17「練習場」
王妃アビスナは王姫ルリアを連れ、王都内の別邸を訪れた。
別邸は貴族区の一画にある綺麗な大きな屋敷だった。
元々、この別邸は王妃アビスナの持ち物であるが、
日頃の居住を城で過ごすために、あまり使われていなかった。
この別邸を今は王子ニホバルが練習場として借りて使っている。
未成年である王子・王姫達には別邸が与えられていないから、
母王妃に頼んで使わせてもらっている格好だ。
アビスナ妃とルリア姫は別邸の玄関を潜った時に驚いた。
以前、あまり使われていなかった別邸は閑散としていたが、
今は多くの人達・種族たちが所狭しとひしめき合い、忙しそうに動き回っている。
あちこちで様々な楽器が音を立て、歌声が響き、騒がしい。
「母上様、騒音が凄いです」
「この有様は何なのでしょう?」
驚く二人の下へ二人の到来を聞きつけたツェベリがやって来た。
「ようこそ、お出で下さいました。王妃様、王姫様」
ニホバル王子は楽団の指導で、今は手を離せない状態らしい。
この屋敷の各部屋には、目新しい楽器などが、所狭しと置かれていて、
ルリア姫の興味は尽きない、部屋をきょろきょろと見渡している。
二人は接客用の部屋へ案内され、ニホバル王子を待つ事にした。
「母上様、なんだかすごい」
「ええ、とんでもなく凄い事になっていますね」
ニホバル王子を待つ間、とてもじゃないが二人は優雅にお茶を…
という気分にはなれなかった。
貴族別邸の一室というより、現場の雰囲気だったから。
しばらくしてニホバル王子が現れた。
侍女からの通達は届いていたが、現場での陣頭指揮が忙し過ぎたために、
即時の対応が出来なかったのだ。
「母上様、ルリア、いらっしゃい。多忙の最中で申し訳ありませんでした」
先日王達と謁見室で聞いた音楽は、こういう現場で作られたのだとアビスナ妃は理解した。
「いえ、良いのですよニホバル。私はあなたの頑張りを見に来たのですから。ルリアも会いたがっておりましたし」
妹姫との再会は、ルリア姫が赤ん坊の時以来だった。
成長したルリア姫を見るのは、今回が初めてになる。
「母上様、兄上様は思っていたように誇らしいお方です」
ルリア姫の目には、忙しくも自分の道に猛進するニホバル王子の姿は輝いて見えた。
暇を持て余す貴族の舎弟達の姿とは、まるで違うニホバル王子の姿にルリア姫の目は潤む。
暫しの談笑の後、館内での様々なプロジェクトを説明して回る事になった。
最初は
オーガ達の和太鼓の練習風景。
和太鼓の響きに体全体が振動し、気持ちが湧き立つのを感じる二人。
この世界に無いリズムに語るべき感想を言葉に出来なかった。
次は
魔族吟遊詩人三名のリュートに、オーガのドラムが加わったユニット。
早いリズムにドラムのテンポが加速を付ける。
リュートだけでは物足りなかった所に、ドラムが加わり音楽に深みが増している。
一つ残念なのは、女性の吟遊詩人がいない事。
これもいずれ育成の予定だと言う。
更に
ハーフリンク達の合唱団。
最近はアカペラも導入し、歌に複雑さと深みを増しているという。
そして
数々の楽器を使用するオーケストラ。
こちらは種族不指定で、様々な種族が一同に各々楽器を担当をしている。
最近一番力を入れている部署であり、いくつかの行進曲を練習している。
最後に養成所主任リャナンシーのルノア
まだまだ歌唱ユニットを増やして行く予定だとニホバルは熱く語る。
「兄上様、すてき……」
ルリア姫は様々の音楽で、心身ともに高揚している様子。
アビスナ妃も例外ではなかったが、大人なので一応の落ち着きを見せている。
「母上様、ルリアは兄上様の所に自由に来たいと存じます」
少々危険信号フラッグの立つルリアであった。
「そうですね。父上様に相談をしてみましょうね」
それ以来、ルリア姫はニホバル王子の所に入り浸りになるのだった。
更にアビスナ妃もロンオロス王も私用を理由にチョクチョクやって来るようになった。




