64「ミモ」
ぽかぽか温かい日差しの街道をトコトコと馬車が行く。
年寄りロバが引く大八車だけど。
操車初心者の私らだけど、店主お勧めは間違いが無かった。
馬ほど俊敏じゃないけど、実に従順でおとなしい。
速さは徒歩と変わらないから、
座るのに疲れたら、車から降りてロバを引く。
そんな旅を、もう三日続けて来た。
後一日もあればエカサの街に着けるだろう。
途中盗賊も獣も襲って来なかったから、実に安全な旅だ。
空に鳥の声を聞き、街道の脇で風で揺れる草花を眺め、寿いでいられる。
タリマも車の後ろで後ろ向きに座って寛いだり、寝転がったりしている。
荷物も少なめだけど、背もたれに丁度良いようになっている。
街道脇に生える二本の木を過ぎる頃、
私達を呼び止める声がした。
辺りを見ると、木の根元に一人の人影が見えた。
「そこ行く人……、助けて…ください」
なぬ?
助けてだって?
見ると、身なりの宜しくない少女が一人。
人族とは一寸違うように見える。
と言うか、だいぶ違うかな。
赤く長い髪は腰まであり、
頭の上に小さな角が1本生えているし、腕は6本在る。
魔物と言うより、人型だから魔族って所か。
年の頃は12歳くらいの少女。
背の丈はタリマより低そうだ。
異形ではあるけど、子供だから恐い感じは無い。
誰かから、ここまで逃げてきただろう事は見て取れる。
ここまで来て力尽きて衰弱したようだ。
そんな魔族の少女が助けを求めている。
魔族と関わるのはどうかとは思うけど、衰弱した少女が助けを求めている。
普通なら助ける所だろう。
人ならざる者だとしても。
こちらには既にタリマという人ならざる者も仲間にいるし。
まぁ、いっか、助けても。
私等は魔族の少女を助ける事にした。
少女を大八車の後ろに乗せ、野営用の毛布で包み、水を飲ませて落ち着かせた。
幸い怪我は無く、衰弱していただけのようだ。
少女の名前は【ミモ】
種族は魔族。
獣人じゃないから尻尾は無い。
魔界の都から出て、数百名で新たな居住地を探しに旅をしていたそうだ。
体力の無いミモはその旅団からはぐれてしまった。
旅する旅団の一行ははぐれた者は置いて行くらしい。
付いて行けない者は、所詮この先行きぬく力無しと判断され、切捨てられるという。
中々ハードな掟があるね。
仲間とはぐれたミモは、彷徨っているところ盗賊に目を付けられた。
盗賊連中はミモを捕まえ、魔物奴隷として何処かへ売り飛ばそうと話していた。
誰だって奴隷にされるのはイヤだ。
ミモは隙をみて盗賊達から逃げ出した。
体力が無くて仲間からはぐれたミモはいつまでも逃げられない。
逃げて
逃げて
やっとこの木の所まで逃げて来て力尽きた。
もう盗賊に捕まるしかないのか。
と諦めかけていた所に、シレラ達が通りかかったと言う。
「シレラ、この子、助けよ?」
タリマの言葉に一も二も無く同意する。
仲間とはぐれたなら、良ければシレラ達と一緒に居れば良い。
「仲間にしてくれるですか?」
「もちろんさ」
タリマも心配しているし。
もう少し事情を聞いてみた。
「あんた、魔族だけど大丈夫だよね? 私ら襲わないよね?」
「ミモは武闘派バトルジャンキーな魔族じゃないでありますよ」
魔族はバトルに強いって先入観があったけど、魔族にだって一般人は居るらしい。
人のステータスが見える魔眼と火と治療の魔法が使えると言う。
かく言うミモのレベルは3だ。
レベル3?
体力ねーー。
おい、ミモ、あんたそれで何かと戦えるのか?
私ら冒険者って狩りくらいやるんだから。
見た目は阿修羅像のような魔族なのに。
「だって、戦うと怪我するし、恐いし、痛いのはイヤなのであります」
とにかく後残る心配事は追手の盗賊だな。
シレラ達一行が街道をトコトコ進むうち、
前方左側、ちょっと大き目の岩陰の向こうに数人の男達が見えて来た。
何か探している様子。
という事は、あいつ等が例の盗賊だね?
こちらを見つけたようで、男達がこっちに来る。
それぞれ手に剣を持っているから確定だね。
上品そうなのは一人もいない。
やつらが、先の話にあった盗賊だ。
こちらが女子供ばかりと見て獲物を見るような眼をしている。
そうなら、手加減無用。
「タリマ、やっておしまい!」
「「「うおおおおお!」」」
盗賊は全部落し穴の中に落ちる。
15メートルくらいの深さで、底に比べ狭い入り口の上り難い穴だ。
割とえげつない。
盗賊達は穴から出るに出られないだろう。
後は忘れて放置する。
どうせ禄でもない連中だ。
どうなろうと知ったこっちゃないね。
さて、エカサの街までもう少し。




