69「ダンジョンアタック」
情報通り、ダンジョンの入り口は沖の岩礁にあった。
私達を運んでくれた漁師のおじさんに謝礼を渡し、引揚げてもらった。
「帰りは迎えに来れんけど、良いんだな?」
漁師のおじさんも心配してくれる。
いつ戻れるという約束が出来ないから仕方ない。
約束も出来ずにいつまでも、ここに船で待ってもらう事も出来ない。
漁師のおじさんは船を街に向け漕いで行った。
いまここに帰りの船は無い。
無いけど、アタック開始だ。
普通なら、引き返した探索組パーティーを出迎える地上待機班を組織するのだけど、今回集まったメンバーじゃ人数が足りなすぎる。
荷物担ぎも居ないから、各自持てるだけ持って行く。
タリマのダンジョンが使えれば、休憩は出来るだろうけど、今回は期待出来ない。
と、言う事は、このパーティーはダンジョンの中でサバイバルする事になる。
後先考えない突撃重視パーティーだ。
「おおい、きっついアタックだな」
「しょうがないでしょ、少女を急いで助けないと」
メンバーから呆れる声が上がるけど、何よりミモの救出が最重要視だ。
私は皆の不満の声を黙殺して、ダンジョンアタックを強行する。
後の事は、このダンジョンのダンマスを倒せば、ダンジョンの権能を奪えるかもしれない。
奪えれば脱出は楽になるはずだ。
この海のダンジョンは海水で出来ている。
壁の透明度は、それほど良くない。
壁の向こうは透けて見えるという感じ。
魔物はと言えば、それほど強いのは今のところ出ていない。
小魚の魔物や貝の魔物ばかりで、倒すのに苦労はしなかった。
むしろエンカウント率がウザイと感じるくらい。
私達は慎重にマッピングしながら奥へ、奥へと進んで行く。
普通に歩くのと違い、迷路という障害物だらけのエリアを魔物と戦い、
マッピングしながら進むのだから、結構時間も掛かってしまう。
途中に見つかる小部屋で休みながら、疲労や体力を回復させる。
持って来た食料は四日分。
一人ひとりが持てる分量には限りがあるから、無闇に長期間分は用意する事は出来ない。
四日の内三日は深部を探索出切れば良い。
そう考えている。
食料が尽きたなら、魔物を食べれば良い。
外での冒険や移動時はそうして来たから、無謀な事じゃない。
中々広いダンジョンだった。
この階層だけで一日費やしてしまった程だ。
マップを埋め尽くした頃、優に10km四方の迷路を探索し終わった。
やっと下へ降りる階段を見つける事が出来た。
パーティーメンバーからホッと安堵の息が漏れる。
次は二階層。
私達は階段を降り、下の階層を攻略する。
すべき事は最初の階層でした事と変わりは無い。
迫る魔物を倒しつつ、マッピングしながら進むだけだ。
この階層は陽の光が少し弱くなる。
階層を降るほど光は弱くなるんだろうと思う。
エンカウントする魔物は強くなって来た。
カニとかシャコの魔物で体も大きいのが多い。
体長が2mくらい有るだろうか、どちらも堅い体表を持つから、倒すまで時間も掛かる。
しかもカニの鋏やシャコのパンチを相手にするのは大変危険だった。
だけど幸い、こいつ等は火に弱い。
魔法士のレジョル氏が火の魔法を使えるから、苦労は半減できる。
魔法が使えると言っても、無限に使えるものでもない。
戦闘での疲れも癒しつつ進まなければならないから、
この階層を攻略するのも一日掛かってしまった。
そして、更に下へと繋がる階段を見つけた。
明日はこの先の下の階層を攻略する。
次は三階層。
この先、どれくらい階層が待ち構えているかは不明だ。
世間の噂じゃ1000階層のダンジョンも在るとか。
このダンジョンが、そんなじゃない事を祈ろう。
更に強めの魔物を倒しつつ先へ先へと進み、マップも半分以上埋まって来た。
メンバーの疲労も溜まってきたから、そろそろ休みたい。
そう思いながらも進んで行くと、小部屋があるだろうエリアを見つけ、
そこで一休みする事にしようと全員一致した意見で部屋に入った。
その時
「「「「うおおおおお! 何だあれは!!」」」」
パーティーメンバーは全員目の前の者に戦慄を憶え身構える。
「もしかして、フロアボスか?」
座っているが、こちらの戦士より大柄な奴がそこに居た。
魔物を切り裂き、手足を引き千切り口にしている。
食事をしているようだ。
異様な姿、見ただけで獰猛なのが解る。
食われている魔物は、この辺りじゃ結構強い奴だったはず。
そんな魔物が食われてるのだ。
こいつは今まで見た事が無いほど危険な奴なんじゃ?
全身から嫌な汗が噴出するのがわかる。
ヤバイ、ヤバ過ぎるんじゃ。
六本の腕を持つ魔物。
「ま、魔王なのか?」
ベウード氏は呟いた。
「……ミモは魔王じゃないのであります」
ミモだって?
腕の数は同じだけど、こんなに大きくなかったはず。
「ミモ、ミモなの?」
「あー!シレラ、シレラでありますー。シレラがまた助けに来てくれたでありますー」
「なあ、シレラ、助けに行くのは少女だって聞いてたが?」
「こういうの、助けに来る必要ってあるのか?」
波に攫われ、ダンジョンに閉じ込められたミモは驚いた。
しかし、いつまでも驚いたりか悲しんだりしている余裕は無かった。
ダンジョンには魔物が涌き、ミモに襲い掛かって来る。
ダンジョンを進んでも進んでも魔物は涌いて襲って来る。
昔のミモだったら、既に命は無かったろう。
シレラ達とのレベリングの経験がミモの命を救う事になった。
毎日狩りをして、時には獲物を捌いて食べる。
そういう経験と、多少なりとも上げていたレベルがミモを助ける。
一人だけになって心細くても、襲って来る襲撃者を倒し続けた。
泣きながら出口を探しても、中々見つかるものじゃない。
ダンジョンを彷徨い、魔物を狩りながら出口を探し続ける。
いくら恐くても、獲物を倒し続けるだけの力をミモは既に持っていた。
出口を探しながら魔物を倒し続けた事で、ミモは嫌が応でもレベルが上がる。
ステータスはLV/67、ST/380、VT/650、MP/500。
魔族のミモはレベルアップ毎にステータスが爆発的に上がっていく。
ステータスが上がるにつれ、体も大きく、力強くなった。
子供の衣服は体格に合わなくなり、彷徨う内に見つけた倒れた冒険者達の衣服を剥いで着た。
最初から持っていた小ぶりの剣は壊れ、迷宮に散らばる剣を拾って戦った。
剣は良質とは言い難いけど、六つの手に一振りづつ持てる位には拾える。
六本の剣を六本の手で持ち、戦い、獲物を狩る魔族のミモ。
実に魔族らしいと言うか、カーリーのような姿になっていた。
ミモを見つけたシレラのパーティーが戦慄したのも無理は無かったろう。
「後はダンジョン脱出だけど、タリマが権能を使えない様だから、主を退治に行きますか」
話が半分理解出来なかったメンバーだったけど、主を倒してお宝も欲しかったから、
ミモを含めたメンバーでダンマスアタックする事に賛同した。
ミモのいた小部屋で休憩し疲れを取り、体力を回復させ、ダンジョンの残りのマップを埋めて行く。
マップが埋め尽くされ、残った入り口の奥に主はいた。
ここ、海のダンジョンのダンジョンマスターだ。
同時にダンジョンコアでもある。
この主を倒せばダンジョンの権能も奪えるに違いない。
この海のダンジョンのダンジョンマスターはサハギン。
どうりでトラップが無かったんだ。
サハギンは人型の魚人ではあるけど、人ほど知性は無い。
無いにしても、曲がりなりにもダンジョンマスターだ。
油断は出来ない。
ベウード・ラシギト・シレラが剣を抜き、サハギンに向かってダッシュする。
サハギンは対応する。
三人の目の前に水の壁が唐突に出現した。
「ちっ、水壁のバリアーかよ」
レジョル氏はファイアーボールで水壁の破壊を試みるが駄目だった。
剣戟も魔法も壁を突破出来ないのだ。
ザンン!!
突如床が棘になる。
「ウガアァァ」
ラシギト氏が串刺しになった。
「まずいわ、私のヒールじゃ死んだ者は蘇生出来ない」
ヒュルア氏が叫ぶ。
水壁のバリアーがあり、床が棘だらけ、フィールドの自由が奪われた。
更に戦士であるラシギトがやられ、戦力的に不利になる。
「ミモに任せるのであります」
迷宮のどこで拾ったか、手にモーニングスターを持っている。
そうか、ああいう武器があれば堅い魔物も砕けるんだ。
「やー」
相変わらず迫力に欠ける掛け声で、
ミモはモーニングスターを振り回し、床の水棘を破壊しまくり、
水壁をメッタ打ちにする。
ガン、ガガン、ガンガン、ダダン、バキン、バキバキバキ!
鉄球が打ち付けられる度に水壁は削られて行く。
レベルアップして強くなったミモの攻撃は凄まじい。
水壁は削られ、次第に薄くなって行き、ついに穴が開く。
それでもモーニングスターの鉄球攻撃は止まらない。
穴は益々広がり、壁の内側にいたサハギンの体を掠る。
「ファイアーボール!」
隙を見てレジョル氏が魔法を叩き込む。
が、残っている水壁に阻まれヒットにならない。
サハギンはウォーターボールで応戦してくる。
ミモはいくつか被弾するが、残りの手に持つ五本の剣で弾いている。
こちらにもいくつか水弾は飛んで来るが、避けられない程じゃない。
「ミモ、どいて!」
盾になっているミモを退かし、シレラとベウード氏は水壁の内側に飛び込んだ。
こうなると後ろの壁に阻まれ、サハギンに逃げ場が無くなる。
武器を持たないサハギンに対し、剣を持つ者二人がサハギンの前に立ち塞がった。
その時、水弾を避けそこなったベウード氏だが、怪我は浅い。
シレラの剣がサハギンの腹を貫いた。
追ってベウード氏が袈裟切りに剣を振り下ろす。
決着だ。
サハギンは戦闘不能になり、地に臥す。
しばらく痙攣をしていたが、しだいに動かなくなった。
ついに決着かついた。
ここのダンジョンマスターであるサハギンを倒した。
「ダンジョン奪った」
勝負が確定した時、タリマが口にする。
このダンジョンの権能をタリマが奪えたようだ。
戦いが終わり、皆、床に崩れ落ち休憩に入る。
ラシギト氏を戦闘で失ったが、シレラ達は勝利したのであった。
戦闘で命を失う冒険者というのは珍しい話じゃない。
ましてや募集で集まった者達だから、過剰に悲痛な感情的になる者もいない。
烏合の衆というのは、こういう時に余計な気を使わなくて楽だ。
「お疲れ様」
「ああ、まったくだ」
「しかし苦労の割りにお宝が無いダンジョンだったな」
街で雇った冒険者達は、苦労の割りに実入りが無かった事で余計に落胆した。
そっか、サハギンなんて人じゃないのがダンマスなんだから、お宝とは無縁なのか。
今までの幾多の冒険者達が途中で、ダンジョン制覇を諦めた訳だ。
「帰りは出口でて、真直ぐ行けば良い」
タリマが街の近くまで通路を創ったようだ。
お宝が無くて落胆した冒険者達は、あの迷宮を昇らなくて済んだ事に安堵した。
何故そんな事が出来るのか、気付くほど気力は残っていない様子。
こうして一行はダンジョンを脱出して街に帰還した。




