53「ハディゼキヌ領」
ニホバル達一行はハディゼキヌ領にやって来た。
ハディゼキヌ領は、他の領地と赴きがかなり違っている。
海岸線を臨む臨海都市なのだけど、都市の背面には岩山がそびえている。
陸地部分が割合として少ない所に住民が暮らしているのだが、割と裕福な暮らしをしている。
満ち潮になると陸地の土地が減ったりするから、陸上に暮らす住民は少ない。
元は陸地の小さな漁村から発展したらしいのだけど、今では海上に多数の筏街が浮んでいる。
そう、ハディゼキヌ領は浮遊筏の街で、領主の館も浮遊筏に建っている。
産業は漁業が盛んであり、海産物が有名だ。
沖の小島に橋が架かっていて、観光名所にもなっている。
江ノ島みたいだな。
筏暮らしの住民の交通手段は橋や船が主流らしい。
街としている大きな筏には幾艘もヨット、カラベル船、ガレー船が停泊している。
海の文化だから、船の性能が皆高い。
海に浮んでいる都市だから、嵐に弱そうに思うけど、ここは嵐が来ない地域だとか。
筏の街から、筏の街へ移動する住民達に、グライダーが普及している。
始めて見る移動手段だ、海面からの上昇気流を住民達は上手く利用している様子。
うん、鳥人間コンテストを実用化しているのか。
ハディゼキヌ領を臨む丘から都市を眺めるニホバル王子達一行。
ハディゼキヌ領の領主からも公演オファーが来ていて、やって来た。
「以上がハディゼキヌ領の概要です」
ツェベリが説明をしている。
「ほー、これほどファンタジックな街を初めて見た」
ニホバル王子達は思わず感心した。
狭い土地しか無かったハディゼキヌ領を、ここまで発展させた
領主チャターサントは、かなりのやり手だろうな。
今夜は領主の館で休憩して、翌日から公演準備に掛かれそうだな。
ニホバル王子がそういう思案を廻らせていると、来た道の向こうから
馬車の一行がやって来るのが見える。
ずいぶん急いでいる様子。誰だろ?
「兄上様~、兄上様~」
ルリア姫が馬車から身を乗り出して叫んでいる。
アビスナ王太后一行の馬車だ。
急ぎに急いでニホバル一行を追いかけて来た様子。
「やっとニホバルに追い付けましたね」アビスナ王太后が一息ついている。
次々と外交成果を上げながら進む、ニホバル王子のスピードが速過ぎたからだ。
アビスナ王太后が母子揃って旅が出来るのは、最終盤になってからだった。
「兄上様、早すぎですー」
ルリア姫はふくれ気味に話す。
「ニホバル、バホンギード国王から何やら手紙を預かっていますよ」
バホンギード国王から手紙!
そうか、やっと診断書が出来たんだ。
手紙を拡げて読んでみると、何やら解らない数値が並んでいる。
最終結果の文章を読むと、魔法の習得に上限が掛かっている様子。
いわゆるプロテクトの類という結論だった。
そのプロテクトは、身体的なものでも精神的なものでも無いらしい。
何処からの、誰からの、何の理由のプロテクトなのかは不明と記されている。
……こういう訳がわからんのは、大抵は神のせいにしておけば正解かな。
いま、そんな事で悩んでいても事は進まない。
皆もそろったから、ハディゼキヌ領に向かおうじゃないか。
アビスナ王太后一行と合流したニホバル王子達一行は、
ハディゼキヌ領チャターサント領主との会合に向かう事になった。
「兄上様ー、館がユラユラします~」
筏の上に建っているから、波に逆らう事が無い様子。
建物の中にいるにも関わらず、一行は精霊達を除いて全員船酔い気味になっている。
……こりゃぁコンサートは陸上じゃないと難しそうだな。
領主のチャターサントの公演オファーの目的は、魔族の国ハユバムとの同盟契約だった。
今回はアビスナ王太后が一緒にいるから話が早い。
ハディゼキヌ領は海の上に浮ぶ国だ、戦力は当然海軍専門になる。
戦争が興って敵が攻めて来ても、街は沖合いに避難する事が出来る。
その代わり陸戦の能力が低い、それを補うのに近隣国と同盟を結ぶ事で解決している様子。
ハユバムもその同盟国として一枚かむ事になる。
チャターサント領主は見るからに、筋骨隆々で日に焼けた海の男だった。
性格は豪快そうだな。白い歯を見せて良く笑う男だ。
「ハユバム王族の方、良く御出でくださった、
同盟契約成立の祝いの祝典でコンサートをお願いしたいと思うのだが、如何か?」
公演は同盟成立を祝う祭りとして行われる運びになった。
……うう…出来れば陸上のステージを確保したい。
晩餐会は想像した通り魚介類の料理が多い。
ここでは煮込まれた魚料理ばっかりだ。
俺としては、せっかく新鮮な魚があるんだから刺身が食べたい。
そんな要求は日本以外じゃ無理な話なんだけどね。
せめて焼いた魚とか、鮎の塩焼きなんて美味いんだぞ。
あー、海じゃ鮎は無理か、あれは川魚だから。
翌日、俺達はチャターサント領主と相談しながらステージの設営だ。
陸地部分は半分くらいしか使われていない。
海の側は満ち潮になると水没してしまうからだそうだ。
それなりにも陸地の有る部分は、人が住んでいる家が建っている。
だからステージを設営出来る場所はかなり限られてくる。
岩山を背に、海を向いた方面にステージを設営した。
土精霊ノームのラゴに、水中の地面を隆起させて観客席を造ってもらう事にした。
体育館にして三面分くらいになった、見る場所によっては水上ステージに見えるかも。
観客席は石段を造り、そこに座ってもらう予定、防波堤にもなるだろう。
「おおー、ニホバル殿の所には土の精霊様がおられるのか…」
驚くチャターサント領主。
実際精霊なんて見るのは初めてだから。
「うぬぬぬ」唸るナサラトット氏
いるのは土精霊だけじゃないんだよね、五大精霊コンプリートしてるんで。
観客席の外、海から屹立する赤く塗った鳥居も建てておいた。
これははっきり言って特に意味は無い。
意味は無いけど、何かありそうな雰囲気を醸し出していて、観光名所になるかもね。
理由とか由緒なんて、後ででっち上げれば良いか。
ステージ設営中に見に来ていた地元の人達は、海の方に出来た観客席に驚いている。
ラゴにに任せれば何の事も無い仕事だったりする。
今回は公演最終日になる、母上様やルリアもいるから、
最後だから出し惜しみ無し、全力の夜間コンサートで仕上げてやるか。




