117「オーガの家」
シレラたちの馬車の一行は山道の街道を通っていた。
もう夕方にかかってきている、陽が落ちるまであと少し。
陽が落ちたら、辺りは真っ暗になってしまう。
その前に麓まで辿り着きたかったけど、今のペースじゃ無理そう。
「今夜は山の中で一泊かぁ」
辺りにはお泊りのダンジョンポータルを開くに良さそうな場所が無い。
街道の端は下りの崖になっていて、下からは木々が乱立しているばかり。
そんな風景が続くから、馬車を進めて来たのだった。
「どうしたもんかねぇ…」
「頑張って先に進むのであります」
暗くて馬車が崖下に転落したら困るし。
馬車を止めて皆で相談してみたけど、あまり良い案は出て来ない。
夕闇迫る街道の向こうから誰かが歩いて来る。
「おめさん方、宿に困ってるだか?」
優しい声がかかる。振り返って驚いた。
「「「「うわー! 鬼だ、鬼が出たー!」」」」
ミモ位の体格の良い人の姿で、大きな斧を担ぎ、頭に角が二本生えている。
「あー、鬼と言われても返す言葉も無いが…」
彼はオーガだった。
魔物でもなければ、妖怪でも化け物でもない。
魔物に近い種族かも知れないけど、ちゃんとした知性を持った種族だ。
しかも驚いちゃった私等に、怒る事はしないジェントルマンだった。
困ってた私達に、救いの手を差し伸べようと思っての事らしい。
彼の案内でバラーゼカの街に一泊する事になった。
バラーゼカの街はオーガの街で、林業を生業にしているらしい。
「確かにバラーゼカの街は木造の家が多いな」
さすが林業の町だ。
鬼のイメージって言ったら、岩で出来た家に暮らしそうに思ったりして。
彼の名前はボブガン。
山中で伐採の仕事の帰りに、困った私等に声を掛けたと言う。
私等の目的地を話すと、ザウィハーの王子の下で仕事をしている仲間がいると教えてくれた。
「ヤッタね」
ここで初めてザウィハーへの手がかりが手に入った。
彼が言うには、ザウィハーの王子は、各地でコンサートを開いているから、
街によっては情報を聞くに難しくないとの事。
たぶん、今までも街の長に聞けば教えてくれたかも、という言葉に私等は落ち込んでしまった。
……何で今まで聞かずに彷徨っていたんだろ。
しかもボブガンさん家で、夕食までご馳走になった。
彼の家には囲炉裏があって、串に差した魚を端っこに立てて焼いている。
川魚の塩焼きだと教えてもらった。
これは凄く美味しい。
「あの、これは宿と食事のお礼に」
ピルアーナが金の魚を差し出した。
……あ、ピルアーナ、魚を金に変えたな。
と言っても私等には、お礼に差し上げられる物が何も無いし。
「おお、黄金の魚の彫刻? こんなに高価な物をおらにくれるだか?」
ピルアーナが変えた魚は元に戻る事は無いだろうな。
「あんたら、夜中に家の外に出ると、熊に襲われる危険があるから、出ない方が良いだぞ」
親切に注意をするボブガンさん。
その晩、寝てると隣の部屋から、ボブガンさんと奥さんが、斧と包丁を研いでいる音がしている。
いや、悪い想像はやめておこう。
翌朝、起きると外がやけに騒がしい。
覗いてみると、ボブガンさんと奥さんが熊と戦っていた。
「たいへんであります! 助けなきゃ」
ミモが素早くモーニングスターを持って助太刀に走った。
いや、朝だからモーニングスターって駄洒落じゃないよ。
街の人も駆けつけて来ているが、まだ到着はしていない。
ボブガンさんは何箇所か出血しているし、服も破れている。
熊にやられたんだろうな。
熊は手負いになって、ますます凶暴になっている。
そんな熊に力で負けてないオーガのボブガンさん。
「やー」
ミモのモーニングスターが、ボグンと鈍い音がして、熊の脊椎を一撃で粉砕した。
追い討ちとばかりに、もう二三発打撃を入れる。
頭蓋骨も砕かれ、もんどりうって熊は絶命した。
「ハアハア、助かりましただ」
「あんた、無事でよかった」
倒した熊は二頭いたようだ。
一頭はボブガンさんと奥さんが既に倒した様子。
ボブガンさんの斧の柄は折れている。
彼の奥さんは山刀で応戦したようだ、幸い怪我は無さそう。
……しかしデカイ熊だね、大きさはボブガンさんの背丈と同じくらいはある。
もし夜中に襲われたら、果たして暗い中で応戦出来たかどうか。
「ボブガン、無事だか?」
「うお! こんなにデカイのが二頭も」
「こっちのは骨を砕かれて死んでるぞ、ボブガン、おめさんがやっただか?」
「とにかくこれは捌いて毛皮と食料にすんべ」
やがて到着した街の人達は、熊の解体に持っていってしまった。
私等はボブガンさんの奥さんに地図を書いてもらい、街を出発する。




