135「シータッドの街」
ニホバル王子一行はザウィハーズを連れて次の『シータッドの街』へ向かっている。
馬車で五日の行程だから、皆体もなまってくる。
ツェベリ・キスナエレア・チズシア・オーシア・ノルナ姫は多少でも鍛えるために、
時々馬車の外で剣や体術の訓練に励んでいた。
「ミモ様、私と手合わせを」
「ええ~、しつこいでありますよ」
オーシアは諦めが悪そうだ。
いつまでも断りきれなくなったミモは、一回だけの約束でオーシアの相手をする事にした。
ガシャンをポンチョを脱ぎ、モーニングスターも下ろし、六本の腕を露わにする。
ミモの姿にツェベリ・キスナエレア・チズシア・オーシア・ノルナ姫の目は釘付けになった。
「では、参ります」
オーシアはファイティングポーズをとる。
互いに相手の手を払いながら、組み合う隙を狙い合う。
しかし、所詮二本の手じゃ六本の手を裁ききれない。
すぐに二本の手を封じられたオーシアの首と胴体に、それぞれ二つづつミモの手が掛かり、
ギルドレベルA級Lv.6ある実力者のオーシアなのに、簡単に持ち上げられてしまった。
振り解きたくても、両手は封じられているし、体を捻っても四つの手でホールドされている。
そのまま地面に落とされたら、パイルドライバーだな。
オーシアはギブアップするしかない。
「ふー、参りました。『ブレンダ』が負けるのがよく解ります」
ツェベリ・キスナエレア・チズシア・ノルナ姫は、始めて見るミモの実力に刮目した。
棒を持っての剣術でも、薙刀を持ってしても当然敵わない。
「私共の誰もミモ様には敵いそうにありませんね」
戦闘侍女隊隊長のツェベリが溜息を漏らす。
ツェベリだろうと、キスナエレアだろうと、チズシアだろうと、ノルナ姫だろうと、
誰がやっても二の舞になるだろう事は、想像がついてしまった。
それほどの実力者のミモは、戦うのが嫌いな平和主義者だったりする。
「ミモ師匠、何でそんなに戦うのが嫌いなんですか?」
不思議そうな顔でノルナが聞いてみた。
「だって、戦うのは怖いし、怪我すると痛いのであります」
皆呆れると同時に、勿体無いと思ってしまった。
そんなミモでも、仲間を助ける時には戦うのだが。
やがてシータッドの街が見えてきた。
草原の街と言われているが、農村地帯の街で、作物を荒らす害獣退治の依頼が多い。
周りには広大な麦畑や野菜畑が広がっているた。
山間部には柑橘類の畑が広がり、季節になると山に黄色い物が見えるようになる。
南の方には小さな湖があって風光明媚な所だ。
競馬競技場もあって、街の人は農耕用の馬を出して競うらしい。
この街での予定は、
【ザウィハーズ】リュート三重奏
(フキア・ウェフト・ベミブック)
オーガ女のドラマー
【ELF100】エルフの娘達の歌と踊り
【セイレーン歌手】
(パルテノペ・テレース・ライドネ・)
バックダンサー隊10名
を企画している。
ニホバル王子は到着早々ティンジェル街長に表敬訪問に行く事にした。
ティンジェル街長の館は、細々とした街中を抜け、小高い所に建てられている。
要人が訪れる都合だろうか、続く道の幅はニホバル王子達の馬車が通っても結構余裕がある。
「ニホバルさん、何でタリエルさんってあんなに変なの?」
珍しくノルナ姫がニホバル王子に話し掛けてきた。
心を閉ざしているから、傍目に見れば魂が抜けているように見えるらしい。
タリエル姫と仲の良かった兄、バウソナ王子の謀反の一件をノルナ姫に説明した。
「ふーん、そうなんだ、王家にはよくある話だと思うけど、私には心を閉ざす気持ちが解らないな」
辛くて心を閉ざすのは弱すぎだと思うノルナ姫。
丁度良い機会だから、アサスウイアについて聞いてみた。
アサスウイアはヴァルキュリア又はアマゾネスの国だ。
その国には男性がいない、父親は見た事ないし、恐らく母親しか居ないんだろう。
いくら女しかいない国でも、女同士じゃ子供は出来ないから、いないはずは無いと思うけど。
「ノルナ姫様は父親がいなくて寂しくないの?」
ノルナ姫が言うには周りが皆いないから、そういうものだと思ってたと言う。
父親と一緒というのが考えられない。
ノルナ姫の父親は他国の誰かだろうけど、何とも思っていない。
ノルナ姫が年頃になったら、妹達と王権を賭けて戦うことになる。
皆ライバルだから、負けたからって心が壊れるのは考えられない。
ノルナ姫はナヨナヨした弱っちい姫じゃないのだから。
「心を閉ざしてるってんなら、ノルナが鍛えてやろうか?」
それは止めて欲しい、タリエルはガラスの心の姫だから。
しかしタリエルは一度、アマゾネスの国を見た方が良さそうな気がするな。
この街での公演期間は三日間を予定する事になった。
団員の皆を激励して旅立つ事になりそうだ。
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ノルナ姫は戦士として育てられ、オーシアからも鍛え続けられてきた。
ニホバル王子達と出会い、尊敬する母ウィラクバリラ女王より強いと言われているミモと出会い興奮した。
尊敬するミモに着いて行きたくなって、ニホバル王子に同行を頼んだ。
国から出て以来、男と話をする事もあるから、馴れないものじゃなかったが、
一行にいるニホバル王子の妹ルリア姫は「兄ちゃん」と呼び懐いている様子。
何やらモヤモヤする変な感情が湧き起こるのを感じていた。
ノルナ姫には男の兄妹はいない、だから兄という者を知らない。
「オーシア、私にも兄がいればルリアさんのような関係になれるのかな」
「さあ? それは私にも男兄弟がいないから解らない」
「何だろう、モヤモヤする変な気持ち、私はルリアさんが羨ましいのかな」
「ルリア姫様と同じ事をすれば解る事もあるのかも知れないね」
「私がニホバルさんに懐くのか? うーん、解らない、気色悪い気もするし……」
戦士として育ってきたノルナ姫には、理解出来ない事ばかりだった。
ひょっとして手の一つも握ってみれば、ルリア姫に近づけるのかも、そんな気もして来た。




