31「アビスナ王太后」
ロンオロス王は剣で斬られ重体になり、起き上がる事が出来なくなった。
万が一不測の事態に備え、次代政権の措置をパソアード大臣に伝えた。
王が復帰するまで、王の政務を第一王妃アビスナを王太后とする。
もしロンオロス亡き後は、第三王姫ルリアを王に戴冠させ、第一王子ニホバルを宰相に任命する。
政権移譲の後は、王太后アビスナはルリア姫達が成人するまで輔弼となる。
襲撃者のバウソナ王子とヘンモレドス王子の母、第二王妃ネセアと第三王妃シャルナは妃位剥奪の上、下層平民として市井に追放。
第四王姫タリエルは自室軟禁。いずれ政略結婚で他国へ嫁がせる事に決定。
それがロンオロス王が決めた、自分亡き後の国の体制として遺言として記したのだった。
◇
「母上様、父上様がかわいそう」
アビスナ王妃にとっても、バウソナ王子とヘンモレドス王子の襲撃事件は寝耳に水だった。
至急の回復魔法により傷は致命傷にならずに済んだが、今は体を動かす事が出来ない状態にある。
第一王妃アビスナは王太后に昇格し、政務代行者として一任された。
身の回りから、二人の王子と第二王妃ネセアと第三王妃シャルナがいなくなり、喪失感が増している。
「母上様、ルリアはまた兄上様の所へ行ってきます」
「そうですね、賑やかなあの館なら気も紛れるでしょう」
やるせない気持ちも、賑やか過ぎるニホバル王子の所へ行けば、多少でも紛れるだろうとルリア姫に許可をした。
アビスナも後で寄るつもりでいる。
「アビスナ王太后様」
神祇官のトヤルナがアビスナ王太后を呼び止める。
「アビスナ王太后様、大変な異変が起きております」
大変な異変、それは魔族の神がいなくなった様子と報告を受けた。
人族でも、獣人族でも、魔族でも、大概種族を加護する神はいる。
神の加護の元に、種族の繁栄は行われている。
魔族を加護する神がいなくなるのは大問題だ。
神祇官のトヤルナが神から、直接神託を受けるほどの能力は無い。
それでも未来の吉兆を、神器で伺う事くらいは出来る。
しかし神不在の今は、神器に何の反応も無い。
初めての事態に狼狽する神祇官のトヤルナ。
神気の立ち昇っていた神器から、神気は抜け去り単なる器物になっている。
神気により光を帯びていた神器は、くすんだ色の置物に過ぎない。
「解りました。これから重臣会議をします。 トヤルナ、その場でもう一度報告をして下さい」
本当はどんな会議をしても、神の問題は臣民の誰の手にも負えるものではない事は解っている。
会議で決められるのは、神不在の時期を、魔族は如何にして安定をするかの方策だけだろう。
魔族の繁栄と安寧は失われるのだろうか、それとも衰退を防ぐ事が出来るだろうか。
また一つ起きた問題にアビスナ王太后は心労が増す思いだった。
「兄上様、子猫たちがいないのですが……」
「ああ、あの娘達はやっと地方巡業に出られるようになってねぇ」
ネコ娘達の歌は地方巡業でも結構評判が良い。
評判が良すぎる位だから、商人達もキャラクターグッズを売り始めるようになった。
ニホバル王子の手元にも、その商品見本が届いている。
「ああー、これも可愛いですー」
ルリア姫は目敏くネコ娘のぬいぐるみを見つける。
「ルリアはこれを父上様のお見舞いに持って行きたいです」
「お見舞いか、俺も行かなくちゃいけないな」
ルリア姫の言葉にニホバル王子自身が、まだ見舞いに行っていない事に気が付いた。
「そうか、そうだな。ルリア、俺も一緒に見舞いに行く事にするよ」
「ほんとう? 嬉しいですー」
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「兄上様、私は悔しいです。何でこんな事に…」
バウソナ一行は魔族領の端にある山を越え、追手が掛からない所へ逃避行中だった。
「ヘンモレドス、辛いだろうが、今は耐え忍ぶんだ。どこかで雌伏して機会を見つけよう」
無念に打ち震える二人を従者達が辛そうに見る。
剣士マクガナ・ユノギッド、魔術師ヘルデーヴァ・ハルワックと彼等の従者達がこの一行の全てだった。
王子二人による王暗殺未遂、当然追手は掛かるだろう。
追っ手に捕まる前に魔族領から、脱出しなければ全員の命に関わるに違いない。
そう思うと逃避行の足を止める事は出来ない。
バウソナに与えられている〔魔神の加護〕で逃避行は順調なのだが、
誰も気付けるほど気持ちに余裕は無かった。
徒歩で道なき道を進んでの山越えは、王族関係者達には余計に楽ではなかった。
魔獣に襲われる事もあるから、更に気が抜けない。
一行は心身ともに疲労して行く。




