136「ノルナ姫」
ニホバル王子・ツェベリ・ルリア姫・キスナエレア・ノルナ姫・オーシアは
会場設営の現場を視察していた。
会場は広場の一角で野外会場になる。
「ステージの後ろの覆いを硬い物にして大きくすれば音は響きやすいかな」
「では、施工責任者の者に伝えます」
ツェベリが伝言を承った。
「んー、次は楽団メンバーに慰労に行こうかな、…ん?」
ノルナ姫がニホバル王子の後ろから服をつまんでいる。
「ノルナ姫様、何か?」
「あ、いや、何でもない」
ルリア姫は女の直感が働いてピンと来た。
「ノルナ姫様も兄ちゃんが好きになったの? ダメですよ」
「いや、そういう訳じゃ……」
「変な気持ちが起こったなら、ルリアにも相談して下さいね、兄ちゃんはルリアのものなんだから」
意外と独占欲の強いルリア姫だった。
ニホバル王子は少々ヤバイものを感じる。
ノルナ姫は言われるように、ルリア姫と相談してみる事にした。
ノルナ姫はアマゾネスの者だから、男兄妹というものを知らない。
ニホバル王子に懐いているルリア姫を見ている内に、自分でも解らないモヤモヤを感じ始めた事。
今はルリア姫を羨ましいとは思っていない事。
「それはきっと恋が芽生え始めたんじゃ?」
「恋? 何だ? それは?」
「異性を好きになる気持ちです、そういう気持ちを持ってもらってはルリアは困ります」
「異性を好きになる? わからない、気色悪くない?」
「普通に誰にでも在る感情ですよ」
余計に訳が解らなくなるノルナ姫は、オーシアに聞いてみる事にした。
「姫様、人は誰でも異性を好きになる時期があるのですよ」
そういう感情があるから、アマゾネスの国にも子供が出来る説明をした。
戦う以外でノルナの知らない何かを、知りたい気持ちが湧き上がってくるものを感じていた。
恐らくノルナ以外の人は、皆知っている何かがある。
その何かを知るためには、行動してみないと解らないに違いない。
しかし、下手な行動を起こすとルリア姫と敵対する事になる可能性も感じていた。
武技ならルリア姫は、ノルナに敵わないだろう、それは判る。
仮にルリア姫を打ち倒したら、ニホバル王子はノルナに好感を抱かないだろう。
……ルリア姫って思ってもみない強敵じゃないか。
力で解決出来ない強敵はどうすれば良いんだ、解らない。
「オーシア、力で敵わない相手には、どうすれば良いんだ?」
「相手の力を削ぐか、逆に味方にする方法が考えられますね」
戦術以外に戦略の事をオーシアは語ったつもりだった。
戦いは正面から力押しをすれば、必ず勝てるという物じゃない。
敵の戦力を封じ込め、こちらが有利に戦う方法を考えなければ、勝てるものも勝てなくなる。
そのために謀略で敵の戦力を削いだり、地形を利用したり、陣形が考え出されたりして来ている歴史がある。
「うーん、戦略かぁ」
オーシアの言葉に従うなら、面倒臭い手順だが、ノルナはルリア姫と友達になれば、
ルリア姫はノルナの味方になって、事は有利に進むに違いない。
ノルナはルリア姫と友達になる事にした。
『将を射んと欲すれば、先ず馬を射よ』を実行に移さなきゃ。
「ルリア姫様は、王族なのに何故ニホバル王子様の事を『兄ちゃん』と呼ぶんだ?」
「ルリアも以前は『兄上様』と言ってたよ、人前や父上・母上の前だとそう言うけど、気心の知れた仲間内だと『兄ちゃん』を使うよ。『兄ちゃん』という言葉は身近に感じられて、ルリアは気に入ってるの」
「『兄上様』『兄ちゃん』うん、そうだなルリア姫様の言う通りだ」
「ルリアを呼ぶ時には、姫様は要らないよ、お互いに姫様付けしなければ距離が縮まるでしょ?」
「ルリア」
「ノルナ」
「本当だ、ルリアの言う通り、私達は友達になった気分だ」
「ノルナは素直な人だから、ルリアの味方になるなら、友達で良いよ」
「うん、それで頼む、ルリア」
急速に仲が良くなるルリア姫とノルナ姫。
以来、時々ルリア姫とノルナ姫が手を繋いでいる時を見るようになった。
どうやら腹の黒さは、ルリア姫が一枚上手だったようで。
「姫様にもやっと年の近い友人が出来たようで」
微笑ましいものを見るオーシアだった。
ルリア姫たちは街を観光しているシレラたちを探しに行く事にした。
広場の露店で買い食いしながら歩いていると、シータッドの街の子供達が、
ルリア姫とノルナ姫を見て、こそこそ話をしているのが聞こえてきた。
「あの冒険者の子、彼氏が変な服着てるの恥ずかしくないのかしら」
「よそ者は変人が多いのかもね…ふふふ」
ノルナ姫はいつも通りの戦闘服を着ているだけなんだけど、普段着とは言い難い。
「あ”あ”? 誰が彼氏だって? 私は女だ」
「「キャーーー」」
キレるノルナ姫。
子供達を殴りまわして泣かせてしまう。
「おいおい、君、やりすぎだぞ」
近くで見ていた少年達がノルナ姫に注意をしに来た。
「今度はお前らが相手か、手加減しねーぞ」
複数の少年達を相手に立ち回るノルナ姫。
「オーシア、止めなくちゃ」
キスナエレアが心配する。
「ヴァルキュリアは売られた喧嘩に負けは無い」
子供の喧嘩に大人の侍女は出ない様子。
「け! 思い知ったか」
ノルナ姫は少年達も叩きのめした。
ノルナ姫にやられた少年少女たちは泣きじゃくっている。
周りの見物人たちはノルナ姫とオーシアが、アマゾネスと知って誰も口を出せなかった。
「あれー、誰が喧嘩してると見に来たらノルナ姫じゃない」
シレラ達が集まって来た。
「あー、シレラ様、ノルナって強いんですよー」
ルリア姫は頼もしそうだ。




