85「ズンナ翁」
ズンナは先に出会ったシレラ達の事を考えていた。
ポンチョとターバンで姿を隠しているミモという女性、
赤い髪から察するに、彼女は間違いなく魔族であろう。
昔から魔族は人族・亜人族の敵だった。
魔界から流れて来た魔族に襲われた歴史がある。
魔族は総じて強力な者が多い。
姿形も異形であり、存在からして恐怖を撒き散らす。
故に何処でも魔族は恐れられ、嫌われる。
今でも時折魔族に襲撃された街があると噂を聞く。
魔族とはそういう存だ
にも係わらず、彼女達の様子は違った。
魔族に支配されている事も無く、単なる仲の良い三人組に見えた。
そう、まるで何処にでもいる娘達のように。
もしかしたら、世界に儂の知らない何かが起こっているのでは?
ここエルフの里は排他的で外部の者を嫌う。
はるか昔に人族がエルフ狩りを行ったり、亜人種族との軋轢があったりした歴史がある。
その結果、エルフ族は森に閉じ篭るようになってしまったのじゃ。
森に閉じ篭って数百年。
世界の動向の情報もあまり入って来ていない。
世界は常に移り変わっているはずなのに。
そうか、儂もこの里の中で慣れきって、すっかり世情に疎くなっていたんじゃ。
何という事か……。
ここは一つ長老会議にかけて里の外を見聞する者を集めないとな。
長老会議は開かれた。
しかし誰も外の世界を見て来ようという者はいなかった。
「ならば、再び儂が外の世界を見聞してやるわい」
ズンナが決意を固めると、心配する若者がいた。
「ズンナ様、外は危険で御座います。お一人で行かれませぬようお願いします」
エメスナがズンナ翁の身を心配している。
「エメスナか、よし、お前も儂に同行せい、新たな価値観というものを見せてやる」
「ええ~、そんなぁ~ズンナ様~」
渋るエメスナを強引に同行させる事にした。
二人は里から出て旅を始めた。
徒歩の旅だが、ズンナ翁は以外にも健脚だった。
「フォフォフォ、エメスナは若い割りにだらしが無いのぅ」
「ズンナ様がおかしいんですよぅ」
二人はいくつかの街を見て廻った。
永らくぶりの景色は昔の面影をあまり残していなかった。
ズンナ翁は随分変わったものだと、しみじみする。
そんな二人はセスァレナの街にもやって来た。
その街では魔族が人に混じっている事に驚いた。
「む。この街があの娘達の来た街なのか?」
人の集まる所で街人に話を聞いてみる事にした。
「あんたら、何処から来たか知んねえが、あの人達を魔族と呼んではならねぇ」
「そうだ、彼らミモの衆はセスァレナの住人だからな、俺たちと同じだぁ」
皆口々に魔族じゃないと否定する。
何故だ、これをどう考えれば良い。
ズンナ翁達は更に街中に立ち入り話を聞いてみた。
彼らは元難民として、この街に来たと言う。
彼らは街の一員になろうと努力した。
そして【和合を以って尊し】という神託まで降ったと言う。
神託が降る?
これも初めて聞く事だった。
二人は更に情報収集をする。
やがて疲れた二人はカフェテラスで休憩する事にした。
「どうじゃエメスナ、世の中は驚きに満ちておるじゃろ?」
「ええ、全くでした、目から鱗が落ちるとはこういうのを言うのですね」
この後もしばらくズンナとエメスナはこの街に滞在する事にした。




