89「イモータルワイズマン」
私達はスルトヘイムに来て一月半くらい邑々を廻っている。
五つは邑を訪ねたけど、相変わらず手掛かりは無い。
道中は勿論安全とは言い難い。
頻繁に魔族の盗賊や魔獣が出没する。
ここらの魔物は大きく強暴だから魔獣と言うに相応しい。
だけど、それらが私等に脅威かと言えば、全然脅威にならない。
ゾルックさんは護衛のつもりで来たにも関わらず出番が無い。
出番が無いなら、せめて御者をと渡る前からずっと御者に専念している。
相変わらず地を行く者は落し穴に、空を飛ぶ者は落とし天井の餌食になる。
ホント、ダンマスのトラップ能力は無敵だね。
今は湖の周辺の街道を馬車で移動している。
「スルトヘイムの湖は青くないんだね、水が赤いというか、黄色っぽいというか」
ふと湖の対岸を見ると、対岸の山の中腹辺りに建物が見えた。
邑のように民家が密集しているのと違い、一軒だけポツンと在る様に見える。
「シレラ、あれ」
タリマも見つけたようだ。
「当たりかも知れませぬな」
ゾルックさんも追従する。
馬車を目標の場所に走らせてみた。
山の小道を上がって行くと、やがて小さく開けた場所に、その建物はあった。
周囲は岩に囲まれていて、対岸から見えたのは屋根部分だったようだ。
うっかりしていると見落としかねない所だった。
「ひょっとすると、ここがイモータルワイズマンの庵?」
「すいませーん、誰かいますかー?」
「はーい」
確認すると中から子供が現れた。
「ここはイモータルワイズマンのお宅ですかね?」
「はい、そうですが、先生はただいま散歩中でして留守をしています」
ヤッタ!当たりだ。
しかし留守とあってはお邪魔する訳にはいかない。
「帰りは何時になるんだ?」
「気分次第で何時になるか判らないんです」
残念ながら、出直すしか……
待て!
これは孔明の罠だ。
三顧の礼かい!
「イモータルワイズマンが居ないなら、待たせてもらおう」
庵の前で。
ワイズマン、お前から来い。
てな具合で、庵の側にポータルを設置して中で待つ事にした。
待つ事三日、湖の上を歩いてくる人物が居た。
彼こそが不死の賢者イモータルワイズマン。
ようやく散歩から帰って来たところだった。
庵に入ろうとした時、異変に彼は気が付いた。
近くに見慣れないものがある。
ポータルだ。
「これは何事?」
イモータルワイズマンは中を覗き込んでみた。
中は三つ部屋が有るように見受けられる。
その中の一室で四人の人物が食事をしている。
「何者? 何故ここにこんな壕が? 彼女等は何故ここで食事しているのか?」
イモータルワイズマンは混乱した。
賢者を混乱させるとは恐るべき者共。
ゾルックさんは人の気配が入り口にあるのを気が付いた。
「おう、いらっしゃい。貴殿がイモータルワイズマン殿だね?」
「いかにも、しかしこれは一体……」
フードの付いた黒いローブを着ているイモータルワイズマン。
フードから覗くその顔は髑髏だが、表面を透明なジェル状の皮膜が被っている、
おそらく体全体もそうなっているだろうと想像出来る。
「私達は貴方、イモータルワイズマンを探してきたんだ」
「儂を?」
私達は彼に来訪の目的を語った。
「何だか解らんが、ひとまず儂の庵で話の続きを聞かせてくれんかの?」
興味を惹かれた彼は庵の方へ迎え入れる事にした。
場合によっては、情報を書き記そうと考えたからだった。




