158「送別会」
ルリアとタリエルのプロジェクトは全て終了した。
遺伝子異常抑制剤、劣性遺伝子の修正剤のデータは会社に寄贈し、
作られた薬品のいくつかを、ルリア達は購入しアパートに届けている。
何せ二人で使う7年分の薬だから、結構量が多い。
「こちらの世界も、そろそろ頃合かぁ」
青緑色の勾玉に帰還の意を伝えるルリア。
帰還の前にノーチャの所で、修行しているキスナエレアを呼び寄せて皆で帰らなければ。
しかしキスナエレアが揃ったからと言っても、
そのまますぐにポータルを潜る訳にはいかない。
会社で送別会を予定されているから。
送別会の会場もメンバーも、歓迎会と同じだ。
送別会には、チズシアとキスナエレアの慰労も兼ねて、
彼女達の参加をお願いしてある。
会社の面々は、新たな外人さんが二人参加するという事で快く了解してくれた。
「ルリア様、お久しぶりです」
キスナエレアが帰って来た。
あれからずっと仙人の修行をしていたから、
多分ピルアーナのような事が出来るようになっているかもしれない。
「いえ、私など、まだまだでして……」
謙遜なのかどうか判らないけど。
とにかく今回は皆頑張った、元の世界に成果を持って帰る事が出来る。
この世界での打ち上げに皆で、送別会の会場に向かう事にした。
「キスナエレアは、ここ初めてだから知らないでしょうけど、どの料理の美味しいんですよ」
チズシアは嬉しそうに語る。
前回は美味しさの虜になったルリアが、食べ専門に回って会費が嵩んだ前科があった。
今回、危険性の高いチズシアとキスナエレアが参加している。
二人とも元軍人だから酒は呑めるには呑める、侍女の矜持を外さなければ。
この世界は戦闘侍女が必要になるような世界ではないし、
ルリアもタリエルも、チズシアとキスナエレアの労をねぎらうつもりだからと酒を奨める。
会社の人達も次々彼女達に、ビールや酒を注ぎに回って来る。
不覚にも雰囲気に呑まれたチズシアとキスナエレアは、呑み過ぎてしまうのだった。
「ふー、こんなに呑んだのは軍隊の頃以来ですねー」
「あの時も皆で、こうやって呑んだ事を思い出します」
……え! この人達軍隊にいたって。
酒を奨める会社の人達は引き気味になる。
「キスナエレア、呑み過ぎに気をつけましょう、私達は戦闘侍女なのだから」
「ああ、私とした事が、いかんいかん、グダグダになったら姫様方の恥になる」
聞き慣れない言葉に一同は「ん?」と引っ掛かる。
「チズシア、キスナエレア、料理も美味しいんだから、どう?」
雰囲気を変えようとルリアが料理の話に持って行こうとする。
「あのー、ルリアさん、チズシアさんもキスナエレアさんも、貴女より年上なんだから、呼び捨ては良くないかと」
「そこの方、ルリア様もタリエル様も、従者である私共に敬称で呼んではならぬのです」
年上の二人に様付けで呼ばれるルリアとタリエル、
改めて何者なんだと、気付かれ始めてしまった。
戦闘侍女? 姫様? もしかして、皆オタク趣味の人達なのかも。
例のサークル関係者の三人がいそいそと近寄ってくる。
どうせ最後なら、知られても明日は国だからいっか。
多少酔っているルリアは、面倒臭くなって深く考えるのを止めた。
「ルリア様、ルリア様、私は修行の末、こういう事が出来るようになったのです」
キスナエレアはルリアに、修行の成果を見てもらいたくて話し掛けてくる。
見れば、手の上に木製のジョッキを創りだして自慢する。
会社の人達は、物が物だけに手品だと思った。
「キスナエレアさんは手品の修行に行ってたんですかぁ」
「違ぁう、仙人の修行、これは私が無から創り出したのだー」
「あー、はいはいキスナエレアは凄いです、酔いが醒めたら改めて見せてね」
「はいっ、姫様」
つい呑み過ぎたチズシアとキスナエレアは、上機嫌で声もでかくなる。
「ちょっと、そこの人達、五月蝿いんですけど」
他所の客から文句も来る。
「ああ? 我等に何か用か」
「戦いを挑むなら、我等も引く事は無い」
文句を言ってきた客は、男6人の体格が良い連中だ。
スポーツ系クラブの集まりだったのかも知れない。
「文句は山ほどある、あんた等五月蝿いんだよ」
「店の中じゃ迷惑がかかる、表に出ろ!」
「よし、相手をしてやろう」
「姫様、これから奴等を懲らしめて参ります」
チズシアとキスナエレアは、六人の男達と表に出て行った。
彼女達が帰って来たのは三分位だろうか、服の乱れは一切無い。
表に出た途端、チズシアとキスナエレアは振り向き様に本気のパンチを繰り出した。
戦闘侍女による手加減無し、本気のパンチに男達は抗う隙が無い。
良い体格の割りに、意外な展開に一撃で意識を刈り取られる。
軍隊で訓練を受けているチズシアとキスナエレアのコンビネーションも絶妙だった。
相手の男達は全員叩きのめされ、拘束され店の横の路地に気を失って押し込まれている。
伸びているから、関節技の追い討ちから逃れられたのは幸いだった。
本来は敵を捕縛し、逃げられないように処置を済ます事になっている。
会社の人達は、軍隊上がりの戦闘侍女の実力を垣間見た。
「つ、強いんですね、チズシアさんもキスナエレアさんも」
戦闘侍女隊はアマゾネス達に引けを取らない実力がある。
SPとしても、本来は命のやり取りを常にしているから、大抵の者は相手にならない。
軍隊上がりの戦闘侍女という言葉も信じられる気になった皆だった。
但し、会社の人達はこの店に、暴力事件を起したと二度と来れなくなったけど。




