胸に切り傷のあるシャツじゃ落ち着かないみたい。


「ここです」

「さて、俺好みの服があるか……おうおう、いっぱいあるじゃねえか」

 

 そうして今度も縦じまのワイシャツを選ぶ。


「またそれですか」

「慣れている柄なんだ」


 そういうとすぐに会計に行った。900ゼニー。そして早速着替える。


「破れたほうはどうするんですか?」

「もちろん、直してもらう」

「捨てないんですか?」

「もったいないだろう。それに、このシャツはお気に入りだ」


 そうして、衣料屋さんのサービスに破れたシャツを渡す。1100ゼニー。



 そして―――今日はお風呂屋さんに行く。この時を私は待っていた。

 お風呂場のお湯が気持ちいい。疲れが溶けていく。


「うぷっ」


 おもわず湯船で寝そうになってしまった。

はあ。こういうお風呂なら毎日入りたくなる。もし―――トレモロさんなしでも、もっと戦えることができたなら。そう思って、掌を見る。もう少し、いい生活ができるかもしれない。



 お風呂から上がって、浴衣を着る。そして、牛乳を、買って飲む。最高の一杯。お酒の飲めない私にはそう表現できるのはこれだけだ。


「お、先に上がってたか」


 浴衣を着たトレモロさんもお風呂から上がる。濡れた髪をふいている。


「先に一杯やってるとは、味を占めたな嬢ちゃん」

「そうかもしれませんね」


 そういって、トレモロさんも牛乳を買って飲む。


「いい一杯だよな、これは」

「はい」

「ふぅー……」


 納得の一杯に、言葉も出ないみたいだ。




 そのあと、トレモロさんは稼いだお金をまた銀行に預けに行った。まめな人だ。


「4万、か」

「……すごい金額ですね」

「そうだな、家の一パーセントと考えると大金だ」


 一パーセント。これがあと九十九回……そう考えた途端、なんだか気が遠くなりそうになった。


「これを九十九回……」

「何だ嬢ちゃん、怖気づいたか?」


 すこし、遠すぎる気もするけれど。


「……道はまだまだ遠いですね」

「そうだな。でもここで暗くなってなんかられねえ。明るく一歩ずつだ」

「……そうですね。それしかありませんね」


 着替えて、お風呂屋さんを出る。


 ところで、今日はどうしてギルドの仕事を入れなかったんだろう。


「今日はどうするんですか? ギルドの仕事もお休みして」

「今日はオフ。たまには息抜きも必要かなってな。―――釣りでもしに行こうか」

「はい!」


 そういって、私たちはあの、釣り場のポイントへと向かうことになった。

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