114「ツラージルの街」
街道なりに進むと、分かれ道が見えてきた。
左に進むと、海の街ツラージルが三日ほどの所にあるらしい。
どうやらザウィハーまではまだ遠そうだ。
途中で少しはマシな食事がしたいからと、ツラージルに寄る事になった。
ピルアーナが馬車を見渡せば、シレラ・ミモ・タリマの荷物は驚くほど少ない。
近場ならともかく、こんな装備でよく旅をして来たものだと感心した。
……野営の時、どうするつもりなんだろ。
やがて日は傾き、夕闇が迫りだして来た。
「今日はここまでだね」シレラが言う。
馬車は街道をそれ、草地に入り、小山の側に止まる。
タリマが小山の壁になっている所に手を翳すとポータルが開いた。
一行はポータルの中に入って行く。
「な、何ですか?これは」
ファビョリながらピルアーナが驚く。
「二部屋のダンジョン創った」とタリマ。
タリマはダンジョンマスターであり、何処にでもダンジョンを創る事が出来ると言う。
この能力のお陰で、彼女達は外での野営など一度もせずに、旅をして来た。
部屋の一つに馬車を仕舞い、もう一つの部屋で食事や寝起きが出来る。
入り口を閉めれば、獣も夜盗も入って来ない。
「何と便利な。ジンニーヤの私だって、こんな事は出来ないっすよ」
器物に閉じ込められる事はあっても、空間を創り出すのは無理だ。
荷車に載っていた毛布を下ろして床に敷く。
大体、下に敷いた毛布の上で食事をしたり、雑魚寝をする生活をしているらしい。
ミモは着ていたポンチョをドサリと脱いで隅に置く。
重そうな音がするのは、ポンチョの裏に6本も剣が縫い付けてあるから。
どうりで腰に剣を差している様子が無かった訳だ、腕も6本あるし。
腰に差したモーニングスターもゴロリとポンチョの上に置く。
シレラとタリマは腰に差した剣を外して隅に置いている。
ああ、皆、冒険者だから剣くらい持ってるよね。
丸腰の女性が冒険者やっている訳にも行かないし。
一人納得するピルアーナ。
「新鮮な食材はこれで最後ね、後は海の街ツラージルに着くまで我慢だ」
シレラが部屋の隅にある食料保管庫から野菜と肉を出して来た。
肉なら狩をして獲物を食べれば良いから、心配はしていない。
しかし野菜類が日持ちがしない。
全部を鍋に入れて料理する。
「あのー、皆さん新鮮な野菜で苦労しているんですか?」
上目遣いにピルアーナが聞いてみた。
「そうであります。旅の最中に毎日野菜を買う事は出来ないのであります」
「それなら私が力になれると思います」とピルアーナ。
いつの間にか彼女の手に新鮮な野菜が現れている。
「え? 一体何処から……」
「これが私のジンの能力なのです、ザウィハーへ一緒してくれるお礼です」
ランプの魔人、指輪の魔人、壷の魔人などなど、魔人は人の願いを聞いてくれる。
ある者は財宝を願い、魔人はその願いを叶える。
では、その魔人は何処から財宝を持って来たのだろう?
「私は何でも願う物に変えられるのです」
「じゃあ、生活必需品を買うお金も出せるの?」
「はいです」
ピルアーナが持っていた野菜は金貨になっている。
「う~ん、こいつも十分にチート野郎だね」
「まさか、その金貨は葉っぱにならないのでありますか?」
「私はタヌキじゃありません、葉っぱを望むなら、葉っぱに変えますが?」
「ん、今は野菜の方が良い」
食事を終えた一同はピルアーナに質問が再開した。
「ジンって道具から出てくる奴じゃなかったっけ、何で道を歩いてたの?」
「ハディゼキヌ領のユゲル君に、コンサートをまた観たいって頼まれたんですよ」
「ああ、それでニホバルさんを訪ねに行こうとしてたんでありますか」
さすがにピルアーナの力では、ニホバル一座を出せなかったようだ。
ジンやジンニーヤ達は、何も特定の品物から出てくる者じゃないらしい。
彼女達が物品に宿る事が出来るとだけいう事。
ニホバル王子がカンテラを火の精霊『ウラークル』の休憩所にしたように。
どんな品物も精霊やジンが宿らなければ、単なる品物に過ぎない。
精霊やジンが宿れば、それはマジックアイテムと呼ばれるようになるようだ。
この日から、シレラ達は食材に苦労する事は無くなった。
やがて一行は海の街ツラージルに到着した。
ハディゼキヌ領と違い、海の街ツラージルは遺跡の街だ。
海底に古代の都市が沈んでいると言う伝承がある。
宿屋のおじさんに聞いてみた。
小さな街ではあるが、漁業で生計を立ててはいないと言う。
造船業でやっているらしい。
「造船業なら、大きな都市の方が良いんじゃないの?」
聞くと、そうでもないらしい。
大抵の大きな都市は内陸部にある。
ここは、例えるなら、山間部にドワーフの街があるのと似たようなものだとか。
「なら魚料理は食べられないのでありますか…」
「いや、街の者が食べるくらいには魚を獲っているよ」
シレラ達一行4人は宿で魚料理を食べ、久しぶりにベッドで休む事にした。
翌朝起きたら、街がエライコトになっていた。
「クラーケンだー! クラーケンが出たぞー!」
普通、クラーケンと言えば、超巨大なイカだと思ってたけど、
超巨大なタコもいるみたい。
要するに、ウネウネする触手が沢山ある巨大な奴がクラーケンらしい。
超巨大な軟体生物だから、街の戦士達じゃ攻撃の決定打に欠ける様子。
「しょうがない、面倒みてやる?」
「ん」
シレラ達は崖下に向かった。
ダンマスタリマの力で、岸壁を大きなダンジョンにする。
「街の人、大丈夫でありますかね?」
岸辺を見ると、数百人の戦士達がクラーケンと戦っている。
さすがのミモも、あんなのと戦いたくなさそう。
沢山の触手ウネウネなんて、だれが好きになれるだろ。
「結構やられてる人がいるね」
人もやられているけど、さすがのクラーケンも無傷じゃない。
グチャ グニャグチグチグチ
崖下の穴を見つけたクラーケンは、穴の中に逃げ込んでしまう。
超巨大なクラーケン用の超巨大蛸壷だ。
「ん、これで良し、後はダンジョン初期化する」
ダンジョン消滅と共に、クラーケンも消滅してしまった。
後は街の人達が煩くなる前に、街を脱出だ、面倒事は苦手なんで。
シレラ達は次の街に向かう。




