94「光のダンジョン」
積乱雲が山に掛かるまで数日かかった。
いよいよ待ちに待った機会が訪れたんだと皆が確信する。
【太陽と山頂が交わる所にポータルが現れる】
この情報に合致出来る様に、夜の内に灯を用意し、登山は開始される。
正直、知らなかったとは言え、私達は登山を舐めてました。
延々登り坂で途中で何度休憩した事か。
雲がかかった所では、前方視界は悪いし、静電気で体中ピリピリするし、
着ている物は濡れるし、寒いし、疲労困憊だし、息苦しいし。
だけど登りきらないと目的は果たせない。
既に私達に引き返すという選択肢は無い。
もう一度来るか、と言われれば拒否するだろうな。
誰だ、こんな場所にダンジョン創ったのは、殴ってやる。
山道は次第に道とは呼べない様相に変わりはじめ、
ついには単なる岩場を、足を滑らさないように登るしかなかった。
足が滑ったら、どこまで滑落するか判った物じゃないから、危険極まりない。
登山はもう徒歩の速度じゃなかった。
パハジルさんは以前にもこうやって登ったんだよね?
私なら、もう二度と来たく無いよ。
タリマもミモもハヒーハヒー言ってる。
男衆はさすがに音は上げないけど苦しそうだ。
それでも一行は頂上を目指し、黙々と登り続け、やがて山頂に辿り着く。
山の標高は3857m、山頂まで登山時間7時間40分もかかった。
積乱雲はまだ居座っているから、雲の上に出たという気分は味わえない。
空は薄っすら明るくなり始めている。
これが初日の出だったら嬉しかったかも。
太陽と山頂が交わる時間まで、全員岩に腰掛て休憩に入った。
こういう高地で飲むお茶って何て言ったっけ、確かバターを溶かすんだよね。
そういうお茶を飲んでみたいけど、私達は水しか持って来ていない。
もう昇って来たくないけど。
太陽が顔を出す頃、パハジルさんは出現するポータルの場所を確認し始めた。
やがて私達の目線位の高さに日は昇って来る。
辺りは靄と言うか、霧と言うか、雲なんだけどね。
その中に光り輝くものが現れた。
雲で光は乱反射してはっきりしないけど、それが噂の光のダンジョンのポータルに違いない。
全員、体中に隈なく磁性体塗料を塗る。
感電や火傷したくないからね。
その後、全員に盾が配られる。
一つの手に一つ盾を持つから、全員で14個。
更に全員に先の見えないサングラスも配られる。
絶対に光を直視しないようにと厳命される。
サングラスが無いと、光で目を焼かれ失明しちゃうんだよね。
パハジルさんは離れた場所に設置した道具から、鎖の付いた鉄球をポータルの中へ撃ち込んだ。
直後、バシーという音が響き、鎖は赤熱し放電している。
「こうして中の電荷をなるべく大地に逃がさんとな」
多少でも安全性を上げるための処置らしい。
ポータルを潜ると、体中にモアッとした圧力のようなものを感じるが、大丈夫そう。
目には見えないけど、私達の周りに電磁場が発生しているようだ。
「昔、儂のパーティーはこの段階で全滅したのだな」
「そうなんだ、敵討ち成功だね。 おめでとうパハジルさん」
「ああ、今度こそ中を探索出来るのだな」
通路には大小様々なウィルオーウィスプが浮遊しているけど、
私達の電磁フィールドは反発し、風船か何かのように押し返す。
ダンジョンの中の魔物は相手しなくて済みそうだ。
もし、何か来ても盾で追い払えば良さそう。
「実地検証は出来た。これで十分対応出来ると確信したのだな」
パハジルさんの検証は合格点に達したようだ。
で、一旦外へ出て、出直すかと言われると、この山をまた登り下りするの~となる。
みんなの内心が透けて見えるようだ。
なら、どうするかと言うなら、このままアタック開始するだけさ。
こうして私達はダンジョンアタックを開始した。




