98「スルトヘイムの魔王」
王都アシャンレニルを中心に魔界を統治する魔王のダシハヴァンは八代目の魔王である。
代々ダシハヴァンの血族が王位を継承してきた歴史がある。
「王」には賢王の時代があれば、愚王の時代も存在する。
ダシハヴァンはどちらかと言えば、愚王に分類される方だろう。
どんな大店でも、ボンボンな若旦那がいれば必ず財政が痩せ細る。
八代目のボンボン魔王ダシハヴァンは、臣民の声などに関心は無い、解ろうともしない独裁者だ。
真摯に進言するような気に入らない部下は処刑し、耳当りの良い甘言には耳を貸す。
現実社会でも、イエスマンばかりを廻りに置く会社は多いだろう、
まともなアドバイザーがいなければ、下からの真摯な訴えを聞く度量の無い会社の未来は無い。
正にそういう状態が完成してしまっている。
ダシハヴァンは自分の代で、世界に制覇を称えるのが小さい頃からの夢だった。
夢を手に入れるために、王位継承権のライバルだった12人いた兄弟姉妹の王位継承権を奪うために、
策略をもって失脚させたり、暗殺を繰り返し兄弟姉妹、親までも次々に始末して行った。
兄弟姉妹の怨嗟の声はダシハヴァンにとって負け犬の遠吠えにしか聞こえない。
社会経験の無いボンボンな若旦那王子がここまでやれたのは、一重に有能な臣下がいたからだ。
ダシハヴァン陣営のムバネイド大臣は、野望家の上にやり手でかなり有能だった。
ダシハヴァンからの相談や指示を一手に引き受け暗躍した。
しかし発言力を高める者は、他の大臣達により失脚を仕掛けられる事になる。
やがてダシハヴァンと意見が合わなくなり、存在を煙たがられ、甘言を弄す大臣達によって更迭され、大臣子飼の暗殺集団に、苦言を呈するような忠臣は消されてしまう。
先王シューオクスは賢王ではないが愚王とも言い切れない。
突出した物の無い、ごく平凡な王だった。
せめて聡明な次男のムシュザン王子が生きていれば、ダシハヴァンに王位を譲る事は無かったろうに。
そんな事を後悔しながら最後を迎えた。
「ふん、父上も甘い理想ばかりを抱いていたな。
俺が王になれば必ずや世界制覇を成し遂げてくれようぞ」
「それこそ誠の王の姿で御座いますぞ」
側近のゴーゼ大臣の甘言が追随する。
王子から王に襲名した時に、これで子供の頃からの夢に邁進出来る事を喜んだ。
世界制覇のためには更なる兵士、武器、兵糧、軍事物資を大陸中から集める。
兵士を更に強くするために、練兵訓練を積ませる事に夢中になった。
軍事力が増せば、コストも膨らむ。
膨らむコストは臣民からの税金で賄う事になる。
「世界制覇を成し遂げた暁には魔族臣民は豊かになるのだ」
臣民をそんなスローガンで鼓舞しつつ、富国を無視し強兵に邁進する。
経済に伴わない軍事優先の国家経営は、国家として余りにも歪な状況だ。
軍備増強の為に、重い税金は更に重くなる。
重過ぎる税金を徴税官が、問答無用で取り上げて行く。
一部の大臣の元にばかり富は集中する。
そんな最中、大陸に飢饉が起こった。
食糧不足と赤貧に喘ぐ多くの臣民達。
それでも臣民への救済は考えられなかった。
王へ辛言や注進する者は最早存在しない。
重過ぎる税金と飢饉による食糧不足、臣民無視の軍備増強政策の末、
苦しみに耐えかねた臣民は遂に暴徒と化し、政権に反旗の狼煙が上がり始める。
「軍隊は出撃し、暴徒共を武力制圧せよ!」
ダシハヴァン王の命により、王都内は内戦状態に突入した。
王都内の軍隊が、王都内の臣民を虐殺し始める事になった。
軍隊内では、兵士は同僚の親族・友人を殺害しなければならない。
その重責に耐えかねた兵士は軍隊から逃げ出す者も続出する。
国軍の軍隊と臣民から立ち上がったレジスタンス。
そして亡命者達が王都内で入り混じり、混乱の嵐は吹き荒れる。
無政府状態になった王都内から、大陸の外に逃げ出す者達も増加の一途を辿り始める事に。




