49「ジロクアント王国」
アビスナ王太后はアサスウイアへ向かっていた。
馬車の中には、王太后付きの戦闘侍女パケイルアと
ルリア姫とキスナエレアが同乗している。
「どうした事でしょう、次から次へと国交や交流の調印に駆り出される始末」
ヴァルキュリアの国アサスウイアの女王ウィラクバリラから、
同盟を結びたいという伝言をルリア姫が運んで来た。
エルフの国ファナードから、交流を申し込みたいと伝令が届く。
人族のアヴォロス王国のヴァンディート国王から、同盟を結びたいという伝令が届く。
「これでは国を空にしてしまいます」
魔族の国ハユバムの内政面でが、大きな事が起こっていないから、
病床のロンオロス王と重臣たちで事は足りている。
それでも他国との交流、調印が絡むとなれば、アビスナ王太后が動かなければならなくなる。
「母上様が、これだけ忙しいのは、兄上様がスゴイんです」
ルリアが得意そうに自慢する。
親善大使ニホバル王子は、この後更に三ヶ国を訪問する予定がある。
そちらにも出掛けなければならなくなる可能性は大きい。
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ニホバル王子達一行は、ジロクアント王国へ到着した。
この国は人族の国々の中で一際異彩を放っている。
ここでは、魔道の研究が盛んで、魔法工学専門機関がいくつかある。
魔術師、魔道士たちの割合が多い、そういう理由で魔道王国と知られている。
ニホバル王子の公演をオファーしたのは、ジロクアント王国バホンギード国王からだ。
音楽の噂はこの国にも届いているし、興味のある住民たちも多いんだろうな。
王城で晩餐会を催され、団員も全員招待される。
そして国王直々の挨拶が始まる。
「ようこそ、御出で下さった。ニホバル王子殿。噂に聞くところ、王子は音響魔術の使い手だとか」
「え?音響魔術? ただの歌と踊りと音楽の一団のはずだけど」
……そして親善大使使節一行のはず。
俺は魔術も剣術もたいした力は無い。
一体どこから音響魔術の使い手なんて思われる?
「音響魔術の使い手にして、魔獣や精霊を使役されていると、わが国の魔道研究所所長が分析しましてな」
……魔獣なんて使役していないし、精霊達だって本人の希望で協力してもらっているだけだし。
「わが国の魔道士でも、精霊を使役させる者はあまり居りませぬ」
……はあ、そうなんですか。
「ニホバル王子殿、貴殿の一行には複数の精霊がいるではありませんか」
……レケシウネのお陰で増えたんだよね。
でも使役してるって事になるのかな、給料も出してるし。
「わが国の魔道士でも、一度に扱える精霊は精々一柱だけなのですぞ」
……はあ、そうですか。
「複数の精霊を扱えるニホバル王子殿は、只者ではないと判断出来ますのじゃ」
……転生者ではあるけど、自分じゃ只者だと思っていたけど。
「魔道研究所所長のナサラトットが、是非お会いして力の秘密をお聞かせして欲しいと願われましてな」
……なんだか面倒臭そうな人だね。
バホンギード国王が合図をすると、一人の男が現れた。
その男が魔道研究所所長のナサラトットだった。
結構神経質そうな顔をしているな。
付き合うとしたら、わりと難しそうな人じゃないかな。
「初めましてニホバル王子殿。私は魔道研究所所長のナサラトットと申します」
……声に抑揚が少なくて怖そうな人だな。
まさかマッドサイエンティストじゃ無いだろうね?
「既存には無かった魔術、音響魔術の使い手のニホバル王子殿なら、彼と気も合いましょう」
……ホントに?俺、引き気味なんだけど。
それに音響魔術なんて知らないから、本当に。
どちらかと言えば、俺って小市民なんだって、親善大使の王子だけど。
買い食いする時だって、財布の小銭を気にするくらいに。
「それにしても驚くばかりでありますな。この晩餐会の席に光の精霊が3柱、風と水と土の精霊がそれぞれ1柱いる、良く見れば妖精まで多数いるじゃありませんか」
……ああ、皆うちの団員なんだけど。
「さらに王子自身が音響魔術の使い手であられる」
……さっきから何? その音響魔術って?
ナサラトット氏は語る。
魔法を使うには、基本となるマナというエネルギーを呪文詠唱によって制御します。
その技術体系を魔術と言うのだが、呪文詠唱は単なる言葉の羅列ではないのであります。
言葉と言う音の波動が大いに環境に影響を与える事になるのです。
魔法陣の図形も形状によるマナの制御であり、最終的に呪文という音の波動で制御します。
つまり、キーワードになる音の波動による魔術の究極形態が音響魔術と捉えられているのです。
……そんな難しいこと言われても、専門家じゃない俺にはチンプンカンプンなんだけど。
魔道研究所所長のナサラトット氏は、俺の魔術体系を知りたいらしい。
……うん、やっぱり面倒臭い人だった。
「ニホバル王子殿、今夜は是非魔道研究所に御出で頂けませんか? 研究成果をご覧に入れたく存じます」
……今日は疲れたから休みたいんだよね。
「ナサラトット様、ニホバル様はお疲れの様子。明後日ではいけませんか?」
鋭い目つきでツェベリのフォローが入る。
「おお、これは失礼を致しました。ニホバル王子殿の前につい熱が上がっておりました」
……ナイスフォローだツェベリ。
でも解らないものに付き合うのは面倒臭いなぁ。
さっさと公演して次の国に行きたいんだけど。
スケジュールも押してるし。
この後は公演のプログラムを考えて、団員達とミーティングもあるし。
王子だからって楽じゃないんだよ。
「バホンギード国王様、やはりニホバル王子殿は只者じゃないと判断します」
「うむぅ。そうじゃろうなぁ、イラマデニア王国が消滅したのは、ニホバル王子殿が関係しているらしい」
「なんと、一国を消滅させるほどの力が……」
「ニホバル王子殿と懇意になり、魔族の国ハユバムと同盟を結べば、国が栄えるとも噂されておる」
「私もニホバル王子殿と、個人的にも懇意になりたいものであります」
「ニホバル王子殿はお忙しい様子。 我が国も力になれれば良いのだが」
「バホンギード国王様、我が国もニホバル王子殿と懇意になりましょう。是非にでも」
「私の鑑定では一団の中には、人化したドラゴンも多数いる様子」
「オーガもアマゾネスであろう者達もおったのう」
「そうですね、あの一団を見れば、噂は間違っているとは思えませぬ」
バホンギード国王とナサラトットは国の方針を決めるのだった。
国王の下には、いくつかの国が、魔族の国ハユバムと同盟を結んだと言う報告も届いている。
一国の長として判断を長引かせたり、時流に乗り遅れる事は避けたいものだ。
「魔族の国ハユバムと同盟契約を結ぶか……」
会場設営まで多少時間は掛かるだろう。
その間にニホバル王子を魔道研究所に招きたいとナサラトットは切望した。
「うむ。ニホバル王子殿に伝えておこう」
バホンギード国王は目を瞑り考え込むように頷いた。




