132「旅の一夜」
今回の巡航は、ダンヴァンの街→ロダザックの街→シータッドの街
→ホワピュルの街→クージルの街→ディヤの街→ヘルトルの街
のルートを計画している。
街は全て魔族領内の所ばかり。
御者は交代で御者台に座ってもらう事になっている。
馬車はあまり早くない速度で、安定的な走行を心がけていた。
皆は早々にベンチシートを片付け、キャビン内に敷き詰められた絨毯の上で、寝転がったり、
座り込んだりと自由に寛いでいるから、急に曲がったり止まったり出来ない。
ルリア姫もビエルもピルアーナも楽しそうだ。
キスナエレアとチズシアは、ハラハラしながら見守っている。
御者台に座っていない方の御者は馬車の周囲を警戒している。
街道を進んでいる最中、数回魔獣が襲って来たが、
窓からニホバル王子が、ウォーターカッターを発射して全て撃退した。
馬車の旅はやがて夕方を迎えた。
「今日はここまでだね」
街道横の崖にタリマがポータルを開き、五部屋のダンジョンを創り、
馬車ごと中に入り込み駐車した。
一部屋が馬車と馬を入れる部屋。
シレラ達の馬車は既にここに入っている。
一部屋は御者二人の部屋。
一部屋は荷物置き場。
一部屋はニホバル王子とツェベリの部屋。
残り一つの大部屋に女子が全員泊まる事になる。
ルリア姫・キスナエレア・チズシア・ビエルはこういう旅が嬉しそうだ。
ほとんど修学旅行のノリだろうな。
かなり姦しい。
ゲームでもあれば尚良いんだろうけど、生憎この世界には無いようだ。
旅慣れたシレラ・ミモ・タリマ・ピルアーナは大人しくしている。
もう一人タリエルは部屋の隅で大人しい。
ルリアたちと、はしゃげる日が来ると良いんだけど。
それにしてもタリマさんのダンジョンマスターの能力は凄いものだと感心する。
あちらの世界で旅をする馬車が大八車でも不便しなかったのは、これが理由だったんだな。
ツェベリ・キスナエレア・チズシアが収納していた荷物から、鍋と食材を持ち出し料理を開始した。
食事は女子の大部屋で、皆で鍋を囲んで食べた。
食事が終れば遊んで、後は各々雑魚寝をする予定になっている。
「タリマ様の能力はすごいです」
瞳を輝かせてルリア姫は興味津々で話しかけた。
タリマがその気になれば、もっと大きく複雑なダンジョンを創れると言う。
ルリア姫にはダンジョンの冒険は未経験だから、余計に興味を惹かれる。
「ルリア姫がダンジョン冒険したいなら、創っても良い」
「あ、それなら私が宝箱を用意しましょうか?」
ピルアーナも乗って来た。
「ええー!良いんですか? ルリアは嬉しいです」
タリマに1時間ほど冒険できるダンジョンを創ってもらった。
ダンジョンを楽しむ事が目的で、ピルアーナ謹製の宝箱と、弱い魔物も用意した。
ルリア姫・キスナエレア・タリエル姫・チズシア・ビエルの五人で
ダンジョンの冒険を経験してみる事になった。
「ルリアも冒険者になれるんですね? 楽しいです」
「ルリア様、くれぐれも気をつけてトライして下さいね」
ルリア姫付き侍女のキスナエレアが心配している。
「私がいれば、強い魔物がいても大丈夫ですよ」
ドラゴン人のビエルは自信満々の様子。
「タリエル様、良い経験が出来そうで良かったですね」
チズシアはタリエル姫を気遣う。
ダンジョンの入り口は、寝泊りする部屋のから出て、右側の端に出来ていた。
タリマがルリア姫達を遊ばせる目的のダンジョンだから、危険は無い。
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ルリア達が入り口を潜ると、上り坂になっていた。
周りの土の壁に光る物が混ざっているから、薄暗くても暗闇ではない。
松明などの道具は要らない様子。
坂道を登りきると、前方に少し高い位置に穴が見える。
「ルリア姫様、あの穴に入るには段差を登らなければなりませんね」
「行きましょー、面白いですー」
胸の高さほどの段差を登り、横穴に入り込む一行。
横穴をしばらく行くと、穴は三方向に枝分かれしている。
「これは、マッピングしないと迷いそうですね」
キスナエレアが鞄から紙とペンを出してマッピングを始めた。
「ダンジョンってこうやって冒険するんだー」
ルリア姫はマッピングというものをキスナエレアから学んだ。
一行は三方向の内、右の方へ行ってみる事にした。
穴の先は小部屋になっていて、宝箱があるのを、先頭にいたルリア姫が見つけた。
「あー、宝箱です、何が入っているんでしょう」
本格的なダンジョンだと、罠の危険性に注意しなければならないが、
このダンジョンはアトラクションだから、心配は要らない。
宝箱の中には、人数分の冒険者用の服が入っていた。
「服ですね、これならダンジョンの中で汚れを気にしなくても済みますね」
チズシアの提案で、一行はこの部屋で着替えをする事にした。
女しかいないから、恥ずかしがる必要は無い。
着替えた服は、キスナエレアが袋に入れて持ち運ぶ事にした。
今来た穴を出て真直ぐ行けば、左の穴に行く事になる。
左の穴の先にも、小部屋があり、中には宝箱がある。
ルリア姫はさっそく宝箱を開けた。
宝箱の中には、人数分の小ぶりな剣が入っていた。
「今度は剣が入っていましたー、これで魔物と戦えますー」
ルリア姫は嬉しそうに皆に剣を分配した。
この穴はこの小部屋で行き止まりの様子。
一行は来た穴を引き返し、出た所で、残りの穴に入って行く。
先はしばらく迷路になっていて、行ったり来たりを繰り返す事になった。
「ダンジョンの冒険って面白いです」
「ルリア姫様、本当のダンジョンは危険ですから、同じ様に考えませぬように」
キスナエレアはしっかり注意をしたが、実際に危険を経験しないと身に染みないかもしれない。
マッピングでは、進行方向の左側に部屋がある様子。
一行は小部屋に入ってみた、小部屋の中には、土で出来た小柄な魔物が五匹いる。
ゴーレムと言うほどの物じゃなく、リビングスタチューかも。
それぞれ手に持つ棍棒で襲ってきた。
ルリア姫もタリエル姫も、それなりに剣技を習っているから相手は出来る。
一行は先程手に入れた剣で、リビングスタチューと戦った。
剣で突いたり斬ったりした程度では、リビングスタチューは止まらなかった。
「えい、えい」
ルリア姫は剣を振るって何とかリビングスタチューを倒しきる。
棍棒でいくつか打たれたが、怪我をするほどではない。
一撃で倒しきれないリビングスタチューだから、皆少し梃子摺ってしまう。
倒しきれないのが一匹、タリエル姫にも襲い掛かる。
普段は感情が無いタリエル姫でも、自己防衛本能は残っている。
反射的に剣を奮い、襲ってきた一匹を倒して見せた。
「ああ、タリエル姫様、良かったです、十分に戦えましたよ」
自発的に戦ったタリエル姫を見て、チズシアは嬉しさで目が潤んでしまった。
リビングスタチューがいた部屋で宝箱を見つけた。
宝箱の中身は全員分の綺麗な腕輪が入っていた。
「どうやら、ダンジョンはここで終わりのようですね」
キスナエレアがマップを見ながら確信した。
ここまでで小一時間のダンジョンだった。
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「兄ちゃん、タリマ様のダンジョン楽しかったです」
嬉しさで興奮したルリア姫が、眠そうにしているニホバル王子に話している。
「そうか、良かったなルリア、シレラ様たちにお礼を言うんだぞ」
「はい、兄ちゃんといると、こういう経験が出来るからルリアは好きです」




