表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/74

#04 「ドラゴンとの戦い その1」

 服の洗濯も終わり、私もトレモロさんも元着た服を着る。


「服も欲しいところだが今は我慢だな……」

「どうしてです?」

「置く場所にも困る」


 なるほど確かに、私のねぐらに置くにはちょっと汚いところもあるだろうし。


 トレモロさんはサスペンダーを取り付けると、赤い刀を背負う。


「サスペンダー、好きなんですね」

「気合が入るからな……どうだ、川で洗濯するよりすっきりしたろう」

「はい。なんだか癖になりそうです」

「癖にしちまえばいいのさ!」


 番頭さんにお代を出して、私たちはお風呂屋さんを出た。


「昼だな。腹は減ってるか?」

「いえ、さっきのステーキでお腹はいっぱいです」

「ならギルド一直線だな」


 そうしてギルドへと向かう道を往く。歩いて15分くらいだ。

 そういえば、この街を照らす明りの周りには大きな時計があるんだ。だから時間がわかるんだ。


「その赤い刀……どのハンターさんも持ってるのを見たことがないです」

「コイツについては秘密だ」

「秘密って……隠すようなことなんですか?」

「ああ」

 トレモロさんはそれ以上何も言わない。から私もなにも聞きようがなかった。


「お、そうだ、ファティマ、金がねえって言ってたな」

「そうですね、もう……」

「武具屋でこの邪魔な鎌を売ればはした金にはなるってオーナーも言ってたな」


 そうして私たちは武具屋に寄り道する。

 武具屋には立派な剣、大きな剣、弓矢、槍なんかが飾ってあって、一目でそれとわかる。


「すみません」


トレモロさんが武具屋の人を呼ぶ。


「はいはい、何でしょう。……って死霊の鎌!?」

「コイツを売っ払おうと思ってな」


 武具屋の主人はひい、ふう、みいと鎌を数えていく。


「うん、これで1800ゼニーになりやす」


 そう言われたトレモロさんの様子はなんだか不満そうだ。


「……俺たちの苦労1800ゼニーだってよ、ファティマ」

「十分じゃないですか?」

「十分じゃないだろ、あんだけ死ぬような思いしたものの結晶がこれっぽっちって」

「これで私は十分生きていけます」

「はあ、頑固者だな」


 そういうと私との会話をやめる。


「もう一声……頼めないか!? 頼む!」

「しーかたないすねぇ……」


 すると武具屋の主人は死霊の鎌をまじまじと見る。


「にしても美品ですねぇ……これだけ美品で持ってこられると、まあ、旦那の思いも組んでやりたくなります」

「それなら」


 トレモロさんの声が嬉しそうに上ずる。


「合計で2400! これがうちの限界です!」

「……」

「うちじゃこれが限界です、旦那!」


 少しの沈黙のあと。


「売った!」


トレモロさんはそう発したのだった。





「トレモロさん、交渉上手ですね」

「ああいうのは一発駆け引きしてやるのがいいんだよ。さて、この金でどうしたものか……」


 そう言いながらギルドへ近づいていく。


「お、着いたな。じゃあ、この金でどれだけの依頼が受注できるのか調べるぞ」


 そういってギルドへ入っていく。にぎわっていたギルドが、すん、と静かになる。


「……あんた、死霊狩りに成功したらしいな」


 トレモロさんに語り掛けたのは常連のクラウスさん。


「一体、その刀がどういう代物なのか気になるが……」


 そう触れようとしたクラウスさんに、


「触るな!」


と突然大きな声で、トレモロさんはクラウスさんに言いつける。


「いいじゃないすか、ハンター同士、仲良くしましょうよ」

「ハンター同士、ねぇ。だがこの刀は触らせないぞ」

「そうっすか……」


 クラウスさんは適当に流した。

……もしかして、私、めちゃくちゃ大事なものに触っちゃったってこと!?


「来たな、上の人間」

「トレモロって呼んでくれ」

「……今度は何の用だ。そんな大金持って」

「この金で受注できる、依頼を探してほしい。中には2400ゼニー入っている」


 2400と聞いたギルドの中が騒がしくなる。私もその金額で何を受注できるのかは知らない。


「……ちょうどいい依頼がある。尤も、アンタ単身じゃ無謀だろう依頼がな」

「それでもいい」

「……洞窟のドラゴン。コイツの退治だ。こいつのせいで都市開発が遅れている、重要度は高い依頼だ」

「報酬は?」

「……24000ゼニー」


 そう聞いたトレモロさんは即効で契約をしようとする。


「待て! まさか単身で行くつもりか。それとも」

「ファティマはガイドだ。もちろん、今回だって金は半分ずつやるとも」

「駄目だ」


 そうして契約書を引き下げようとするオーナーとそれを奪い返そうとするトレモロさん。紙が破れてしまいそうだ。


「ファティマはまだ8歳の子供だぞ! それを連れていくなんて非道だ!」

「……否定はしない。だったら、俺一人で行く」


 そこにクラウスさんがしゃしゃり出てくる。


「ドラゴン退治なんて、四人でやっとこさ退治できる相手っすよ、トレモロさん」

「いい。それでも俺は一人で行く」

「やっぱりその刀に」


 そう触れようとするクラウスさんを器用に避けつつ、トレモロさんは契約を進める。


「……言ったからな、お前さんは『一人』で退治するって」

「ああ。男に二言はない」

「……承認した」


 ギルドが緊張感に包まれる。もちろん私も緊張していた。

 ギルドを後にするトレモロさんに続いて、私もギルドを出ていく。すると、ギルドから笑い声がどっと響いてきた。


「……よく考えたら私の生活費もかかってるんです」

「そこに気づくとは名探偵だな」


トレモロさんは指を鳴らす。

 

「トレモロさんにはプライドはないんですか!?」

「あっても捨てていいようなもんさ。ファティマ、君は結局協力しなくちゃいけない」

「最低ですね」

「……そうかもな」


 最低、と言われてピクリ、とトレモロさんは反応した。あまり聞きたい言葉じゃないんだろうか。私だって言われたくないけれど。


「俺が子供の後を追っているといつの間にか洞窟についていた、よし、これで行こう」

「本当、貴方って人は無茶を……」


 そう言いながらも、私は洞窟へ向かうルートへと足を進めていた。行くのはとても怖いけれど、いかなくちゃ、私の生活費もかかっている。




そうして洞窟の入口へたどり着く。ギルドから40分。

「まあまあ遠かったな」

「そうですね……ちょっと疲れました」

「そういうと思って、ほれ」


 そう渡されたのは水だった。


「いつの間に……」

「風呂屋でな」


 渡された水をごくごく飲む。おいしい。水がここまでおいしいと思ったのは初めてかもしれない。


「さて問題です。開発に使っている洞窟、って言っていたのに明りの一つもありません。この問題を俺はどう解決したらいいでしょう、ファティマ君」

「……。まさか」


 思い当たって、火の玉をぼんやり、手の上に輝かせる。


「正解だ。ここまで不親切とは思ってなかったぜ」

「私も入ることになるんでしょうか」

「たいまつになりそうな木もない。すまないが一緒に入ってくれ」

「ええ……」


 洞窟。入ったことなんて一度もない。私の脚も震えている。


「俺は誓った。―――君の命を保証すると。信じてほしい」


 ……それしかない。


 そうして洞窟の中へと、一歩、二歩、と入っていく。コウモリの悪魔が火の玉に驚いて騒ぎ出す。


「でやっ!」


 トレモロさんの剣で皆バラバラになってしまったけれど。そんな技術、私も欲しい。


「都市開発を進めてた……ってのはどうやら嘘じゃないらしいな」


 見れば、洞窟を掘り進める工具が散らばっている。明らかに開発跡だ。でも最近手を付けたような跡じゃない。


「どうやら一本道のようだな。用心して進むぞ」


 トレモロさんが先を急ごうとする。ああ、待ってほしい。


「いてっ」

「おいおい大丈夫か?」


 彼は転んでしまった私を見やる。


「……どうやらお前さんが転んだのは悪いことじゃないらしい」


 ? どういうことだろう。


「耳を澄ませてみろ」


 そういわれて、耳を澄ませる。すう、ふう、と何か巨大な呼吸のような。そんな音が聞こえる。


「どうやら結構近くに―――ドラゴンとやらが息づいているらしいな」

「ええっ」


 焦る。私はまだドラゴンと戦う用意なんて出来ちゃいないのに。早くも逃げ出したい気持ちが大きくなる。


「ほ、ホントに行くんですか?」


 震えた声で、彼に訊いた。


「ああ。それが俺たちのミッションだろう」


 それはそうだけれど。


「さあ―――足音を殺して、ドラゴンのねぐらに行くぞ」


 そういわれて、ゆっくり、ゆっくりと私とトレモロさんはその呼吸のほうへ近づいていく。

 少し進むと、大きな空間が、見えてきた。そこにいる、大きな大きな翼と、顎と、尻尾と。


「……」

「……」


 私たちは慎重に進む。このドラゴンを刺激しないように。

 

「さっくり首を刎ねよう」


 ふいに小声で言われた意見はぞっとするようなもので、焦る。心臓がバクバクなっている。


「成功させてくださいよ……!」

「おうとも」


そして、トレモロさんが刀を握った、その時だった。そのドラゴンと『目』があってしまったのは。


「寝てたんじゃねーのかよ!」

「トレモロさん、逃げましょう!」

「いいや、24000ゼニーがかかっている、ここで逃げたら男が廃るってね!」

「変なところで意地っ張り!」


 ドラゴンは起き上がると、私たちの何倍もある背を伸ばして、あくびをする。したかと思えば。


「! ファティマッ!」

「えっ」


 彼に抱きかかえられてドラゴンと距離を取っていた。ドラゴンは燃える息を噴出していたのだ。


「コイツはやべーな……」

「逃げましょう、逃げて一度態勢を」


 そういう私の提案は、吼えるドラゴンの声にかき消されたのだった。


「そうもいかないらしいぜ。決めるしかねえ!」


 決めるって……私たち、どうなっちゃうの!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ