50「魔道研究所」
翌日から公演会会場の設営が始まった。
ジロクアント王国は魔道王国を標榜する位、魔術の研究が盛んである。
国内の風景は恐らく、つくば市に似てるのかも知れない。
ニホバルは行った事が無いけど。
魔道研究所所長のナサラトットと、国王に変わりニホバルに付き添うムーグロス大臣が、国内を案内する。
ジロクアント王国は建物が密集してはいない。
草木も適度に整備された緑溢れる牧歌的な風景が広がる。
王城から遠くない場所に窪地があった。
「ニホバル王子殿、この窪地はコンサート会場に如何でしょう?」
窪地の中にステージを設営すれば、周りの斜面を観客席に出来るな。
配置的には悪くない格好だ。音も広がりそうだし。
「ムーグロス大臣、良いですねぇ、この場所は。良い舞台に出来そうだ」
「気に入って頂けたようで何よりで御座います」
ツェベリに後の作業を指示を担当者に伝えてもらう。
護衛のツェベリは、俺から離れる事は決して無い。
担当者に作業の指示を伝えると、即座に護衛に戻って来る。
「ニホバル王子殿には、次に魔道研究所の視察をして頂く予定です」
……うーん、ナサラトット氏は俺に執心だな。
単なる買いかぶりだと思うけど。
「ニホバル王子殿は初級六種の魔法しか扱えないと聞き及びましたが?」
ナサラトット氏が話題を振ってくる。
「初級六種の魔法しか扱えないというのは、何かプロテクトが掛かっているのでは?」
それが心理的なものなのか、物理的な事なのか、調べてみないと判らないらしい。
ひょっとして本格的に調べてもらえば、限界突破出来るのかな。
俺は戦う事を避けているから、困ってはいないんだけど、
『限界突破出来る』というワードには魅力を感じるな。
そんな理由で魔道研究所の査察を快諾した。
魔道研究所は緑に囲まれた小さな建物だった。
しかし、実体は地下8階の大きな建物だとか。
要するに地上には、建物の一部が見えているだけらしい。
……ひょっとして爆発事故の対策とか情報漏洩防止になってるのかな。
魔道研究所の中で、心電図らしきものや、CTスキャンのような機械、
MRIのような機械で精密検査をされた。
これで身体的な要因があれば判るのか。
さすがに本日中には結果は出ないらしい。
次にはメンタル検査。
女医らしき人物から、絵を見せられた。
「これは何に見えますか?」
最初からロールシャッハテストかい!
汚れを拭取った布巾を広げたようなもの見せられて、何に見えると聞かれてもなぁ。
他の人は何かに見えるんだろうか?
ハナかんだティッシュを拡げて、何か良い物が見えるなら、その人は幸せだろうな。
頭にも心電図らしき機械に繋がれてみた。
脳波を測るのかな。
これも結果は後日に出るらしい。
それからしばらくは魔道研究所の中の視察になった。
魔法陣の研究を行っている部署があったり、
詠唱する呪文を研究する部署があったり、
魔法の基礎研究を行っている部署があったり、
魔石や薬品の研究を行っている部署があったり、
召還魔法を研究している部署があったり、
防御壁魔法を研究している部署があったり。
錬金術を研究している部署があったり、
怪しげではあるけど、正に研究所だった。
ジロクアント王国とハユバムが同盟を結べれば、
研究成果や文化を融通し合えると力説された。
バホンギード国王がその気なら、母上様とすぐにでも調印出来るだろう。
「ニホバル王子殿、これは魔道研究所からのお土産で御座います」
ナサラトット氏が封魔石をプレゼントしてくれた。
赤い封魔石。
彼が言うには、火の精霊が封印されていると言う。
……精霊って封印されるものなの?
少なくともうちらの精霊は誰も封印はされていないし、皆自由にしている。
封印なんてやり方で精霊を使役する?
聞いてみると、魔法陣で召還したスピリットやエレメントに、
神の権威を以って契約を結ぶらしい。
契約を結んだ精霊は術者の命令を聞き、使役に使えるのだとか。
その方法が良いのか、悪いのかは此処では問うまい。
自分の場合、精霊たちは自らの意思で協力をしてくれている。
仕事の指示を出す事はあるけど、それを使役と同一視して良いものかどうか。
一度持って帰って、精霊たちと相談してみようか。
設営会場の片隅で、ランウネル達を集めて聞いてみた。
皆難しい顔をしている。
どうやら、快く思ってはいない様子。
ランウネル達は自らの意思で俺に仕えてくれている。
強制されてここに来た精霊は一人もいない。
取敢えず火の精霊を開放してみた。
火の精霊サラマンダー名前は『ウラークル』
生きている人型の炎といった姿をしている精霊だ。
炎そのものだから、後ろの景色は透けて見える。
精霊たちに囲まれているウラークルはキョロキョロしている。
「なぜオレは精霊たちに囲まれているんで? オレは何をすれば良いのだ?」
何をしてもらおうとは考えていなかった。
コンサートに火の精霊にしてもらう仕事が思いつかないのもあった。
火の精霊は開放して、好きな所へ行ってもらえば良いかな。
ウラークルは他の精霊たちから話を聞いている。
「そうなのか、皆はニホバル殿が好きで集まっていると……」
「そうだよ、あたし達はこの仕事に誇りだって持ってるんだから」
レケシウネが胸を張って誇らしそうに言う。
「破壊する力しか持っていない、オレにも仕事はあるだろうか?」
んん? 火の精霊ウラークルも仲間に入りたいのかな。
彼にはどんな仕事をしてもらおう。
何かアイデアが出るまで、彼にはカンテラの中で休んでいてもらおうかな。
但し、命令とか使役と言うのは好きになれない。
火の精霊がオレに愛想を尽かしたなら、何処へ行くのも自由にする事を約束した。
「そんな事を言う召還主は初めてだ」
これで五種の精霊がコンプリートかぁ。




