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130「タリエル」

「タリエル……、元に戻っておくれ…」


心を失くしたタリエルを見て悲しむシャルナ。

何度もタリエルに語りかけているが、声をかければ振り向きはする、

しかし心を閉ざしているタリエルからは反応は無い。


普段は部屋に備え付けられているベッドに座り込み、動く事をしない。

食事の時には、お付の侍女チズシアが勧めなければ、自発的に食事もしない有様だった。


「シャルナ、いつかは心を取り戻してくれる日も来るかもしれません、希望を捨ててはいけませんよ」


「アビスナ王太后様、有難う御座います」


かつては複数の王妃がいた時、王妃カーストが存在していた。

それでもカースト内で敵対していた事は一度も無い。

敵対は無かったけれど、それほど仲が良かったかと言えば、そうでもなかった付き合いの王妃達。



バウソナ達の国王暗殺事件以来、シャルナは市井の者に堕とされていたが、

ルリアのわがままで、自室軟禁から解かれたタリエルへの贖罪として、王城に迎えられている。

子を持つ母としてアビスナ王太后はシャルナの心労を分かち合いたいと願っていた。


シャルナは涙ながらにロンオロス王とアビスナ王太后に、

タリエルを救って欲しいと嘆願したのだった。

しかし、いくら嘆願されても、ロンオロス王にもアビスナ王太后にもどうする事も出来ない。

医者を呼んでも、心の病を治せる医師はこの世界には存在しないのだから。


「許せ、シャルナ、タリエル。侘びとして余達がそなた等を支えて進ぜよう」


「シャルナ、如何にすればタリエルに心が戻るのか、私共も考えておりますのよ」


「有難う御座いますロンオロス王様、アビスナ王太后様」


バウソナ・ヘンモレドスの謀反事件の事を知っているシャルナにとって、

タリエルが自室軟禁に処された事は反論できる立場に無い。

一番辛い時に、相談出来る者が一人もタリエルの周りに居なかったのが只不憫だった。




------------------------------------------------------------



アビスナ王太后は別邸を訪れニホバルにタリエルの問題を話す。

しかし、それはニホバルにとっても難しい問題だ。

タリエルだってニホバルの兄弟の内、力になりたくない訳じゃない。

しかしタリエルの問題も知っている。


事はタリエルに心が戻れば、それで全てが良いのかと言えばそうでもない。

様々な問題が付随して戻って来るだろう事は、想像に難しく無い。

それら問題を一つ一つをどうやって解決して行けば良いのか。


元々バウソナ・ヘンモレドス・タリエルはニホバルを見下していた。

王妃の序列も一時落ちたアビスナの子供ルリアも見下していた。

しかし見下していたニホバルが、バウソナ・ヘンモレドス・タリエルより上の立場になった。

それを認められないバウソナとヘンモレドスが、謀反を起こしてしまったのだった。


そういう心因を解決せずに心を取り戻しただけでは、問題は表に出てくるだろう。

その問題を解決するにしても、心が無ければ取っ掛かりも掴めない。

どうすれば心を取り戻せるんだろう。




「ニホバル様、宜しいですか?」


ルノア養成所長が入って来た。

タマキ様からアドバイスが届いたと言う。


『岩戸開き』の逸話が話された。


高天原で起きた問題に天照大神様は進退窮まって、天の岩戸にお隠れになった話だ。

閉じられた天の岩戸の前で、天照大神様が興味を惹くように画策したのだった。

しかし天照大神様とタリエルには大きな違いがある。

タリエルには心が無いのか、動かないのか、恐らく自ら出て来る事は無いだろうな。


「ニホバル様、音楽の力を信じましょう」


ルノアが言う。


「心を閉ざしているだけなら、心はまだ在ります、

 閉ざしたり萎縮した心にだって、言霊はきっと届きましょう。

 音楽だって言霊の一種ですから、心に届く物も在るはずです」


なるほど、ルノアの言葉には納得出来る力がある。

ルノアのアドバイスを受け入れ、コンサート査察にタリエルも連れて行ってみれば、

環境の変化や音楽という刺激で、多少は違うかも知れないな。


アビスナ王太后の許可を貰って、しばらくタリエルも旅に連れて行くことにした。


「ルリアも一緒に行きたいですー」


こういう話になるとすぐにルリアが入ってくる。


今回の旅は、ニホバル、ルリア、タリエル、

ツェベリとキスナエレアに加え、タリエル付きの戦闘侍女チズシア、

お目付け役のドラゴン娘マネージャーの七名の予定を組んだ。

次に何処へ赴くか行動予定を決めなければ。



「ニホバル様、お客様が御出でです」ルノアから連絡が入った。


「やっほー、ニホバルさん、元気してたー?」


アビスナ王太后はさっそく畏まって挨拶をする。


「あらまあ、これはこれは、ようこそ御出で下さいましたシレラ様方」


案内されて入って来たのはシレラ、タリマ、ミモ、ピルアーナだ。


「また音楽関係で旅に出るんでしょ?」


「ええ、今回はタリエルの心の治療も考えているんですよ」


「心の治療ですか、それならタリマさんの力が要るかもしれませんね」


ピルアーナが言うには、ダンジョンマスターであるタリマは、

メンタルのダンジョンも影響力があると力説する。


メンタルのダンジョンと言うのは初めて聞く言葉だ。

もしかして何とか出来るのかな?

そう思って試してもらった。


「ん、やってみる」


タリマはタリエルの心に焦点を当ててダンジョンクリエイトを発動した。


思考の筋道を人は方向を選び、筋道を選択し、正解の道筋を求める。

時には袋小路に突き当たり、戻ってみたり、突破策を考え正解と思われる方向を選択する。

その思考の動き方は、ダンジョンの中を彷徨う者と動きは同じだ。

タリマのダンジョンクリエイトは、トラップを取り除き、思考の迷路を創り変える。



「……上手くいかない、この子心が動かない」


やはり何か心が動く切欠が無いと難しそうだ。

タエリエルは自分の思考のダンジョンの中を動かない。

動かない者は、結論というゲートに向かわないし、潜らない。


「旅の途中で切欠が見つかるかも知れないね、そしたらタリマの能力も通用するかも」


シレラ達も旅に同行する事にした。

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