60「界渡り」
ニホバル王子がザウィハーに落ち着いて以来、
それなりに忙しいのだが退屈をしていた。
各地から寄せられる公演オファーに対して、
どのユニットを出演させるか、派遣公演状況を考えながらスケジュールを組み、
公演順序をどうするかの調整と、派遣の指令を出すだけの毎日。
各ユニット達はマネージャーの指示を聞き、各地の公演に派遣されて行く。
こういう調整と指示の仕事って、誰かに代われば良いんじゃね?
そんな事を考えたニホバルは、この仕事に人を雇う事にした。
募集に応えてやって来た『ナーユゼ』をその任に就いてもらった。
リャナンシーのルノア養成所長もサテュロスのメフルア作詞作曲担当も、
皆それなりに忙しいから、頼むに頼めないからだ。
一息つけると以前にチラと聞いたパラレルワールドに興味が出てきた。
でも、どうやって異世界に行けるのかが解らない。
「ニホバル王子様は以前、グルアガッハのパミルアからタリズマンを受け取っている様子」
メフルアがそのタリズマンの説明をしてくれる。
どうやら女神ポリュヒュムニア様の盗聴器らしいとか。
「そうだったのか、初めて合点がいった」
ニホバルの事を、どこにいるのか解らない女神ポリュヒュムニア様は知っている様子。
なぜ知っているかなんて、どうせ神様の事だから解るんだろと思っていた。
タリズマンを通して聞いていたのか。やられたね。
「そのタリズマンを私が加工して、世界を繋ぐポータルにしましょう」
さすが半人半神のメフルアだ。
半分でも神だから、そういう事も出来るのか。
さすがの彼女でも、五大精霊達の力を借りなければ難しいと言う。
その精霊達もすでに揃っている。
盗聴器機能を潰す事は出来ないから、ポータル機能を追加するらしい。
その作業にしばらく日数が必要らしい。
完成を心待ちに待つ事にした。
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ニホバル王子が成人し、ルリア姫が次世代の王になるための教育が始まろうとしていた。
「イヤです!ルリアが王様なんてなったら兄上様と一緒にいられなくなります」
ロンオロス王とアビスナ王太后が困り果てている。
お兄ちゃん子だとは思っていたけど、ここまでブラコンになっているとは。
「王様の座なんか、タリエルが継げば良いじゃありませんか、とにかくルリアはイヤですー」
王様の座なんかと来たか、
『なんか』
それ程ハユバムの国王の座は軽くないのだが。
バウソナ達の謀反事件以来、自室に幽閉されている第四王姫タリエルは、
ロンオロス王の前に連れて来られた。
タリエル姫にとって誰かと話をするのは数年ぶりだ。
彼女は長過ぎる幽閉生活で、喜怒哀楽の表情は抜け落ちている。
最初の頃は、母王妃シャルナの城内追放を聞き及び悲しんでいたが、
続く悲しみの心が、喜怒哀楽の感情を消してしまったかの様に見える有様だった。
「余のやり方は、タリエルにも失敗したのかのぅ……」
世の中総ての事に諦念しているのか、ロボットのように従順で自分の意見を言う事も無い。
ロボットか何かのように喜怒哀楽の表情も現さないから、何を考えているのかも判らない。
そんなタリエル姫を王座に就けても、傀儡の王としかならないだろう。
実際、タリエル姫には心が無かった。どんな物事にも動く心が無いのだ。
「ルリアがその気になるまで、私達がタリエルを支えながらやって行くしか無さそうですね」
「うむ、タリエル、余が悪かった、許してくれ」
「………」
「そうか、許してはくれぬか。だがこれからは余達がお前を支えてやるから安心せよ」
タリエルに対する贖罪の一つとして、市井の者に堕とされたシャルナは王宮に戻された。
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「ニホバル王子様、タリズマンが完成しました」
音声入力でこちらの世界にいつでも繋がると言う。
つまり、タリズマンに呼び掛ければ、誰でも応える事が出来るようになったという事になる。
「兄上様が、また何処かに行くなら、ルリアも一緒に行きます」
ルリア姫のゴリ押しが始まった。
異世界へ渡るメンバーは、ニホバル王子、ツェベリ、ルリア姫、キスナエレア、
ニホバル研究家のジロクアント魔道研究所長ナサラトット氏、
ニホバル王子一行お目付け役にドラゴン娘マネージャー(ビエル)
の6名に決定した。
うーん。ナサラトット氏も来るのかぁ。
水戸黄門とかに一人はいるギャグメーカーのような人なら、嵌り役だろうけど、
彼は冗談の下手な変な堅物だからなぁ。
「どこの異世界でも、大抵はその世界の神がいるのでご注意を」
心配そうな顔のメフルアが注意をする。
これから行く世界の神は、最強の戦女神ドゥルガーらしい。
魔神ツヴァパアドなんか問題にならない位の。
ひょっとして戦乱の世界かな?
ニホバル王子はタリズマンを発動させた、
ブオオンと小さな音を立てて、目の前に円形の光り輝くポータルが開いた。
ポータルの向こうに景色が見える。
普通に牧歌的な風景で戦争しているようには見えないな。
それでも初めてのパラレルワールド界渡りだ。
皆は気を引き締めて旅に臨む準備をしている。
ニホバル王子達一行は光のポータルを潜って行った。




