62「冒険の始まり」
シレラ達は安宿には泊まれたが、
手持ちのお金が少ないから、食事を頼む事が出来なかった。
この子の衣服や今後の食料や冒険に必要な道具を買うにも事欠いている。
先のダンジョン攻略時に10人の仲間同士でお金を出し合い色々取り揃え、
万全の体制でダンジョンに挑んだけれど、結果シレラ以外は全滅。
換金出来る戦利品も無い今、宿を払えば文無し状態にある。
「はぁ~あ、どうしたものか……」
シレラはタリマに資金欠乏と今後の事を話してみた。
どうせ名案なんか無いだろうけど。
それでも口に出して誰かと話すくらいは出来る。
「お金? お金ってどうやって手に入れるの?」
タリマに聞かれて、当面出来そうな事を言ってみた。
街の外で獣や魔物とか狩って、ギルドに提出すれば多少なりともお金になるでしょうね。
タリマは体の線が細く、戦闘向きには見えない。
と、なると戦うのはシレラだけだろう。
そうなると獣一匹狩るだけでも大変だ。
それでも他に方法は思い浮かばない。
「なら、街の外で獣を狩るです」
そうだね。
結局それしかないか。
しかもタリマをギルド登録するにもお金が無い。
登録するにしても、銅貨二枚はかかる。
なら、タリマのギルド登録は後回しでも良いか。
一番心配なのは怪我をする事。
今の懐具合じゃ薬も買えない。
そんな思いが二の足を踏んでいる。
しかし他に良い方法が思いつかない以上、行動してみるか。
そう決断して二人は街の外、少し離れた森の入り口で狩りをする事にした。
◇
結果は危惧してた事は愚考だったとしか言えなかった。
タリマは森の入り口をダンジョン空間にして、
周りに落し穴を設置。
獲物を傷つけずに手に入れるために、穴の中に毒ガスを充満させた。
「準備良し。 後は待ってれば良い」
しばらく待ってると、野犬や狼が近づいてきて、次々に落し穴に落ちた。
穴に落ちた獲物は毒ガスで絶命する。
まずは一匹取り出して捌いて焼いて食事する事にした。
ぶつ切りにした肉に木の枝を刺し、焚き火の直ぐ側にさす。
こういう場合をいつも想定しているから、塩くらいは持ち歩いている。
この世界、獲物は何だって食べてしまうのが普通だ。
昨夜から何も食べていないから十分に美味しい。
空腹こそ最上の調味料なんて誰が言ったか、言い得て妙だね。
毛皮を剥ぐのに剣を使う。
今日剣を振るうのはこれが始めて。
血の臭いに吊られて現れる獲物は、次々に落し穴に落ちる。
穴に落ちた獲物は毒ガスで次々に絶命する。
シレラが剣を使う所はまったく無い。
戦わず獲物が手に入る。
座って食事してても、それで十分だった。
穴から引きずり出した獲物は、
野犬30匹
狼173匹
とんでもない大猟だった。
シレラが剣を奮っても、得られる獲物は1日二匹くらいが精々だったろう。
次々現れる野犬や狼に内心恐々としてたにも係わらず、無傷で203匹の獲物が手に入ってしまった。
後は、どうやってこの大量の獲物を街のギルドまで持っていけば良いのか。
悩んでいると、タリマは六畳間ほどの異空間を作り出し、
ポータルを開き、次々に片付けてしまった。
ポータルを閉じれば手ぶらになる。
なんと!
ダンジョンマスターの能力って、こんな事も出来るのか。
もう唖然とするっきゃないじゃないの。
こいつって、とんでもないチート野郎じゃん。
と言うか、人間か?
こんな事できるタリマって人間じゃないでしょ?
◇
シレラとタリマは冒険者ギルドに直行した。
ギルドでは、依頼仕事の達成報酬金の支払いや、仕事の依頼を受けたり、獲物を買い取ってくれる。
もちろん冒険者登録もここで行う事が出来る。
「よう、シレラ、今回のダンジョンアタックは残念だったな」
顔見知りの冒険者がシレラに気の毒そうな目を向ける。
シレラたちのパーティーが全滅した事は知れ渡っていた。
「まあね」
「ダンジョンアタックには失敗したけど、獲物は引き取ってくれるんだろ?」
「もちろんさ。それで獲物はどこに置いた?」
隣の部屋に獲物を積み出したタリマが、ギルドカウンターの係員を案内する。
「ちょっと…。何これ」
驚いた係員の声に人が集まってきた。
うぉ!これほどの物をどうやって持ち込んだ?
「すげぇ。 これをシレラがやったのか?」
「ま、まあね。それよりまずは換金出来るだろうね?」
「あ、ああ…。もちろんさ」
毛皮が1枚、銅貨五枚
野犬が1匹、銅貨二枚
狼が1匹、銅貨四枚
合計、銅貨242枚
になった。
後はギルドの誰かが毛皮を剥ぎ、肉は売ってしまうのだろう。
全部毛皮なら、もっと値が上がったろうけど、今はこれで良い。
毛皮を剥ぐのは大変なんだよね。
元手が出来たところでタリマがギルド登録出来た。
ギルドの男達の誰もがタリマの事を言わなかったのが助かるよ。
興味ないのかな?
まあいっか。
次は街でタリマの服を買わなくちゃ。
服屋でシレラと同じ冒険者の服装を買った。
厚手の生地を使った丈夫な物だ。
この世界では子供でも冒険者になる事もあるから、タリマのサイズも事欠く事は無い。
次いで丈夫な靴と皮の胸当て、小ぶりな剣とポーチを買い与えた。
タリマに武器は必要ないかもしれないけど、無いよりは良いだろうと思う。
それでも資金に余裕は有りすぎる。
タリマの装備は、これで良いとして、
明日はどこへ冒険しようか。




