95「ラスボス?」
「よし、行くぞ、光のダンジョン攻略だ!」
全員の気勢も上がってきた。これなら行ける!
「待って、私達武器が無い」
タリマが心配そうに言う。
しかし、このダンジョンでは金属類は厳禁だ。
今現在、何が武器になるかと考えると、地面に落ちている石しか無さそうに思える。
「この際、石でも無いよりマシかも知れないか」
皆それぞれ袋に石を拾っておく事にした。
今度こそ、改めてダンジョン攻略を始める。
光のダンジョンは光の闇。
光という言葉には良い物事を指しているものだけど、
このダンジョンには、良いものは何も無い。
圧倒的な電荷で生じる危険な物ばかりが眩い光の迷宮に乱舞する。
影は存在しない。ここでは光そのものが闇とも言えるだろう。
熱に耐える絶縁物を身に着けていたとしても、踏破は難しかったと確信できる。
電荷の性質を研究して来たパハジルさんは、
究極的に電磁フィールドという考えに辿り着いた。
時折現れる荷電のスパークや爆発の閃光も、
このサングラスが無ければ、たちどころに失明しただろう。
電荷を帯びている物や熱までも、電磁フィールドで全て防ぎきれている。
魔物とのエンカウント率は、今までに無く多いけど、
全てがプラズマの魔物だから、電磁フィールドに弾かれ、私達に危害は及ばない。
今までに無く危険極まりないダンジョンだけど、この装備が有れば戦う必要は無い。
そうなれば、単なる迷宮探査と変わらないから楽だった。
性質の悪いトラップは皆無。広さは中程度。広大なダンジョンじゃない。
ここのダンマスは相当な自信家なのかも知れない。
やがてダンジョンの最奥に辿り着く。
この入り口を潜れば、最終決戦が始まる。
皆の緊張は一気に高まった。
最後の部屋の中の光のダンジョンのマスターは、全身にプラズマを纏っていた。
と言うより、プラズマが人の形をとっているとでも言うのだろうか。
体のありこちでバチバチと小さな火花が散っている。
「冒険者よ、よく来たな。
まさか此処まで来れる者が居るとは思わなかったぞ。
我が名は電人アジェクス、神に近しい者である」
ダンマスは神に近しい者、電人アジェクスと名乗る。
「電人って、あんたまさか変身しないでしょうね?」
アジェクスの横にブラックドッグが五匹現れる。
黒い犬のように見えるが、プラズマの塊だ。
そして、激しい戦闘に………ならなかった。
プラズマは電磁フィールドを突破出来ない。
アジェクスの攻撃も弾かれ決定打が無いも同然。
私達に攻撃が通用しない事を知ったアジェクスは狼狽える。
私達も主を倒さなければならない。
そこで拾って来た石を一斉にアジェクスに投げつけた。
石に当たったブラックドッグは爆発して消滅する。
「イテ、イテテ、おい、お前ら、何だその攻撃は、サイエンスな展開の結果がこれかよ」
普通だったら、魔法飛び交い、剣戟が錯綜するアクションが見せ場のシーンだろうけどね。
プラズマの坩堝の中じゃそれは出来ない。
持っていた石を投げ終わり、床に落ちた石も拾い更に投げつける。
アジェクスも負けじと石を拾って応戦するが、多勢に無勢。
アジェクスの電撃や投石は全て、電磁バリアーで防がれて私達に被害は無い。
やがて投げつける石は尽きた。
「石は終わりだ、みんな、盾でドツイてやれ!ドツキ殺したるわ!」
「うわー、やめてくれー」
アジェクスは悲痛な叫び声を上げ逃げ回る。
下に落ちている石を拾って更に投げつける。
石をぶつけられてアジェクスは痛そうだ。
石に当たって痛みに蹲るアジェクスを五人で包囲して、総勢14個の盾で殴りまわした。
「うーん、こうなると単なる集団リンチだね」
剣と魔法での戦いじゃないと、こうもミットモナイ戦いになっちゃうんだよね。
格好良い見せ場の無い戦いの末、遂に神に近しい者、光のダンジョンのマスターを斃した。
「ダンジョン奪った」
タリマが告げる。
部屋の置くに入り口が現れた。
「何だ? 入り口が現れただと?」
「まだこの奥にボス敵がいると言うのでありますか?」
「ダンマスのアジェクスはラスボスじゃなかったの?」
そんな疑問が湧き出すが、入り口の奥を覗いてみる事にする。
入り口を潜ると奇妙な空間がある。
まるで宇宙空間に入り込んだような感覚に襲われる。
しいて言えば、カオス空間とか時空間とかの表現で合っているのかな。
その空間の中に光の輪が見つかる。
私達は光の輪を潜る。
潜った先に小さな部屋があった。
部屋の規模から考えると、もう一人ボスが要るとは思えない。
部屋の中には、虹色に光る光の珠が空中に固定されていた。
光の珠は光が集まった物で、物質じゃないようだ。
「これは一体……?」
皆の頭の中に言葉が届く。
言葉は虹色の光の珠からの様だった。
〔我は記憶〕
記憶?誰の?どこの?
〔いずれ知る事になるでしょう〕
〔此処へ到達したマスターがいますね?吸収を開始します〕
ダンジョンの権能はタリマが奪ったから、マスターはタリマに移ったはずだ。
と、いう事は。
「タリマを吸収するだって? そんな事止めて、タリマは私達の仲間なんだから」
〔マスターを吸収しなければ、世界にエネルギーを還元出来ません〕
「それはダンジョンマスターの命を捧げるという事なの?」
〔その通り、今のマスターを生かすなら、スキルの委譲が必要になります〕
「スキルの委譲? 出来るの? そんな事」
〔この間以外での委譲は、マスターの死を以って委譲します〕
「じゃあ、タリマを死なせない方法は誰かに委譲すれば良いのね?」
〔その通りです〕
仲間を、タリマを死なせたくない。
シレラは、どうすれば良いのか必死で考えた。
誰かに殺される運命を持つ委譲を、他の人に頼む事は出来ない。
「ならば、私が委譲を受け入れる、タリマを人間に戻してあげるんだ」
「シレラ……」
「シレラ……それで良いのでありますか?」
すぐに誰かに死を齎される訳じゃないから、その間に良い方法も見つかるかもしれない。
一旦シレラが委譲を受け入れ、皆が助かる方法を探そう。
決心したシレラはスキル委譲を受け入れた。
タリマの体から抜け出た光がシレラの中に融合する。
スキル委譲を果たしたタリマは、これからは普通の人間として生きられる筈だ。
「人の住む街に戻ろうか」
「戻るなら、儂の熱気球を出してやるが、どうだ?」
「お願いします」
私達はパハジルさんの好意にお願いする事にした。
何せ、帰りの船は無いのだから。
ゾルックさんもセスァレナの街へ帰りたいだろうし。
私達一行は山を下り、ゾルックさんの庵から気球でセスァレナの街へ向かった。




