125「ヘルトルの精霊使い」
年に一度大洪水によって中州に孤立する街、ヘルトルの街。
この街にザウィハーから移り住んだ一人の若者が住んでいた。
名前はヨーゼ。
ニホバル王子が多くの精霊を使っている事に強い感銘を受け、
精霊の研究に勤しんできた。
精霊は自由奔放の存在で、人の価値観とは違う感性を持つ。
そもそも滅多に人前に現れる事も無い。
そういう精霊の力を借り自分の力にする、もしくは精霊を使役する精霊使いという者がこの世界にいる。
やがて彼は精霊使いと呼ばれる師匠の下で学び、精霊使いになれた。
精霊の力を借りて依頼をこなす精霊使いではあるが、精霊を奪われる事もある。
先日も精霊使いと対決をして、自らに付けた精霊を奪われてしまったばかりだ。
今のヨーゼには、使役する精霊も味方する精霊もいない。
「精霊を手に入れなくちゃ…」
一口に精霊を手に入れると言うのは、非常に難しい事だった。
第一に精霊に簡単に出会う事はまず無い。
そこで他の精霊使いから、奪う方法が編み出された。
ヨーゼが街を歩いていると、精霊を連れた女性の旅の一行が目に入った。
「おお! あれは精霊? いや、ジンニーヤか」
彼女達の連れているのは単なる精霊ではなく、ジンニーヤに分類されるだろう。
ジンニーヤとは魔人とも、無属性の精霊とも言われる存在だ。
物語で聞く事はあっても、実際に見た者は殆どいない。
伝説上の存在とも思われ、実在を語る者もいない。
「ジンニーヤは本当にいたんだ」
冒険者姿の女性達は、冒険者で精霊使いではなさそうだ。
「という事は、主のいない野良の精霊か? 是非とも欲しい!」
一緒にいる理由は判らないが、精霊を奪わせてもらう。
ヨーゼは行動に出た。
呪符を使い、器物に精霊を封印し呪物にする秘術を開始した。
ジンニーヤを封印する呪物は街で買ってきた指輪だ。
一回目は失敗だった。
何か使命を持っているジンニーヤは簡単には封印できない。
「なるほどな」
何か使命を帯びてこの世界に顕現してるのか。
使命が何かは知らないが、都合上冒険者達と同行しているだろう事は察した。
ならば秘術を使ってジンニーヤの使命をリセットする。
別な呪符を取り出し、呪文を唱え効力を発動する。
術者の目で捉えたターゲットに呪文の念が飛ぶ。
念呪に取り付かれたターゲットの記憶は一部呪符の効力で喰われてしまう。
今回はジンニーヤの使命をリセットする事にあるから、使命の部分を食い尽くす。
そして二回目の秘術を開始する。
「あ」
ジンニーヤのピルアーナは指輪に吸い込まれ、封印されたのだった。
「ん?ピルアーナいない」
「後ろに着いて来てたはずなのに、人混みで逸れた(まぎれた)でありますか?」
「しょうがないなー、探さなきゃ」
シレラたちは、ピルアーナを探し始めた。
しかし何処にもいないし、宿にも帰って来ていない。
街について観光をしていたシレラ達には、ピルアーナが居そうな所の心当たりは無かった。
「まさか人攫いにあったとか?」
「ジンニーヤを攫える人なんているのでありますか?」
「ピルアーナー、どこー?」
ピルアーナからの返事は無い。
散々探し回ったけど、この日は結局見つからなかった。
◇
「ん? ここはどこ?」
見ると外から見知らぬ男がピルアーナを見ている。
「だれ?」
「私か?私の名はヨーゼだ、お前の主人となる者だ」
ピルアーナにとって、こういう感覚は昔に経験した事があった。
封印されたんだと直感できる。
壷の封印を解いてくれた少年の願いをピルアーナはまだ叶えていない。
しかし意識の中から、その使命はリセットされ消え失せている。
本能的だが、語りかけてくる男に良いものを感じない。
「私はシレラ達の所に帰りたいんだけど」
「考えておこう」
ヨーゼにはピルアーナの要求を聞くつもりは無い。
自分が使役するために捕獲して封印したのだから。
「考えてるなら、すぐに封印を解いて」
「それはまだ駄目だ、お前が私のものにならなきゃな」
「私があんたのものに? それはイヤ!」
「その抵抗がいつまで続くかな」
ヨーゼは捕らえた精霊に服従の秘術をかけ始める。
ピルアーナの意識はだんだん遠退て行く。
「そろそろ頃合かな? 試してみるか」
「出でよジンニーヤ!」
封印解除のキーワードに呼応して、ピルアーナは指輪から出現した。
「我は魔神ツヴァパードの権威を持って命令を下す者なり」
「何なりとお申し付けを…」
精霊は神には抗えない。
ツヴァパードは既にいない事をヨーゼは知らない。
あくまでも神の権威として、その名を使ったに過ぎないのだが。
ヨーゼの秘術によりピルアーナは従順な召使に成り果てていた。
「うむ、これで良い、術は成功したな」




