58「冒険者」
ロダザックの街の冒険者ギルドで、討伐依頼票を見ている兄弟の冒険者がいる。
「兄貴、稼ぎの良さそうな依頼が無いな」
「ああ、少しでも稼げないと、今夜は宿に泊まれないぞ」
二人の冒険者の名はアグバムとリュック。
実を言うとアグバムとリュックと言うのは偽名で、
本名はバウソナとヘンモレドスがその正体だった。
多くいた配下の者達は、先の襲撃で全員失ってしまった。
必死に隠れていたバウソナとヘンモレドスは、炎の精霊から逃げ遂せた。
二人だけになってしまったからには、もう山賊家業は出来ない。
それでも生活費を稼がなければならないから、一介の冒険者になった。
「兄貴、サッシリナ公国にはダンジョンがあるって話を聞いた、ダンジョンなら稼げるらしいぞ」
「ダンジョンか、噂じゃ稼げると聞くが、危険度も高いと聞く」
バウソナにとってヘンモレドスは今では唯一の身内に等しい。
下手に危険に挑んで失いたくはなかった。
その思いは双方同じだろうと考えている。
「だけど、ダンジョン攻略者は、貴重なアイテムや魔石を持ち帰って、金持ちになってるらしい、俺はそう聞いてるぞ、兄貴」
「それは生きて帰れたらの話だ」
「兄貴は二人だけだから心配なんだよ、他の冒険者達とチームを組めば危険性も減るって」
「ならサッシリナ公国に行ってみるか」
「そうだよ、それでこそ兄貴だ」
そんな思いつきで二人はサッシリナ公国に旅立った。
サッシリナ公国は結構遠い。
徒歩の旅で二ヶ月以上かかるだろう。
その間、狩りをしながら行くのだから、尚更時間がかかる。
「馬車の一つでも買えればなぁ」
カツカツの生活の二人には簡単に買える物ではない。
山賊から足を洗った二人には、奪って逃げる考えは持っていない。
奪って逃げれば、当然追手が掛かり、戦いになるだろう。
それに生き延びても、噂は他の街に届く。
そうなれば、どこの街にも入れなくなる。
死活問題に直結してしまうから、そんなバカな事は出来ない。
「王宮にいた頃は、庶民の生活がこんなに大変だとは知らなかったぜ」
「そうだな。兄貴、俺達の力があれば何でも出来ると思っていた。どこでも生きていけると思っていた」
「人が一人に出来る事って小さかったんだな」
どんなに後悔しても、二人はもうザウィハーには戻れない。
戻れば、お尋ね者間違いないからだ。
サッシリナ公国に向かう二人は袋に持てるだけの食料と水、残り僅かな金を持って街道を歩く。
二人の財産は腰に差した剣と袋の中身だけ。
食料だって沢山持ち過ぎると、重くて余計な体力を消耗してしまう。
食料が無くなれば、狩をして獲物を食料にする。
狩りで捕れた獲物は、食料用とギルドで換金出来る物に分けて袋にしまっている。
ギルドで換金しても、宿に泊まれるかどうか程度の金にしかならない。
そんな生活の冒険者達だから、酔い越の金が残らない者ばかりである。
いわゆる、この世界の生活底辺者としては、底から二番目と言った所。
最底辺はスラム住まいの物乞いになるだろうか。
恐らく山賊の方が、冒険者より良い暮らしをしている位だ。
「なあ兄貴、精霊ってどうやって手に入れるんだ?」
二度も火の精霊に酷い目に遭っている二人。
人にとって精霊の力の恐ろしさを身を持って知っている。
敵にすれば恐ろしいが、味方になれば、これほど頼もしい者もいないだろう。
「さあな。俺にもそれは解らねぇ」
「風の噂じゃ五種類もの精霊を使役する奴がいるらしいな」
「何でも街々で音楽を披露しているとも聞くな」
「音楽と言えば、ニホバルの兄貴を思い出すぜ」
「よせ、あんな奴。俺達はあいつのせいで、こうなっているんだからな」
そんな話をしながら、やがて二人はサッシリナ公国に到着した。
さっそく冒険者ギルドの場所を聞き出し直行する。
換金所で獲物は銀貨2枚になった。
討伐依頼票を見に行くと、エントランスで冒険者募集の声がする。
ダンジョン攻略のために、メンバーを募集している様子。
報酬はダンジョン内で手に入る物品の山分け。
必要品を揃えるために、全員で資金を出し合うらしい。
現在のメンバーは、魔術師のネソトッド、剣士のレザーヴル、治療士のアササネの三名。
この三名だけでは、心許無さすぎるメンバーだ。
「兄貴、どうするよ?」
「止めとけ、メンバーがショボすぎらぁ」
二人のギルドレベルは3だから、人の事を笑う資格は無い。
しかしギルドレベルが低いのは、ギルド登録して間が無いからだ。
実力的には、二人とも王宮時代に、武芸も魔術も習っているから低くは無いはずだ。
山賊団の親玉でもあったのだから。
「おう、兄さん達、俺らのチームに力を貸してくれねえかい?」
剣士のレザーヴルが勧誘に来た。
「いや俺達は入るなら、もっと良いチームに入りたいな」
「何だと、この野郎! これでも俺達のギルドレベルは5だぞ」
「な? やっぱりショボいだろ」
レザーヴルはバウソナの胸倉を掴みにかかってきた。
バウソナは掴みかかる両手を回し受けで跳ね除け、レザーヴルの体を蹴り飛ばす。
「ぺっ、お前らじゃ役不足なんだよ」
フテブテしく言いながらバウソナ達はその場を立ち去った。
宿を探しに街中を歩いていると、人々の噂に音楽の話が飛び交っている。
「ここでも音楽か、胸糞悪い」
「兄貴、明日は街の外周で狩りでもするか?」
「ああ、そうしよう」
バウソナ達はこの街で一番安い宿に泊まる事にした。
冒険者が多いこの街の宿は、ダンジョンを攻略しに来た冒険者が、
長期間借りて定宿にする事が頻繁に行われている。
「兄さん達、何日泊まるね?一泊銀貨1枚で朝食が付くが」
手持ちの金では一泊しか出来ない。
「一泊で頼む。 金が出来たら延長を考える」
二人は宿の部屋へ案内されていった。
風通しが悪く、カビ臭い部屋だが、今は贅沢は言えない。
俺達の明日はどうなるんだろうなぁ。
枕を涙で濡らすヘンモレドスだった。




