137「黒魔術の男」
唐突だが、この世界には魔術を使う者は多数いる。
攻撃用の魔術、治療用の魔術、身体強化の魔術、結界魔術など多岐に渡る。
どの魔術にも、ほぼ共通して言えるのは、自分の体内にマナという魔素を取り込み、運用する技術だという事。
強力な魔術師は、いに多くのマナを取り込み、効率的に運用できるかの優劣で測る事が出来る。
実際には、人一人に出来る事というのは、それほど多くは無い。
それは人であるが故の限界値はタカが知れるという事でもある。
例えるなら、人は誰でも食事を出来るが、大食いチャンピオンのように何kgも食えるかと言えば、出来る人は多くは無い。
数kgの食事が出来るように、大量のマナを取り込める人が、多くないと言うのが現実だ。
では、限られたマナ以上の成果を出す事は出来ないか?
という追求で編み出されたのが召還魔術というものだ。
自然界に偏在するスピリットやエレメントの力を借りる、
若しくは使役出来れば、人の持てるマナ以上の力を行使出来る事になる。
流浪の研究者アルマデルも召還魔術を極めようと修行の道に邁進していた。
研究の末辿り着いた結論として、多くの成果を齎すために、彼が使役するのは悪魔に限定した。
人は欲の塊でもある、人の欲を悪魔は利用し、人の望みを叶えたりする。
望みを叶える代償として、命や魂を供物に捧げなければならない制約はあるが。
召還魔法の力があるアルマデルでも、生きて生活しなければならない。
冒険者登録をしているが、彼はどこのパーティーにも属していなかった。
そうなると収入的に逼迫して生活は困窮する。
そんなアルマデルに目を掛け、パーティーに招き入れた者がいた。
アグバムとリュックだ、正体はバウソナとヘンモレドスであるが。
悪魔使いアルマデルはアグバムとリュックの敵の命を悪魔に捧げ、事を有利に運ぶ。
「兄貴、今日はどの依頼を受ける?」
「そうだなぁ……、トロール退治の報奨金が魅力だな、一匹につき金貨5枚か」
「何人くらい冒険者集めようか」
「10人もいれば御の字だろう、そしていつものようにな……」
アグバムとリュックはトロール退治を受け、冒険者を募集した。
彼らは、他の冒険者が尻込みするほど困難な依頼を受け、必ず帰還すると言われている。
彼等に付き合えば、必ず帰還する者達だから、自分も依頼達成の旨みに与れるだろうと応募する者が後を絶たない。
やがて集まる冒険者達。
戦士、魔術師、狩人、シーフと職業色々な者達が集まった。
報酬は成功報酬の山分けという条件だ。
アグバム達一行はトロールの住み着く山の洞穴に出発した。
麓の街では、トロールの被害に悩まされ、冒険者ギルドに討伐依頼を出したのだった。
「どうだ? アルマデル」
「ふむ、これくらいなら良いだろう」
問題の洞窟に一行は潜っていく。
洞窟は天然の洞窟のようだ、ならトロールはどこかから流れて来て住み付いたのだろう。
先頭で松明を持つシーフが斥候役を務める。
シーフが先頭にいれば、罠の解除やマッピングに役立つからだ。
最後尾には、アグバムとリュック、アルマデルが殿を務めている。
洞窟に入って約一時間、トロールが巣食う広間に突入した。
20匹のトロールが、突然の侵入者達に驚き、攻撃を始め、前衛の方で戦闘が始まった。
アルマデルは冷静に状況を観察している。
背中に背負った鞄から、スクロールを取り出した。
スクロールには、召還の魔法陣が描かれている。
誰もが、魔術師が魔法攻撃を始めるものと思い、気勢が上がった。
「エロイム・エッサイム、我は求め訴える者なり、古の盟約に従いマモンよ出でよ」
召還魔法が発動した。
洞窟内は赤黒く、硫黄の匂いが混ざる生臭い霧に包まれ始める。
暗く赤い光とともにトロールと冒険者達の間に、召還されてきた者が漆黒の炎を纏い姿を現す。
何種類かの獣と人が、ドロドロに溶け合ったような姿の醜悪な悪魔が姿を現す。
「我の目の前の者達の命と魂を贄とし、トロールの命を刈るべし」
マモンは腐臭のする口臭を吐きながら応える。
〔心得た〕
「「「な!」」」
前方で戦っていた冒険者たちは絶句するしかない。
出現した悪魔に戦いを挑むが、無駄な抵抗にしかならない。
誰の剣も槍も攻撃魔法すら、悪魔マモンに一撃を加える事が出来ない。
まるで空気か影を相手にしているような感触だ。
だが、悪魔マモンの腕は確実に冒険者たちの命と魂を引き剥がし、刈り取っていく。
ブチブチブチという音が聞こえるような感じで、一人、また一人骸が増えていく。
全員が絶命するまで、時間は掛からない。
誰一人苦渋の声を上げる事が出来ずに死んでいく。
振り返る悪魔マモンの手により、今度は20匹のトロールの命まで刈り取られた。
「ふん」
アグバム達はトロールの頭を落とし、討伐の証を作り始める。
『どんな困難な依頼でも、必ず生きて帰る』と言われているアグバム達の秘密はこれである。
募集した冒険者など、アグバムが稼ぐための生贄に過ぎない。
街で討伐成果完了の報奨金を受け取るアグバム。
彼の心には、罪の意識という物は存在していなかった。
アグバムにとって、仲間であるリュックとアルマデルの命以外、何の価値も見出してはいない。
そんな心の有り様はリュックとて同じで、元の名前を捨てた時に心まで捨ててしまったのかも知れない。
「兄貴、この街はそろそろ潮時だろうな」
「ああ、俺達の不死の噂がキナ臭くなりそうだしな」
どんなに困難な依頼でも、仲間を失いながらも必ず生きて帰ると言われている、
ギルドの英雄にも影が差し始める頃、アグバム達は敏感に察して餌場を代えて行くのだった。




