88「スルトヘイム」
シレラ達の船は無事に魔界のある大陸に到着した。
帰りの船の約束は無い。
魔界での旅がいつには終わるというスケジュールが立たないからだ。
それまで此処で船が停まっている事は出来ない。
そんな理由で、帰りには方法を考えなければならなかった。
魔界大陸の名はスルトヘイム。
スルトヘイムは大陸と言うほど広大な土地じゃないが、島と言うには広大すぎる。
それくらいの規模だった。
スルトヘイムの外周は3000m級の山岳に囲まれ、主要な陸地は盆地の中に在る。
もし航空写真でも見れるなら、クレーターと見えるかもしれない。
3000m級の山岳には火山だって混在する。
熱せられた大気は盆地の中で対流する。
そのため、肥沃な緑地帯というものは存在しない。
僅かに生える植物と岩肌が荒れ果てた世界は、正に魔界と呼ばれるに相応しい様相だ。
心なしか硫黄の匂いがする気がする。
スルトヘイムの入り口は、それほど広くない入り江の向こう。
山脈と山脈が織り成す渓谷の間に頑丈な門で隔離されていた。
しかし、門はだいぶ以前に破壊されたままになっている。
難民達はここから脱出したのだろう。
門の向こうは幸い馬車くらいは通れそうな幅があるが、路面状況はあまり良く無さそうだ。
ゾルックさんは言う。
「アシャンレニルの都は治安が崩壊していて危険だ。スルトヘイムを廻るなら邑々が良いだろう」
そういう提案で、私達は邑を目指す事にした。
邑は土塁壁を囲壁をめぐらし、周囲に氏族民共有の耕作地を展開している。
一般に言う村より規模が大きいらしいが、町というほどの規模でもない。
土塁壁を邑の周りにめぐらせていなければ、それだけ危険な土地だという事を現している。
四日ほど進んだ所にジョズナという邑があった。
壁は3mくらいの高さで邑を囲い、外敵から守っている。
残念ながら中の住人達からは、有益な情報は得られなかった。
久しぶりに保存食以外の物を食べようって話になったけど、
たいした植物が育たないから、肉が主な料理になる。
あまり調味料が普及していないから、美味しいとは思えなかった。
スルトヘイムでは、どこもこんな具合らしい。
人族の世界、アツィルト界と言うらしいけど、そちらに比べると大地は荒涼としている。
そんな地で暮らす彼等だから、食料は狩猟に頼っている所が多い。
狩りの道具は剣が殆どだったりするという、弓も罠も使わないらしい。
それくらい資材も少なかったりしている。
「それだから、魔族が闘争的と思われるのは無理も無いか」
邑の子供達は大きくなって狩りに参加するために、遊びは男女別無く剣の修行が中心になる。
私達のような外部の人が珍しくて、よく人に囲まれる。
子供達が剣戟遊びに誘って来るんだけど、私やタリマは駄目だな。
何せリザードマンの道場の子供にも勝てないんだから。
そういうのはゾルックさんとミモにお任せする。
「おお~、あのお姉ちゃんスゲー」
六刀流は魔族の間でも珍しいのかな、みな驚嘆している。
負けじとゾルックさんは伝家の宝刀の斬馬刀を振って見せている。
もう子供達から英雄扱いされまくって、なかなか終るに終われない。
翌日、私達は次の邑の情報を聞いて出発する事にした。
いつかは手掛かりが掴めるだろうと期待して。




