21「バウソナ」
「兄上はなぁ~、あ、兄上はなぁ~、何かがおかしい。おかしいんだ。どこか異常なんだ」
ニホバルとの模擬戦連敗以降、バウソナは面目を失い、王位継承権第一位の座を降ろされている。
そうなると、王妃達のカーストも変わってくる。
そのためバウソナの母、第二王妃ネセアから厳しい叱責を受けた。
ニホバルが辞退したために、王位継承権第一位は現在空席になっている。
辞退したからとは言え、簡単にバウソナが継承権第一位に返り咲く事は無い。
バウソナにとって一番美味しい果実は、バウソナの手から奪われ、
手に入れられない所に常時、目の前にぶら下げられた様なものだった。
得たくても得られない、欲しくても自分の物にならない思いは、苦痛を齎し、掻き毟る。
自尊心は傷付けられ、名誉挽回(汚名返上)のチャンスも無い。
バウソナから王位継承権を奪った張本人はニホバルである。
自分から挑んで負けたのであっても、心情的にはそうなってしまう。
無能と軽蔑していたニホバルより、下に置かれた苦痛にのたうつ毎日。
日毎にドロドロした暗い憎しみは増大し、怨嗟の言葉を吐き続けるようになった。
「兄上さえ、兄上さえいなければ……」
その姿を見る家庭教師達も、バウソナの事を大事には扱わなくなった。
誰の本音も兄弟による骨肉相食む争いを望んではいない。
そうなると必然的に、彼は孤立無援に陥る。
利権争いがあると、如何に兄弟であっても、手に手を取り合うのは難しくなる。
城の関係者達は、そうではない関係も望むのだが。
もはや望むべくも無い。
私はどうすれば王位継承権第一位に返り咲けるのか?
少なくとも最大の障害である兄上を排除せねばなるまいよ。
まずは復讐を成功させねば。
そんなバウソナの想いに応える者もいる。
神界より、武勇を轟かす勇猛な魔族を加護する魔族の神ツヴァパード。
魔族たちの上に君臨する戦好きで、黒く強靭な力を持つ残忍な性格の神。
魔族の神は、最近魔族がおかしな事になり始め、困惑していた。
魔神の力となる影響力が段々と下がり始め、加護する力が弱体化している。
原因が第一王子にあるならば、第一王子に復讐を誓う第二王子バウソナの後ろ盾になる事も吝かではない。
魔族の神ツヴァパードから見ても、第一王子の存在は奇異な存在だ。
何かしらの神の域にある者の助力無しで、これほどの事を成し遂げられるだろうか?
むしろ神が後ろ盾をしていると考える方が筋は通りそうだ。
しかし、その神が誰なのか一向に片鱗が見えて来ない。
取りも直さず、魔族の国を正常化しなければならない。
そのために第二王子バウソナに加護を与える事にした。
「聞くが良いバウソナ。力が欲しいか?」
「誰だ、俺に話しかけるのは、力は欲しい、兄上を退けなければ俺の立場が」
「我ツヴァパードがお前に力を与えようじゃないか」
バウソナは辺りを見渡すが、ツヴァパードなる者の姿は見えない。
何者が私に力を与えてくれると言うのだろうか?
そう思っていると、再び心の中に、頭の中に声が響く。
「我は魔神ツヴァパード。お前達魔族の神なるぞ」
魔神ツヴァパード、聞いた事がある。
父王ロンオロスより、幼少の頃から聞かされて来た神の名前。
強力な魔族を加護し、勇猛なる魔族の栄達を望む神。
その神の名が魔神ツヴァパード。
一端戦を切り結べば、敵の血肉の最後の一滴まで供物に欲する残虐な魔の神だ。
バウソナは自身の内に力が漲って来るのを感じた。
負の思いが強ければ、強いほど内面の流れ込む力が増大する。
闘争本能が強ければ、強いほど内面の流れ込む力が増大する。
「クククク。 素晴らしい、素晴らしいぞ。力こそ全て、これこそが魔族の本来の姿じゃなかったか? 私が魔族を本来の最強の種族にという姿に戻せるのだ」
バウソナの目には妖しい光が宿る。
私から王位継承権や立場を奪ったニホバル兄様を越える力と加護が神から私に宿った。
いつまでもニホバル兄様に良い思いをさせてなるものか。
兄様が何者からあんな力を得たか知らないが、魔神の後押しを得られた今は、何者にも負ける気がしない。
そうだ、父ロンオロス王にだってな。
所詮ニホバル兄様は無能な負け犬なのだ。
奴に思い知らさずに置けるものか。
見ていろ、私の前に敗北し、哀れな様を晒すのだニホバル。
だが、まだだ。まだまだ私は力が欲しい。
もっと、もっとだ。 もっと力を蓄えるのだ。




